123 兆候
「……知らない間に秋が過ぎた……」
初雪の日、空を見上げながらイビスが呟いている。
なにを言ってるのやら。充実した日々だったじゃないか。オレはしっかり覚えているぞ。まあ、銃を出してる姿しか覚えてないけどっ。
「……わたしの人生ってなんなんだろうな……?」
その答えは自分自身で出すしかありませんし、他人からもらうものでもありません。ほら、サボってないで銃を出しなさいよ。
「鬼ね」
「人です」
失礼なことをおっしゃる守護天使様だこと。
「代表。アルエット様とグリュー様がお越しになりました」
オレの仕事場となっている四阿にマルレインおねーさんがやって来た。
マルレインおねーさんは普段、新しく建てた傭兵館で仕事をしてもらい、重要な要件のときだけ呼びに来てもらってる。
「通して」
一応、傭兵館にも客間は造り、銃売買や商品販売はそちらでやっている。マルレインおねーさんが、だけど。
こちらに来るときはマルレインおねーさんでは手に負えない場合や、重要案件のときだけ。まあ、今日は来年のことを伝えに来たんだろうよ。
しばらくしてじーちゃんと孫がやって来た。
「すまんな、忙しいところ」
他から見たらオレは座って魔力回復ココアを飲んでるだけに見えるだろう。だが、付き合いが長いだけにオレがなにをしてるか察している。ってか、いろんなもの出してて察せないようでは無能もいいところだ。
「構わない」
席を勧めてお茶と茶菓子を出す。
「いつの間にか町とか、お前さんの行動は飛び抜けておるな」
川の向こう側はいくつもの建物が建ち並び、繁華街のように賑わっている。じーちゃんが言う通り、魔女の町とか呼ばれているよ。
……いじめかな……?
「ほとんど商人がやったこと」
仕組んだりはオレだけどね。
「そうじゃな」
可笑しそうにオレを見るじーちゃん。なにか吹っ切れた感じだな。なにかあったのかな?
「災害竜の件じゃが、来年、種蒔きの前に終わらせる」
「そう。わかった」
こちらの用意は終わっている。いつでもオッケーだ。
「それとな、少し気になる報告が上がっておるのだ」
聞きたくないです。と、言えたらどんなにいいか。オレの人生、不測の事態が多すぎます。
「災害竜が熱を放っているのだ」
「目覚める兆候?」
竜の生態など知らんし、トカゲと似てるかも知らん。が、熱を放つと言うなら目覚めると見たほうがいいだろう。
「わからん。だが、よくない兆候であることは確かじゃろうな」
まあ、存在自体がよくないもの。都合のよい望みなど求めたりはしないよ。
「カイヘンベルクのときと同様、各都市から傭兵団を集める。グランディール傭兵団は遊撃として頼むよ」
「わかった。前の約束、よろしく」
災害竜退治のメインは光の指輪を持ったアルイン貿易都市を持ったじーちゃんたち。グランディール傭兵団は裏方。退治には加わらない。抜け駆けはするけど。
「ときに、カイヘンベルクを吹き飛ばしたものが欲しいのだが、売ってもらえるだろうか?」
「欲しいと言うなら売る。銃の販売はできなくなるけど」
手のひらの創造魔法フル稼働中で、TNT的なものは創ってない。つーか、ちょっとトラウマっぽくなって残りはイビスのアイテムボックスに入れてあります。
「あ、いや、それなら諦める。銃の販売を止められたら困るんでな」
イビスの頑張りで銃での戦い方が確立……とまではいかなくても使用頻度は上がり、弾丸の消費も鰻登り。毎日千単位で売れている。
……イビスに優しい魔法をかける頻度も鰻登りだけどね……。
「それと亜人の件は進んでいるんだが、戦奴のことで手間取っておる。解放しても受け入れ先がないんじゃよ」
あ、そう言えばそんなこと言ってましたね。いろいろありすぎて忘れてましたわ。
「いき先がないならグランディール傭兵団で受け入れる」
手駒はいくらいても困らない。と言うか、手駒は増やさなければならない。もらえるものは遠慮なくもらいまっせ。
「それは助かるが、あまり良い顔はされんぞ」
「したいのならすればいい。その結果は己に返って来るのだから」
ケダモノにどう思われようがオレの心には届かない。ただ、オレの邪魔をするなら懇切丁寧に潰してやるだけだ。
「怖いのぉ」
「そう思うならリンとの関係を絶てばいい」
オレは恨んだりはしないよ。使えない道具は捨てるだけだからね。
「とんでもない。これからもわしらはお前さんと仲良くさせてもらうさ」
覚悟を決めたかのように爽やかな笑顔を見せるじーちゃん。孫はぎこちないが、オレとの関係を絶つつもりはないようで自分もだと頷いていた。
「そう。リンも仲良くさせてもらう」
じーちゃんや孫には貸しがある。返してもらうまでは死んでも離さないさ。




