115 チャンスかピンチか
夏が来た。渡辺◯里の歌が聴きたい季節である。
ラジカセでも創って聴きたいもんだが、異世界でも守らなければいけないことがある。脳内で流すことだけで満足しておこう。
「キャハハハ!」
「キャー!」
燦々と降り注ぐ夏の日差しの下、若い子たちが川でキャッキャウフフと騒いでいる。
「誰得だよ?」
少なくとも若い子たちは喜んでいるし、オレも夏を楽しんでるよ。
なにしてんの? と疑問に思う方々にお答えしよう。暑いのでお子様たちと川で遊んでいます。OK?
「……美女たちとバカンスしたかったぜ……」
文句を言いながらも創ってやったスクール水着を着て、コーラを自棄飲みするイビスちゃん。まったく、君にも困ったもんだ。
「久々の休日。文句を言ってないで楽しむ」
そんなんでは人生損するよ。いや、損しかない人生だけど、楽しむべきときに楽しめないんではつまらない人生にしてしまうぜ。
南国リゾートとは言えないが、飲み物も食べ物も前世に負けないだけのものを出した。まあ、年齢的にお酒はNGなので出してないが、君の希望したコーラは出したんだから下痢するくらい飲めや。
「あ~カル〇スが美味しい」
ちょっと濃いカル〇スが幸福と言うものを教えてくれる。トレビア~ン。
「代表。上議員のアルエット様がお越しになりました」
オレの秘書兼次席代表のマルレインおねーさんがやって来て、そんなことをおっしゃいました。
「誰?」
上議員? アルエット様? 誰よ、それ?
「わしじゃよ」
と、じーちゃんが現れた。
「そんな名前だったんだ」
「……お前さんとはかれこれ四年の付き合いになるんだがな……」
時が流れるのは早いのに、なぜオレの幸せは遠いんだろうな。ちょっと誰か教えてよ。
「名乗られたことない」
また、名を尋ねたこともないけどな。じーちゃんで通じたし。
「そう言われたらそうなんだが、普通、名前くらい調べるだろう。なにも隠してはないんじゃから」
「じーちゃんはじーちゃん。リンはそれで充分」
名前を知ったからと言って、名前で呼ぶことはない。これまでも、これからもじーちゃんと呼ばせていただきます。
「はぁ~。まあ、よい。少し、話がしたい」
「今日は休み。明日にして」
七歳児には休息が必要なの。なにも考えず、なにもしない日が明日も働ける原動力なの。
「マルレインおねーさん。聞いておいて。明日判断する」
横に寝そべるシルバーに跨がり、川へと向かわせる。
あ、ちなみに日傘の下でデッキチェアに寝そべってました。
夏の暑さと川の冷たさが気持ちいい。そう言えば、こんな緩やかな日を過ごしてるのは初めてだな。平和のありがたさを痛感させられるぜ。
手のひらの創造魔法で川に浮かび、お子様たちに纏わりつかれながらも青い空を眺める。
そのままうつらうつらしてたら完全に眠ってしまったらしく、目覚めたらシルバーの腹の下にいた。はえ?
「……やっと目覚めたよ……」
シルバーの腹の下から出ると、なにかイビスが呆れ顔。なんやの、いったい?
「その、ボスの鋼のような精神が羨ましいよ」
失礼な。オレの心は繊細な砂糖菓子でできてるって有名なんだからな!
「そんなことを言う脳内お友達は今すぐ消去したほうがいいわよ」
その前にオレの頭にいる堕天使を消去してやりたいわ!
クソ。せっかくの休日を不快にしやがって。この安らぎは金では買えないほど貴重なんだからな!
脱いでいたローブを纏い、スクール水着からいつもの服にチェンジする。
はぁ~。現実逃避はこれにて終了。現実へと目を向けた。
「なに?」
現実──じーちゃんがなんとも言い難い顔をしている。それはこちらだと言いたい。なんで休日に来るんだよ。空気読めよ。
「すまんな、休んでいるところを」
「いい。なに?」
世は理不尽で容赦なし。いつまでも愚痴ってはいられない。向かうと決めたなら全力で向かうまでだ。
……と言えたらオレはもっとストイックに戦えるんだがな……。
こっちとら軍人でもなければ政治家でもない。一般ピーポーだっつーの。毎日毎日常に戦いのことに意識を向けてらんねーよ。気が狂うわ!
って、こりゃ相当溜まってるな。ガス抜きしないと爆発しそうだわ。
「災害竜の件だ」
場所を四阿に移して要件を訊くと、そんなこと言われた。
……とうとう来たか。災害竜との対峙……。
「来年の春に計画が変わった」
はぁ? なんだって?
「……理由は……?」
「カイヘンベルクの件で傭兵が集まらない上に、お前さんが売り出した銃を手に入れたいと、都市会議が揉めて来年の春になったんじゃよ」
「…………」
「なにか、懸念でもあるのか?」
懸念は災害竜のことからありまくりである。ないと思えるヤツがいたら銃で撃ち抜いてやるわ。
「なぜ、災害竜はファンブル城塞都市から動かないの?」
災害竜はそこから動かないってのがどうも引っかかるのだ。
「竜は災害を起こすが、活動は短い。一度動いたら数年は動かないときがあるから、それだろう」
まあ、竜の生態など知らないから否定はできない。が、どうも気になってしょうがないのだ。
「……これはチャンスかピンチか。神はどちらに味方するのやら……」
もちろん、オレは神などに願うつもりはない。己の運命は己で切り開いてやんよ!




