100 銃
「ボス。誰も銃に関心を示してくれないのだが……」
「商品を並べただけで売れるなら商人は莫大な富を得てる」
ましてや銃を知らないんだから鉄の塊にしか見えないよ。
「プレゼンした?」
「わたしには無理だ。代わってくれ」
それこそ無理だよ。オレ、そんなに銃に詳しくないし。
「素人でも使えるものにしたから頼むよ」
ってか、逆に素人にも使える銃とかヤバいだろう。
「リボルバーにショットガンだ。銃と無縁なボスでも知っているだろう?」
「まあ、そのくらいは」
詳しくないとは言え、元男の子。そのくらいは知っている。
「リボルバーなんて教えるのに三十秒もかからないし、ショットガンも一分で充分だ」
いや、使い慣れた君にはそうだろうけど、使ったことがない者には三十分くらいかけて教えろや。武器なんだからよ。
って思ったけど、別に各部名称を覚えるワケじゃなく、弾を入れて引き金を引けば弾が出る、と言った動作を覚えるくらいで、イビスが言った時間で理解することができた。
もちろん、動作を覚えただけで使いこなせるまでにはいたってないが、あとは数をこなせばそれなりに使えることだろう。
「うん。やっぱり銃は広めよう」
罪悪感? 悪いな。神との邂逅のときに忘れて来ちゃったよ。大事だってんならちょっと神のところにいって取って来てくんね? あ、ついでに中指を立てて来てくれると助かるわ。
「広めるって、配るのか?」
「そんな慈善事業はしない。高値で売るに決まってる」
タダで救えるほど世界は安くはない。血で払いたくないのなら金か魔力を差し出しやがれ。
「……その揺らがない信念が恐ろ頼もしいよ……」
残念ながらオレの信念は臨機応変。都合が悪くなれば光の速さでチェンジします。
「まあ、すぐにそれほど普及するとは思えないけど、銃を認識させておくべき」
説明させられるのに時間を取られるのは面倒臭いんだよ。他のヤツに訊け、だ。
「認識させると言ってもどうするんだ?」
「銃は武器。戦うための道具。なら、戦っている者に知らしめるのが早い」
ちょうどよくカモが来た。アレから攻略しますかね。ウヒヒ。
「……悪い気配が漏れてるぞ……」
それはやる気と言うんだよ。
傭兵会館のハイル館長と現役傭兵だろう数人がやって来た。いらっしゃいませ~!
「わしらも見て構わないか?」
「いい。傭兵に必要なものもあるから」
回復薬に非常食、多機能ベスト、小容量のアイテムカバン等々、カイヘンベルクでの経験を活かしたものを取り揃えてみました。
「おいおい、こんな希少なものまで売ってるのかよ!?」
「マジかよ!? 大都市カールゲンでもこんなもん売ってねーぞ!」
「回復薬ありすぎだろ!?」
「クソ! 金が足りねー! 誰か会館にいって金と魔石をありったけ持って来い!」
繁盛繁盛大繁盛~! 苦労して創った甲斐があるってもんよ。あ、リリーちゃんのお陰でもあるよ。だからそんなに睨んじゃイヤン。
「どう? いいものでしょう」
「よすぎて頭が痛いくらいだ。これを知った他の傭兵団に恨まれるぜ」
でも、譲る気はないんでしょ。アイテムカバン、二つも買ってるし。
「まだまだいいものはある。リンのお勧めはこれ」
と、リボルバーの銃とショットガンを見せる。
「もしかして、銃、か?」
「知ってるの?」
マジで!? 時代はそこまで来ちゃってたの?!
「帝国でマスケットなる銃が出回っていると聞いたな」
なんとも優秀なヤツがいたもんだ。こんなふざけた世界で生き残るばかりかマスケット銃まで作るまで至るとは。オレも見習わなければいかんぜよ。
「それをさらに発展させたもの。撃てる回数も威力も違う」
いや、マスケット銃がいかほどのものかは知らんけど、二十世紀の武器が負けるはずがない、はず。
「これはリボルバー銃」
なんて名称かは知らんし、そちらも銃の名前なんて重要視しないだろうからリボルバー銃でよろしかろ。
「イビス。これでなにが倒せる?」
「当たる場所にもよるが、人を殺せるには充分すぎる威力はある」
ダーティーなハリーさんが持ってたもんに似てるが、アレなら結構な威力じゃね?
「撃てるのは六回。近距離なら鎧を纏った兵士でも充分に殺せる」
「護身用でもいい。複数人に持たせて一斉に撃てば熊でも倒せる」
いや、知らんけどね。
「……銃なんて役に立つのか……?」
「帝国が役に立たないものを作ると思う? そう思うならベルホンに未来はない。付き合い方を考える必要がある」
先を見る目がないヤツと一緒にいたら足手纏いでしかない。速やかに淘汰されてください、だ。
「あ、いや、銃など無縁でな、よくわからんのだ」
「なら、銃がどう言うものか見せる。明後日、興味があるならここに集まって」
わからないものは買えないと言うならわからしてやろうじゃないの。実演販売やっちゃうよ~。