調教
吉野さんは俺の足元にすがり付き、顔を擦り寄せ呻いていた。
俺は彼女の頭から静かに手を離し、冷ややかな目で見下ろして言う。
「じゃあさ、吉野さん。君が勝手なことをしないように躾けないとね」
「躾……って?」
俺はしゃがみ込むと、吉野さんの顔に寄せて笑ってみせた。
(……これでいいんだよな? 弱気な顔を見せたら、また見下されて逃げられてしまう)
心臓が嫌な鐘を鳴らしているのを必死に押し殺す。
「今朝みたいなことをされたら困るんだ。俺が、あなたを飼うんだから、躾が必要でしょ?」
「え?」
「今日から俺が、命令するね」
吉野さんの顔が固まった。
以前の関係に戻ったら、俺はただの身代わりに逆戻りだ。
引き下がるわけにはいかない。
静かに低い声を作って言い放つ。
「返事」
「……はい」
「じゃないよね? それは人間の言葉。ペットは動物の声で鳴かなくっちゃ」
自分で言っておきながら、思わず顔がニヤけてしまいそうになる。
(バカみたいじゃないか、俺……。こんなの、調教として成立してるのか?)
もし笑い飛ばされでもしたらどうしよう、という不安が脳裏をよぎる。
しかし、吉野さんは俺に視線を合わせたまま、悔しそうに唇を噛み締めていた。
……これは、恥ずかしがっているのか?
効いているのか?
勢いでSの振りをしてみたが、自分の中のハリボテ感は拭えない。
「……っ。……ニャン」
従順に従う吉野さんを見ているのは、確かに異様な気持ちよさがあった。
だけど……まだ足りない。
吉野さんを完全に落とし込むには、もっと踏み込まないと。
「プッ。へぇ……あんた自認が猫なんだ。まぁいいよ。……じゃ、脱いで」
「は?」
指示を一度でも撤回したり、怯んだりしたら、途端に見透かされて舐められそうだ。
手汗を握りながら、必死に冷酷な主人を演じ続けるしかなかった。
「……じゃないよね?」
「……ニャア」
「うん。じゃあ、今朝みたいに脱いで」
吉野さんは自らの下半身を見下ろしている。
ぎこちなく制服の裾を持ち上げると、わざと隙間から白くて小さな下着を覗かせた……ように、俺には見えた。
ドキッと心臓が跳ねた。
「これを……ですか?」
「ねぇ。俺が指示したら、一回で聞こうね?」
「……はい」
「違うよね」
「ニャン」
吉野さんは立ち上がると、極力脚を上げず、内部を見せないよう片足ずつ下着を脱ぐ。
脱ぎ終わると、短いスカートの裾を気にする素振りをしながら、短く、「ミャ」と鳴いた。
吉野さんの濡れた瞳が、より上の刺激を求めている——そんな気がしていた。
俺のハリボテの威圧に怯えているんじゃない。
もっと恐ろしい何かに引っ張られているような……。
だから——俺はさらに攻める。
「じゃあ、行こうか?」
「えっ……行くって、どこへ?」
「……頭悪いな。もう忘れた? 俺の指示は一回で聞こうね」
俺は感情に抑揚を付けず、ゆっくりと言う。
「今から散歩に連れて行く。分かった?」
「……で、でも……見えちゃいます」
「いいよ別に。……ほら、行って。返事を忘れないで」
「……ニャン」
廊下を通り、向かったのはグラウンド脇の防球ネットの陰。
夕日に照らされたグラウンドでは、サッカー部が声を張り上げて練習に励んでいる。
その中心にいるのが——霧山だ。
「着いたよ。……ほら、霧山くん」
俺は腕を伸ばし、指で指し示した。
吉野さんが釣られて見る。
「イヤ! 甲斐くんここは……」
口籠りながら、上気したように頬を染めた。
「吉野さん、今から霧山を見ながら、自分で触って」
「え……?」
(さすがに外では危険すぎるか……?)
一瞬、後悔が口をついて出そうになる。
だが、夕暮れ時。
明暗の境界で、闇に紛れてしまえばバレないはずだという身勝手な打算で自分を言い聞かせた。
「制限時間は五分。五分以内に自力でイッたら、今日のところはこれで終わってあげるよ。……イけなかったら、お仕置きだけど」
「お、お仕置き……?」
吉野さんの喉が、ゴクリと動いた。
期待しているのか……?
「サッカー部の部室で、両脚広げて待機。でも吉野さんは副会長だし、恥ずかしかったら顔だけは隠してもいいよ」
「っ……!」
「想像した? 興奮するでしょ?」
「……ニャン」
「うん。……じゃあ、やって」
俺が指示を出した途端、吉野さんの指は迷いなくその一点を目指して動いた。
執拗に、激しくそこをまさぐっている。
興奮したうめき声が、小さく漏れ出ていた。
そして……。
「あ……っ……う、あ……っ!」
ガクガクと震えていた身体が、弓なりに傾く。
「……吉野さん?」
――わずかな時間で達していた。
吉野さんはスカートの裾を握り締めたまま、つま先をピンと伸ばして激しく身体を震わせ、ピークへと達してしまったのだ。
考える暇すら与えられなかった。
「……は、ぁ……っ、ふ……っ」
俺は完全に呆気にとられていた。
(嘘だろ……? なんでこんな一瞬で……?)
自らの内側から溢れ出すものを地面にポタポタと滴らせ、彼女は頬を真っ赤に染めている。
荒い呼吸を整えながら、吉野さんは恥辱に満ちた顔を両手で覆い、俺の足元へ力なく崩れ落ちた。
「……たった一瞬で……?」
「——おい、霧山! 集中しろ!」
突然グラウンドから、監督の怒声が響いた。
ボールをトラップしそこねた霧山が、足を止めてこちら——防球ネットの暗がりへ、視線を向けている。
(しまっ……見られたか!?)
心臓が跳ね上がり、全身の血が引いていく。
ほんの数秒、霧山の視線がネット越しに俺たちを捉えた。
俺の足元には、崩れ落ち、荒い息を吐いている吉野さんがいる。
バレたら終わる。
人生も、学校生活も。
——なのに。
恐怖と同時に、脳の奥底からドロリとした熱い優越感が込み上げてくるのを止められなかった。
あの『霧山』のすぐ目と鼻の先で、俺は吉野さんを足元に跪かせている。
俺の足元で屈み込み、身を縮める彼女を見下ろしながら、ゾクッとするような暗い愉悦を静かに噛み締めていた。
……。
変態具合、足りてますか?
この方向性でいいのかな?笑




