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校内No.1の清楚な副会長は、放課後だけ僕の足元に跪く。  作者: 毬藻 闇雪
第二章 境界線の欠落、放課後の戯れ
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始動



 第三章 精神の緊縛(マインド・ボンド)、深淵からの手ほどき





 引き戸に手を掛けて、開けるのを躊躇(ためら)う。


 扉の前に掲げられたマゼンタ色のプレート。

 その中央には、太い油性マジックで、荒々しく乱雑に同好会の名称が書かれていた。


【S(・)cience & M(・)ath……理数科学研究同好会】


 周りには電飾が施され、チカチカと怪しく点滅を続けている。


 部室棟に突如として現れたニューカマー。



(いや、張り切るのは分かるけど、限度を知らんのか……)


「あれ。これ……SとMだけ目立ってるけど……わざとかな?」


 文字を指先でなぞりながら、神坂先生の顔を思い出していた。


『万事任せておけ!』


 たわわなバストを張って、意味深に笑った意味がやっと判った。

 僕は小さく呟き、深いため息をついた。


(これじゃ、まるっきりSM倶楽部の入り口じゃないか……)





 ◆ ◆ ◆




 三日前。

 生徒会室――。



「……しかし、甲斐くんか吉野さんが部長だとして、メンバーは霧山秀人だけ。となると、一人足りませんね」


 デスクの端に尻を乗せ、長い脚を優雅に組んだ生徒会長の沖永は、申請書を机の上に放り出した。


(……こいつ、椅子に座るという概念はないのか)


 僕は隣に立つ吉野さんの横顔を見た。

 吉野さんは小さく肩をすくめて、ウインクする。



(……え、何の合図?)


 沖永は険しい顔で腕を組み、頭を振った。


「あと一人メンバーを見付けるまでは、発足自体を見送り――」

「私が入りますよ!」


 生徒会予備室の扉が勢いよく開き、会計の村木が入ってきた。


「村木来夢(むらきらいむ)、2年特進。よろしく、甲斐部長」


 村木は丁寧に切り揃えられたボブヘアを揺らし、深く頭を下げる。


 沖永は小さく舌打ちを漏らすと、ギチッと奥歯を噛み締めた。






 ◆ ◆ ◆




 ピシー! ビシッ!


「……うっ!」


 ピシー! バシッ!


「はっ♡」



 静寂を裂いて、空間に鞭(ムチ)の鋭いしなり音が響き渡る。


 ぱちぱち、と静かに爆ぜるろうそくの小さな炎。


 赤くライトアップされた室内は、まるで怪しい儀式でも執り行われているかのような異様な熱気に満ちていた。


 扉を開けた瞬間に広がった異質な空間に、僕は息を呑み、しばらく声を失っていた。


「なっ!? な、何ですかこれは!!」



 素っ頓狂な声が僕の口から飛び出した。

 その狼狽(うろた)えた姿を満足気に眺めた神坂先生は、鞭を打つ手を止めた。


「ふふ……どうかしら甲斐くん? この防音装置、私の『お手製』なのよ。夜な夜なここへ通い詰め、壁一面に吸音材を貼ったの。鍵は厳重な電子ロック、扉は分厚い二重構造。ここでどんなに悲鳴を上げようと、外には金魚の欠伸ひとつ届かないわ」


 白衣を翻(ひるがえ)し、中の黒革ボンテージを堂々と誇示しながら、神坂先生が満足げに腰に手を当てた。


「……」


(発足してたった2日でこのクオリティ……建築業界に太いパイプでも持っているのか。別の意味のパイプなら分かるが……)


「よ、予算はまだ出ていないのですが……」

「心配するな。お前の出世払いだ」

「……出世できるか分かりませんので……」

「はっは! お前、面白いな。こっちへ来い、褒美をやる」


 神坂先生は鞭を高々と掲げて笑った。


「本当にすごいです、神坂先生……! これなら生徒会の巡回も完全に遮断できます」


 長机の前に座る吉野さんが、澄ました顔で感嘆の声を上げた。

 その隣では、村木が黙々と手元を動かしている。


 二人は生徒会の資料を持ち込み、ここで作業をするらしい。

 重要書類は持ち出せないが、これで生徒会と同好会を兼任できるという計算のようだ。


「神坂せんせい。ご褒美は、我らへ……」

「神坂女王様~」


 白ブリーフ姿の古井戸と石田が、切なそうな声で鳴いた。


 ピンヒールの神坂の足元に、四つん這いで両手をつき、腰をくねらせる。


 さながら女王と犬のテンプレートだ。


(何なんだ、このカオスは……)


 僕は再び絶句していた。


「でも、さすがに扉の色はピンクじゃなくて良かったです。そこまでいくと……」


 ここまで言いかけたとき、吉野さんと目が合った。しきりに首を振っている。

 僕が目を丸くして、吉野さんの口パクを解読しようとしていると……。


「なるほど。……盲点だった。扉の色をピンクにする必要性が出てきたな……」


 神坂先生が顎下に手をやり、思案する素振りを見せた。

 吉野さんに視線を戻すと、彼女は眉間にシワを寄せて怒った顔をした。

 ――その表情が、たまらなく可愛かった。


「……どうして古井戸先生と、石田先生がいるの?」


 僕は吉野さんの隣に腰掛けながら尋ねた。

 吉野さんも困惑した顔で首を傾げる。


「何だか知らないんだけど、古井戸先生が副顧問で、石田先生が顧問代理なんだって。もう申請を済ませてあるらしくて……」

「えっ!? だって、僕が顧問のお願いに行ったら、取り付く島もなかったのに!?」


 ピシーッ!


「うっふ。……甲斐よ、人生とは得てしてそういうものだ。うまく行くときはうまく行き、躓くときは躓く。そこに良いも悪いもなく、善も悪もない。恨むでないよ、流れとはそういう物だ……」


「うるさい! このブタが! 意味のないことを喋るでないわ!」


 神坂先生に叩かれ、幸せそうによだれを垂らしながら、石田は恍惚の中に果てた。


 ――教師の威厳も何も、あったもんじゃないな。


 僕はまたひとつ、世の中の理不尽を学んだ。


 ガチャリ!


 不意に扉が開いた。

 全員が息を呑んで、一斉にそちらを振り返る。



「ひろくん! おまたせ。俺が来たよ!」


 満面の笑顔で、汗だくの霧山が立っていた。

 白ブリーフの狂気を視界から完全にシャットアウトし、勢いよく走り込んで僕に飛びかかってくる。


 ぐちょぐちょのユニフォームから、熱い汗の匂いが押し寄せる。


 倒錯の放課後。

 新たな青春の1ページ。


 波瀾万丈な新章が、今スタートした――。





『第三章 精神の緊縛、深淵からの手ほどき』スタートです!


 カオスさを増した放課後を、ぜひ楽しんでください!

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