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校内No.1の清楚な副会長は、放課後だけ僕の足元に跪く。  作者: 毬藻 闇雪
第二章 境界線の欠落、放課後の戯れ
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秀人



 教室に入ると、妙に熱い視線を感じた。

 窓際側の前方、斜め45度。


 朝日を浴び、茶色に透かした髪が、早朝の爽やかな風に揺れていた。

 教室の中で一人だけ光の粒子をまとい、輝きを放っている。


 量子力学の二重スリット実験ではないが、観測した瞬間に光の粒子が彼の背後に集まり、そこからクラス中に拡散しているのではないか――そんな錯覚すら覚える。


 これがオーラと言うものか?


 光源を背負っているみたいだ。



 陰キャの僕にだけ見えてしまう、心理的投影とでも言うのだろうか。


 陽キャという存在は、いとをかし。

 なんとも興味深いものであるな。



 〽――いとをかしきもの。

 〽『陽キャ』となむいふ存在。


 〽いみじく明るく、常に人の中に交じりて、笑ひの絶えぬ様子は、まことに興味深く、おもむき深きものに侍り。


 〽古き世にあらば、宮廷の宴にて華やかに舞ひ、人々の心をおもしろうなだむる才人とも言ふべきでしょうか。


 〽彼らの生態や、そのまばゆき光の陰にあるものなど、見つめれば見つめるほど味わい深いものがございますね。



 ……と、心の中の平安歌人が詠みあげてしまうくらいには、僕はこじらせている。


 今日は古典モードを発動させてしまった。昨夜の予習が、四時限目の小テストで発揮されるといいが……。


 ……って、違う。


 ――ダメだ、ダメだ。

 流されちゃ駄目だ。



 頭を強く左右に振ると、顔を上げた。

 霧山がこちらを見ながら、手招きしている。


「かーい♡おはよ」


 イケメンの笑顔には殺傷力があると、改めて思う。

 男の僕でもこれだけドキッとするのだ。

 もし女の子だったら、恋でもしてしまっていたに違いない……。



 特進棟と普通科棟の、中央に位置する靴箱の前で、吉野さんが意味深に告げた言葉を思い出した。


『秀人のやつ、何か企んでるかも。気をつけてね』



 掴みどころのない霧山のことだ、油断してはいけない。そう言いたかったのかもしれない。


 あの吉野さんの言っていることだ、用心するに越したことはない。

 僕は口を固く結び、カバンの紐を握り締めた。



 霧山は、椅子を後ろ前に座り、僕の机の上に腕を乗せている。


「おっはよ! ひろくん」


 霧山に、満面の笑みで迎えられてしまった……。


「おはよう……。あの、霧山くん」

「ん?」

 頬杖をついてニコニコとしている。

 仕草が、いちいちかわいい……。


「……ひろくんは、やめてください」

「いやです!」

 掌をこちらに向けて、静止のポーズをした。


 しかし、甘い顔は見せられない。

 ここはきっぱりと拒否の姿勢を貫かなければ。


「こちらこそ、いやです!」

「んー。じゃあ」


 考える素振りをしながら、上目遣いで僕をじーっと見つめている。

 ――やめてくれ、その顔は卑怯だ。


 男なのに可愛いと思ってしまうだろ……。


 自戒の意味も含め、頭を激しく振り回すと、ゆっくりと自分の席に座った。



 霧山は僕の一連の動作を見守ったあと、くすりと笑って、静かに言い放った。


「……ひろきゅん♡」


 ひ……。


 ……ひろきゅん?


 何だそれは?


 もしそれが、君の考え出した僕のあだ名だとしたら、断固拒否に決まっている。


 ……だが、それが通じる相手とも思えない。


 なぜなら、霧山は普通じゃないのだ。

 この瞬間でさえ、唐突に立ち上がり、大声で僕と吉野さんの秘密を暴露しないとも限らない。



 仕方なく僕は、最悪の選択肢の中から、よりダメージの少ない方を選ぶことにした。


「ひ……ひろくんで」


 顔を伏せたまま口籠(くちごも)る。


 究極の選択肢だった……。

 ひろくんとひろきゅん。


 そんな風に、僕は自分自身を慰めた。


「りょー!」


 霧山は、敬礼ポーズをして、舌をペロッと出しながら笑った。


 一体、いつのアイドルだ。



 ――ちなみに、僕には効いた……。





 〽 『陽キャ』といふ 不可思議なるは まさしくも 心にのぼる 猫の如きか


(ようきゃといふ ふかしぎなるは まさしくも こころにのぼる ねこのごときか)


【現代語訳】

 陽キャという本当に不思議な存在は、まさに(気まぐれに)私の心に飛び込んできて翻弄する、あの猫のようではないか。




 秋の空は高く、棚引く雲はレースカーテンのように繊細で美しかった――。





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