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校内No.1の清楚な副会長は、放課後だけ僕の足元に跪く。  作者: 毬藻 闇雪
第二章 境界線の欠落、放課後の戯れ
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処女



 僕と吉野さんは、別々に校門を出て、しばらく歩いた先のコンビニで合流した。

 そこでお互い飲み物を買うと、吉野さんが先に歩き、僕はその後を追った。


 たどり着いたのは、県立図書館の脇にある静かな公園。


 横並びに設置された二つのベンチ。

 吉野さんは左側のベンチの右端に座り、僕は右側のベンチの左端に座る。


 距離としては一番近い。

 けれど、決して同じベンチには座らない。

 第二の霧山のようなやつが、再び現れないとも限らない。用心するに越したことはないのだ。


 正面を向いたまま、互いの顔すら見ないその姿は、甘い放課後デートなどではなく、まるで秘密情報を取引する、海外ドラマのエージェント同士のようだった。


 僕は缶の冷たさを手に感じながら、正面の空間に向かって呟いた。


「まずいことになった……」

 予想よりもずっと、重く沈んだ声で話し掛けてしまった。

 これじゃ本当にスパイの密会のようだ。


 しかし、それに合わせるように吉野さんも、できうる限りの低く沈んだ声で返事をした。

「そうね」


 二人の間を、秋の風が流れていった。

 かさかさと枯れ葉を集めながら、ゆっくりと円を描く。

 周囲の木々も一斉に鳴り出す。


「まさか見られていたとは」

 俯いて、足の間に視線を落とす。

 そよ風に吹かれた枯れ葉が、小さく揺れていた。


 背後でパキッと、小枝を踏みしめるような音がした。

 僕は、弾かれたように振り向いたが、そこに人の姿は無かった。


「霧山くんは、異常に視力がいいから」

「……うん。そうらしいね。異常に……」


 ――視力がいい。


 ……えっ!?


 僕は驚いて、思わず吉野さんの方を向きそうになった。


「だから、距離を取るの。あいつ、遠くからでも口の動きで会話を読むから」


 ――何を言ってるんだ?

 僕は、前を向いたまま会話を続ける。

 もしかして……


「……知ってたの?」

「知ってたわ」


 淀みなく答える吉野さんに、少し釈然としなかった。


 どうして霧山のことを、こんなに知っているんだ……?

 もしかして、吉野さんと霧山は以前に――。


「霧山と、付き合ってた……とか?」

「違うわよ!」

「でも……」


 吉野さんは静かに告げた。


「幼馴染だもん」

「は?」


 幼馴染……?

 あの、僕たちの関係を、面白半分で覗き込んできた異常者が、吉野さんの幼馴染なのか?


「隣に住んでるの」

「えっ!?」


 吉野さんは、何でもない事のように、平然と話し続ける。

 僕は考えも気持ちも、追いついていけてないのに……


「毎朝、甲斐くんと待ち合わせてるでしょ? あいつ、いつも後ろから付いて来てるわよ」


 吉野さんはチッと舌打ちすると、ペットボトルのキャップをカチリと鳴らし、静かに飲み物を口に含んだ。


「……えっ? ……もしかして、今日も?」

「今日も。……と言うか、今も!」


 そして、吉野さんは徐(おもむろ)に立ち上がると、キョロキョロと周りを見回し始めた。


「秀人(しゅうと)居るんでしょ? 出てきなさい!」


 僕も周りを見回したが、人の気配はどこにもなかった。


 しかし吉野さんは、スナイパーのように鋭く辺りを警戒しながら、人の気配を探っている。

 狙いを定めたように、一本の木に躙(にじ)り寄って行く――。


 すると観念したのか、霧山が両手を挙げて、木の陰から出てきた。


「さーすが! あーちゃん鋭い!」


 霧山は、頭を掻きながら舌を出すと、悪びれもせず大声で笑った。


 吉野さんは、霧山の近くまで行き、その腹に向かって、力任せに殴りつけた。


 ドスッ!


 空手の構えで繰り出されたパンチは空を切り、霧山の鳩尾(みぞおち)にクリーンヒットした。


「ぐふっ!」


 霧山は腹を抱え、地面に膝を付く。

 避けることも出来ただろうに……マゾなのか?


 しばらく悶絶していたが、片脚ずつ立ち上がると、吉野さんの顔を見据えた。


「……痛った! 暴力反対!」

「邪魔したら殴るって言ったもん!」

「邪魔してない!」

「した!」

「してない!」

「甲斐くんに話しかけないで!」

「でも、俺も甲斐くんと話したいんだもん!」


 霧山は僕の隣に腰掛けて、笑いかけてきた。


「甲斐くんを脅したらダメって、言ったはずよ?」


 吉野さんは、真顔で霧山を睨みつけ、真剣に怒っているのに、霧山はずっとニヤけたまま、聞く耳を持たない。


「脅してないよ~。ねぇ、甲斐くん? 好きだから、からかっただけだよ」

「甲斐くんは、私のものだから」

「俺が先に見付けたのに!」

「たまたま、同じクラスになっただけでしょ!?」

「違うよ~。運命なんだよ。甲斐くんは、俺の運命の人だから!」


 吉野さんに冷たくあしらわれながらも、霧山の視線は、ずっと僕の横顔を見ているような気がする。


 気のせいであってくれと、心の中で願っていた。


「だってさ……あの数学競技会の時から、甲斐くんは、俺とあーちゃんの憧れの人だったでしょ?」


「秀人はずっと、女と遊び回ってたじゃん! 私は、甲斐くん一筋だったし……それに、まだ処女だもん!」

「あれは遊びだよ~。それに俺だって、まだ処女だもん!」



 何を言ってるんだ……この二人は。

 僕はもう、訳が分からなかった――。


 秋の終わりは、夕暮れが早い。

 冷たい風が、静かに吹き抜けていった。





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