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校内No.1の清楚な副会長は、放課後だけ僕の足元に跪く。  作者: 毬藻 闇雪
第二章 境界線の欠落、放課後の戯れ
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脅迫



「なぁ、お前……なんで、副会長と手を握り合ってたの?」

「……っ、なんのことだか……」

 表情はむしろ明るく好意的なのに、その目付きの鋭さとのアンバランスさに、激しく動揺してしまう。


「とぼけちゃってさ。……っていうか――。いま、イッてたよね?」


 耳元で落とされた低い声に、僕の背筋に冷たい汗が伝う。

 僕が必死に保とうとしていた理性の崩壊が、一気に加速していくのを感じていた――。



「――……っ!?」


 突然の暴露に、弁明の言葉すら喉に仕えて出てこない。


「壁に手をついて、小刻みに震えて息荒くして……ただ手が触れただけだよね? まさか妄想で? ってか、ホントに一瞬でイッちゃったの? どんだけ感度いいんだよ! アッハ!」


 悪気がないのか、根っからの陽キャか……鋭く抉る言葉の切れ味は強烈だった。

 心底、楽しそうに大声で笑うと、口の端をニッと引き上げた。


「そこ、濡れて気持ち悪いでしょ?」


 その場に立ち尽くす僕の全身を舐めまわすように見つめたあと、霧山はすっと視線を下げた。


「あ……いや……これは……」


 霧山は僕の下半身へ視線を落とし、じっと見つめていた。

 なぜか不敵に笑うその姿の異質さに、寒気を覚えていた。


 僕が抱く吉野さんへの歪んだ執着すら超えるような、底知れない不気味さ。

 背筋を駆け上がる冷たい悪寒に、僕は息をすることすら忘れていた――。




「あの日も――」


 にやけた霧山の顔が、間近に迫っていた。


「お前……吉野さんに、何かしたんだろ?」

「……は!?」


 遠ざかる歓声も、霧山の声も、薄い膜に覆われたように現実味がなかった。


「あれって、もしかして……」


 霧山の整った顔が、目前までスーッと寄ってきたかと思うと、フェイントのように、瞬時に耳元へ移動した。


(オ・ナ・○ー)


 その囁きが小声であればある程、神経を集中させ、耳を澄ませてしまうものだ。


 ……ゴクリ。

 僕は空気を飲み込んだ。


 霧山の胸元から漂う、スパイシーなコロンの匂いが、鼻腔にまとわりつく。

 目の前が真っ暗になった――。

 

 吐きそうだ……。



 脳裏に去来した、あの放課後。


 ――夕闇のグラウンドの片隅。


 物陰に吉野さんを追い込み、逃げ場を奪った状態で、自らの手で屈辱的な悦楽を貪るよう強要した、あの狂気の光景だ。


 まさか、あの現場を目視できていたのか――。

 いや、そんなはずがない。


「なんのことだか……よく分からない」


 僕は声を震わせ、誤魔化すように歩き出すのが精一杯だった。

 しかし、霧山は追い掛けてきた。


「甲斐って……吉野さんの何なの?」

「は?」


 キーンコーンカーンコーン……


 極度の緊張の中、助け舟のような始業ベル。

 生徒たちは駆け出し、それぞれの教室に入っていく。


「ほらー。お前たち、授業を始めるぞ」


 教師が、廊下を歩きながら声を掛けていく。

 だがそれさえ遠い場所の出来事のようだった。


「今日、部活休みなんだけどさ。放課後、時間あるよね?」


 不敵な笑みを浮かべたまま、霧山は僕の肩に腕を回し、そのまま教室の扉を開けた。


「遅れてすみません! ……ほら、甲斐くん!」

 笑顔で手招きする。


「早く席に着きなさい」

「はーい」

 霧山は教師に返事をすると、僕を振り返って親しげに笑いかけた。


「急いで、甲斐くん!」


 背中にそっと手を添えられ、促すように押される。

 そしてすれ違いざま、耳奥へ熱い息と共に囁き声が注ぎ込まれた。


「……放課後、待ってるね」

「…………」


 授業が始まっても、頭の中は真っ白なままだった。


 廊下で絶頂を迎えてしまった下着の、不快な感触。

 心臓を締め付けるような激しい恐怖。


 目の前の席に座る霧山の後ろ姿を、僕は、ぼんやりと眺めることしかできないでいた。


 どうする……?

 どうなる?

 ……脅しだよな。


 狙いは、吉野さんか?


 霧山の後頭部を、睨むように見つめていた。

 不意に、霧山がくるりとこちらを振り返る。

 驚くほど、爽やかな笑顔だった。



 教師の目を盗み、僕の机の端を、人差し指の爪先でコンコンコンと弾いた。

 そして、じっと僕の目を見つめながら、唇だけを動かす。


 口パクで、何度も、ゆっくりと――。



『お・ま・○・○・見・せ・て』



「……っ!?」

 ――一瞬で、血の気が引いた。


 静寂に包まれた厳粛な授業風景の中で、あまりにも不釣り合いな言葉――。


 僕の動揺をあざ笑うように、霧山は舌先を尖らせて、チロチロと動かした。


 僕は霧山に視線を合わせたまま、微動だにできなかった。

 その姿に満足したのか、にやりと笑うと、無言で前を向いた。


(コイツ……正気じゃない。ヤバすぎる……!)


 吉野さんへの執着なのか、それとも僕たちの秘密を弄んで楽しんでいるのか。


 激しい恐怖と怒りで、体内の水分が蒸発していくようだ。

 視界がぐにゃりと歪んで、何も考えられなかった――。



 放課後。


 静まり返った北校舎の階段の踊り場。

 逃げることは出来なかった。


 僕は指定された場所に、一人で突っ立っていた。


 やがて足音が近づき、霧山が姿を現す。


「呼び出した俺が遅れちゃって、悪いね」

 少しも悪びれた様子なく、にやけた笑顔で右手を挙げた。


 霧山は階段に腰を下ろした。

「……んで、まぁ。用件は分かるよね?」


 僕はこくんと、頷いた。


「てかさ。俺、スポーツ推薦だから、頭はそこそこなんだよね? ははっ。知ってるか?」

「……」

「いや、やれば出来るんだよ? 中学まで成績も上の下くらいで、上位20くらいには必ず入ってたし……」

「……」


「……でも、やっぱ強豪校ともなると、練習量も半端じゃなくてさ。俺みたいな体力オバケ? でも、疲れるよね、やっぱり」

「……」


「サッカーばっかりやってればいいって、ここに来たけど、そういう訳にもいかないじゃん? 勉強もやってないと、プロになれなかったとき、悲惨だよねー」

「……あの。霧山くん」


「あ。ごめん! 愚痴を言いに来たみたいになったね」

「……それで……」


「うん。……俺さ。視力、異常にいいんだよねー」

「……へぇ、そうなんだ」


 呼吸を整えることもできず、霧山の次の言葉を待つ以外の選択肢がなかった。


「甲斐くんって……吉野さんを脅してるの?」

「は。……ちが……」

「でも。エロい事、させてたよね」


 きれいに整った霧山の顔が、奇妙に歪んで笑っていた。


「息抜きっていうの、欲しいかなってね」

「息抜き?」

「そっ。まぁ、俺の場合は、女とヤルことだったんだけど……」

「……」


「それも違うかなーって思ってた矢先、君たちの現場、見ちゃったらさ……コ(・)コ(・)が疼いたんだよねー」

 そう言いながら、自らの腰に手をあてがい、淫らなリズムでくいっ、くいっと前へ突き出してみせる。

 行為そのものを模した不躾な身振りに、僕は息を呑んだ。


「えっろ……って、思った? プッ。さすがに、男には欲情しないか!?」

「……」

「……んー。じゃあ、本題ね」


 僕の額に脂汗が滲んでいた。

 喉がカラカラに乾いている。 


「……俺も。仲間に入れてよ」


 その言葉が引き金となり、膝の力が一気に抜けた。踏ん張りが利かず、崩れ落ちそうになる身体。


 ――ガシッ。


「おっと」


 倒れかける僕の身体を、霧山が力強い腕で引き寄せ、胸元でしっかりと抱き止めた。

 鼻先が触れ合うほどの至近距離。


 僕を見下ろす霧山の瞳に、凶気じみた熱が宿っているように思えた。


「危ないなぁ。気をつけてよ、甲斐くん」


 耳元で囁かれたその不敵な言葉に、目の前がクラクラした。






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