『第九話:町へ到着!……って、なんでみんな怯えて避難してるんですかぁ……?』
「あ、サレットさん見てください! あれが噂の町ですねぇ!」
「お姉ちゃん、おっきな門が見えるよー!」
リュックからひょっこり飛び出した『なぜか補充されていた高級イチゴキャンディ』を白ちゃんと分け合いながら、私たちは和気あいあいと街道を歩いていた。
『フン、呑気なものだ。……にしても紅、そのリュックからなぜイチゴ味が無限に出てくるのだ。我が本体(金属)にも少し甘い匂いが移っておるぞ』
「えへへ、サレットさんも一口舐めてみますかぁ?」
『舐められるわけなかろう! 口がないわ!』
そんな夫婦漫才(?)のような冗談を言い合いながら賑やかに歩みを進め、ようやく目的の町の大きな木門へ到着した……のだが。
「……あらぁ? なんだか、静かですねぇ……?」
本来なら商人や冒険者で行き交っているはずの門前は、まるでゴーストタウンのようにしんと静まり返っていた。
門番の姿すらなく、重厚な木門はなぜか半開きになったままだ。
「お姉ちゃん、誰もいないねぇ?」
「おかしいですねぇ……。皆さん、今日はお昼寝の時間なんでしょうかぁ?」
首をかしげながら町の中へと足を踏み入れる。
すると、建物の陰や二階の窓の隙間から、住民たちがカタカタと震えながらこちらを覗き込んでいる視線を感じた。
(ひ、ヒィィィッ……出たぞ、噂の『特級暗殺魔導師』だ……!!)
(本当だ……! 制服とかいう異国の魔導衣を纏い、片手には不気味に喋る呪いの黒い仮面……!)
(それに見てみろ! 聖なる白蛇の化身を暴虐な力で従え、巨大な白Tシャツとブルマーという屈辱的な格好をさせて使い魔に仕立て上げているぞ……!!)
そう、あの茂みで腰を抜かしていた行商人が、死に物狂いで町へ駆け込み、盛大に勘違いの噂を撒き散らしていたのだ。
しかもその恐怖の尾ヒレはとどまることを知らず、町を通り越して王国の城にまで速報で伝わっていたのである。
『……おい紅。何やら嫌な予感がするぞ。あちこちから異常な緊張感と殺気を感じる』
「えぇ? サレットさん考えすぎですよぉ。……あ、あそこに町の人たちが集まってます!」
広場の方を見ると、全身をガチガチの重装甲冑で固めた町の警備兵たちが、盾を構えてズラリと一列に並んでいた。彼らはガタガタと膝を震わせ、今にも泣き出しそうな顔で剣を構えている。
「あ、あのぅ! すみませ〜ん、この近くにおいしいご飯屋さんか、お宿はありますかぁ……?」
私が手を振っておっとりと尋ねた瞬間。
「ひ、ひえぇぇぇっ! 暗殺魔導師が呪言を唱え始めたぞーッ!」
「全軍構えろ! 命を捨ててでも城への侵攻を喰い止めるんだぁぁぁッ!」
『……ほら見ろ言わんこっちゃない! 完全に敵だと認識されておるではないか!』
「ふぇぇぇ!? な、なんでですかぁ〜!? 私、ただお店を聞こうとしただけなのにぃ……!」
白ちゃんは大きすぎるTシャツの裾をギュッと握りしめ、「お姉ちゃん、みんなとなかよくできないの……?」と悲しそうに目をうるうるさせている。
こうして、ただ美味しいご飯とお宿を求めていただけの紅ちゃん一行は、町中どころか王国全体を巻き込む「大パニックの渦中」へと躍り出てしまったのだった。
【第九話・完】




