『第十話:白ちゃんを傷つける者は、万死に値します――【装着】』
「全軍構えろーッ! 撃てえぇぇッ!」
極限状態に陥った隊長の悲痛な叫びとともに、パニックを起こした兵士の指から、一本の矢が手狂いに放たれた。
風を切る嫌な音が響く。
「あっ――」
ヒュンッ! と音を立てて飛来した矢は、私のすぐ隣にいた白ちゃんの、大きすぎる白Tシャツの袖をほんのかすかに切り裂いた。
「きゃっ……!?」
小さな悲鳴を上げて尻もちをつく白ちゃん。
怪我はなかったものの、破れた布地から覗く白く細い腕。そして恐怖に怯えてうるうると瞳を揺らす白ちゃんの姿が、私の視界に焼き付いた。
「白ちゃん……!」
カツン、と足音が響く。
私の世界から、あらゆる音が消え去った。
「……ゆ……る……さ……ないっ……」
私の声が一瞬にして低く、氷のように冷たく澄み渡る。
おっとりとした女子高生の気配は霧散し、その瞳には暗い漆黒の静寂が宿っていた。
「サレットさん……。私ならいいです……。ですが……私の大切な仲間を傷つけるなんて……」
私の影がゆらりと伸び、周囲の空気が圧倒的な重圧となって兵士たちを押し潰す。
「……万死に、値します……」
『紅ッ……いかん! 憎しみにとらわれるな! 感情に呑まれれば、我が呪いに身を滅ぼされるぞッ!』
抱えられたサレットさんがバイザーから紅い光を激しく明滅させ、必死に私を押し留めようと叫ぶ。
けれど、今の私には届かない。
私はゆっくりと両手でサレットさんを高々と掲げ――。
「――【装着】」
静かな一言とともに、サレットさんを頭部へと深く被った。
ガキンッ……!
黒鉄の兜が私の頭部を包み込んだ瞬間、首から下は制服のまま、肌の表面に禍々しくも美しい漆黒の甲冑の文様がバキバキと浮かび上がる。
両手の平から立ち上る黒いモヤが収束し、二本の美しくも凶悪な漆黒のエストック(刺突剣)が顕現した。
『ぬぅ……くッ! 止める術はないか……!』
サレットさんの制止も虚しく、完全な戦闘・無双モードへとシフトした私は、兵士たちへ向けて一歩踏み出す。
「ひ、ひえぇぇぇぇッ……! 暗殺魔導師が……黒い仮面を被って悪魔になったぞぉぉぉッ!」
「た、助けてくれぇぇぇッ!」
怯える兵士たちの前に佇むのは、大切な仲間(白ちゃん)を理不尽に傷つけられ、静かな怒りを燃やす最凶の甲冑剣士。
二本のブレードが、恐ろしいほどの冷気と黒鉄の光を放ちながら、静かに振り上げられた――。
【第十話・完】




