『第六話:お名前は白ちゃん。私の大事な仲間が増えましたぅ……!』
「この方は、サレットさんですよっ!」
私は胸を張って、自分の宝物である漆黒の兜を白ちゃん……じゃなくて、目の前の女の子に紹介した。
膝の上に抱っこされたサレットさんは、どこか「フン」と誇らしげに黒鉄のボディを木漏れ日に反射させている気がする。
「サレットさん……。くろくて、かっこいい」
女の子が半袖Tシャツの大きな袖から伸びる細い指先で、おそるおそるサレットさんの表面に触れる。冷たい鉄の感触に少しだけ目を丸くしながらも、気持ちよさそうに撫で撫でしていた。サレットさんも心なしか嫌がっていないみたいで、私はほっと胸をなでおろす。
「あっ、そういえば……貴女のお名前は?」
大切なことを聞き忘れていたことに気づき、私は女の子の顔を覗き込んだ。
すると、女の子は小さな頭を首をかしげるようにちょこんと傾けて、ぽつりと呟いた。
「僕っ……名前無いのっ……」
「僕……? ふふ、ボクっ子さんなんですねぇ」
自分のことを「僕」と呼ぶ可愛らしい仕草に、思わず目尻が下がってしまう。
名前がないのは少し寂しいけれど、それなら私がとびきり可愛い名前をプレゼントしてあげなくちゃ。
透き通るような真っ白な髪、雪のように綺麗なお肌、そしてさっき食べた卵焼きに満足してパタパタ揺れていた、真っ白な子蛇の面影。
「じゃぁ! 白くて可愛らしいから『白』。白ちゃんって呼びますねっ!」
「……しろ、ちゃん?」
女の子――白ちゃんは、自分の新しい名前を確かめるように何度か口の中で転がした。
それから、大きすぎるTシャツの裾をギュッと握りしめると、満面の笑みを咲かせた。
「うん! ボク、白ちゃん! お姉ちゃん、ありがとう!」
「えへへ、どういたしましてぇ。これからよろしくね、白ちゃん」
私は白ちゃんの小さな体を優しく抱きしめた。
白ちゃんの温もりと、膝の上のサレットさんの冷たい感触。
異世界の荒野の真ん中で、なんだか賑やかで愛おしい私たちのパーティー(?)が、正式に結成された瞬間だった。
……と、その時。
茂みの奥から「ヒィッ……!」という短い悲鳴が聞こえた。
見ると、ずっと影から見ていた行商人の男が、ついに腰を抜かして這いつくばりながらこちらを見つめている。
(あ、あの特級暗殺魔導師様……聖なる白蛇の化身を暴虐な力で従え、不気味な黒い仮面と少女姿の使い魔を引き連れ始めたぞ……!!)
行商人の頭の中でさらなる巨大な勘違いが炸裂していることなど、お弁当を片付け始めた私たちが知る由もなかったのだった。
【第六話・完】




