『第四話:お弁当を分け合ったら、白い子蛇が脱皮して可愛い男の子になりましたぅ……?』
卵焼きの甘い匂いに誘われたのか、レジャーシートの端っこから、カサコソと小さな音が聞こえてきた。
「あらぁ……?」
見ると、草むらから一匹の小さな白い蛇が、ひょっこりと顔を出している。
真っ白で綺麗な鱗に、つぶらな瞳。その子蛇は、じっと私のお弁当箱を見つめながら、お腹を空かせているのか、きょろきょろと私にすり寄ってきた。
「お腹がすいてるのっ……?」
お弁当はもう、私の胃袋の中にほとんど収まってしまっている。
だけど、小さくて健気な子蛇を見ていると、どうしても放っておけなくなってしまった。
「少ししか残ってないけど……はい、どうぞぉ」
お弁当箱の隅に残していた、最後の一つずつの卵焼きと、赤いタコさんウインナー。
お箸でそっとレジャーシートの上に置いてあげると、子蛇は一瞬ビクッと体を強張らせ、私とサレットさんを交互に見た。
それでも、お母さんの手作りの匂いには勝てなかったらしい。子蛇は警戒しながらも、ちいさなお口で卵焼きにパクリと噛み付き、美味しそうにモグモグと食べ始めた。ウインナーも気に入ったみたいで、一生懸命に飲み込んでいく。
「えへへ、美味しいですかぁ? お母さんの料理は世界一ですからねぇ」
ルーズソックスをパタパタさせながら、微笑ましくその様子を眺めていた、その時だった。
ウインナーをペロリと平らげた子蛇の体が、突然、淡い聖なる光に包まれた。
「ふぇっ……!? サ、サレットさん、蛇さんが光ってますぅ!」
驚く私と、沈黙するサレットさんの前で、光はどんどん強くなっていく。
まぶしさに思わず目を細めた瞬間、光の中で子蛇の体が「バキバキッ」と音を立てて引き締まり、古い白い鱗がハラハラと地面に落ちた。――脱皮だ。
けれど、その脱皮は明らかに異常だった。
光が収まり、そこにぽつんと座っていたのは……蛇ではなかった。
「……う、うぅん……」
白い髪に、どこか子蛇の面影を残すつぶらな瞳。
そこには、私のブレザーの裾をきゅっと掴みながら、上目遣いでこちらを見上げてくる、ものすごく可愛い男の子が座っていたのだ。衣服は身に纏っておらず、脱ぎ捨てられた白い鱗が、まるで淡いシルクの布のように彼の体をふんわりと隠している。
「……おいしかった。ボク、お腹ペコペコだったんだ……」
たどたどしい声で呟き、男の子は私にペコリと頭を下げた。
「あ、あらぁ……? 蛇さんが、男の子になっちゃいましたぁ……?」
突然のショタ化現象に、さすがの私もお箸を持ったままパチクリと目を丸くする。
お母さんの卵焼きと赤いウインナーには、まさか幻獣を人間の姿に変えてしまうほどの魔力が秘められていたのだろうか。
私のすぐ横で、それまで静まり返っていた漆黒のサレットさんが、木漏れ日を反射して「……チッ」と、なんだか小さな男の子に嫉妬したかのように、心なしか鈍く光った気がした。
【第四話・完】




