第二話:『職人への冒涜、二本のブレードでお直しします』
「ブレード……! いや、二本!」
紅が低く、かつ愉悦に満ちた声を漏らすと、彼女の両手から溢れ出た漆黒の魔霧が、二条の鋭い光となって凝縮される。
ガシャァンッ! と左右の手に顕現したのは、漆黒の細身剣『エストック』。
それもただの二刀流ではない。ブレザーにミニスカ、足元はルーズソックスという軽快な出で立ちの紅が、両手に黒鉄の長剣を逆手に構え、地を這うような超低重心の型をとったのだ。
そのビジュアルの歪な美しさと威圧感に、泥棒たちは完全に蛇に睨まれた蛙と化していた。
「な、二刀流……!? ひ、開け! 囲んで叩けッ!」
恐怖を消し飛ばすように、残る二人の無法者が左右から同時に突撃してくる。荒削りだが、逃げ場をなくす挟み撃ち。
しかし、紅のバイザーのスリットが紅く妖しく点滅した。
「遅い、鈍い、噛み合っていない」
シュパァァァンッッ!!!
紅の体が独楽のように鋭く回転する。
ルーズソックスをはためかせ、ステップを踏んだ彼女の両手から、見えない軌跡を描いて二本のブレードが美しく交差した。
ガキィィン! カガァァン!
敵の刃は、紅の首から下の「何もない空間」に吸い込まれ、そのたびにバキバキッと漆黒の肩当て(ポールトロン)と腕甲の輪郭が火花と共に浮き出て、攻撃を無慈悲に弾き返す。
「がはっ……!?」
「あ、足が……ッ!」
弾かれた隙を、紅は見逃さない。
右手のブレードで敵の剣を巻き込むように叩き落とし、完全にガラ空きになった脇の下のレザーの隙間へ、左手のブレードを正確無比に突き刺す。
さらに反転。もう一人の、無駄にトゲが付いた肩当ての「首元のわずか数センチの隙間」へ、踊るような軌跡でもう一本のブレードの先端をピタリと突き立てた。
「ひっ……あ、あぁ……」
完全に勝負は決した。
首筋に冷たい魔力の刃を突きつけられた男は、ガタガタと震えながらその場にへたり込む。
「ハハッ! 二本のブレードのバランス、そしてこのクリアランス(隙間)を突く快感……! 透明になっても、ゴシック甲冑の機動力は最高だねぇ、サレットさん!」
恍惚とした声をあげる暗黒騎士。
だが、その直後――パチン、と顎紐のロックが外れる音が響いた。
ガシャコン、と小気味いい音を立ててサレットが脱がされると、そこには。
「ふぇぇ……やっぱり二刀流の型は腕の筋肉にきますねぇ」
両手で大事そうにサレットさんを抱え、ふにゃりと締まりのない笑みを浮かべた、いつもの天然おっとりJK・鎧塚紅が立っていた。
全身の透明な力場も、二本のブレードも、シュウゥゥンと嘘のように霧散していく。
「サレットさん、私の無茶に付き合ってくれてありがとねぇ……。あえへへ、見てください、この人たちの鎧、やっぱりお直しの仕様がないくらいのクソ鎧でしたよぉ?」
気絶した無法者たちの真ん中で、嬉しそうにサレットさんに頬ずりしながらキュッキュッとクロスで磨き始める紅ちゃん。
遠くの茂みからその様子を怯えながら見ていた、通りすがりの行商人がガタガタと歯を鳴らす。
(な、なんだあの娘は……! 普段着のまま、見えない双剣と障壁で一瞬で盗賊を全滅させた……!? ど、どんな特級の暗殺魔導師だ……!?)
こうして、勘違いの種を盛大に撒き散らしながら、紅ちゃんの異世界甲冑世直し旅は、最高にキレッキレな一歩を踏み出したのだった。
【第ニ話・完】




