30.黒曜馬
黒曜馬。
シルヴェ・ティティア産の軍馬で、黒く輝く毛並みが美しい。
元は魔物で、初代シリウス辺境伯が群れで飼い馴らして以降、代々繁殖させている。
今でこそ穏やかな気性をしているが、昔は相当狂暴だった、らしい。
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ミラレーヌの第三王子がやって来た。
わざわざ次男に丁重なお断りを書かせたというのに、会ってみないとわからないだろうからと、わざわざ、わっざわざ、十日もかけて王都からやって来たらしい。
馬鹿なのでは?
出遭って早々、何を言い出すのかと思ったら、なんと遠乗りに誘われた。
やっぱり馬鹿なのでは? 辺境伯家のお姫様が、急に遠乗りに行けるわけがないじゃない。
しかも領の南方、できれば隣との境までいかが、だなんて。
そもそも早馬でも五時間以上かかる距離。絶対に行く訳ない。
わたくしは馬が得意でないと言ってみたら、それでは相乗りすればいいと。
立場上、こちらが強く出られないのに厭らしい。鳥肌が立ったのは悪くないわよね?
結局、未成年であるわたくしが失礼をしてはならないからと、次男の馬に乗せて貰って、王子御一行とシルヴェの外周を一周して終わった。
その間、わたくしの後ろで次男の目がずっと死んだ魚のようになっていたのが印象的だった。
一周し終わったあと、王子が次男の馬に食べられていた。
黒曜馬は穏和だと評判なのに、王子のことは気に入らなかったらしい。
王子は不敬だと剣を突き付けていたけれど、それも歯で折られていた。
流石、うちの馬。いい子過ぎる。
なお、王子はそれだけで怖がってしまって、夜になる前にシルヴェを出て行ってしまった。
本当、何しに来たのかしら。




