↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
75/76

番外編①、兄と姉の密談 続

 次の日の朝。始業の1時間前、時間ぴったりにアエラスの執務室にアリアが来ていた。

 

「それで、分かった?」

「全く!」

「考える気、ある?」


 アエラスは少し考え込む。どこからどこまで丁寧に伝えればいいのか。


「まず、君はルースの母親がエリーと知った。そこまでは大丈夫?」


 それは、アリアがアエラスに「脅した」ことだ。彼女は元気よく頷いた。


「流石にそれは分かっていて言っていますから」

「それは良かった。それでは、エリーは誰と結婚した?」

「隣国のコスモ国の王、マラキア陛下です」


 隣国――元は敵国だったコスモ国王。マラキア・パラドクスム。それがエリーの結婚相手だ。


「そうだ。ルースはエリーとマラキアの子ども。それはいいか?」

「はいっ」


 返事はいい。それなのに、なぜか伝わらない。昨日の帰り際に話したときの様子は、人のことをよく見ていそうだったのに。政治的な思惑には疎いのだろうか。


「そろそろ分かってほしいんだけど」

「え? 何をですか?」


 もう全部を説明をする気で口を開いた。


「……我が国、スペス国とコスモ国の関係は?」

「最悪でしたが、あなたが戦争に出たことで、スペス国の圧勝で終わりました」

「へえ。それは知っているんだね」


 驚きながらアエラスが言うと、アリアが頷いた。


「あなたが人の血を流さずに戦争を終わらせたのは、純粋にすごいと思いました。騎士科や剣の価値は何か、と真剣に考えましたから」

「そう」


 血を流さないと言えば聞こえは良い。しかし、実際には相手の「戦う意思」を特殊魔法で消しただけ。そんな大層なものではない。


「まあ、それはいい。それで、そろそろ理解できた?」

「……」


「ルースは元々敵対していたコスモ国王の子ども。つまりコスモ国の第1王子。血筋主義をとっているコスモ国での王位継承権は1位」


「……つまり、むかしは戦争をしていた国の王位継承権1位が、アエラス先輩のところにいるってことですよね。……! やばいじゃないですか!」

「だからそう言っているんだよ」


 元敵国の第一王子は、敗北させた当本人の子となっている。コスモ国としてみれば、面白くないどころではない。喧嘩を売られているようなものだ。


 仮に何も思わなかったとしても、戦争の体の良い口実だ。アエラスを抑えこむ手段さえ見つかれば、あっという間に戦争を仕掛けてくるだろう。


「君がその情報を漏らしでもしたら、情報の出所である君は、コスモ国から拷問でもされかねない。そしてそれは家族も巻き込むかもしれない。その情報は戦争への引き金となる」


 グロリアのことも巻き込みかねない。ソムヌスの大事な、グロリアを。

 だからこそ、懇切丁寧にといた。


「アリア・ノーティカ。ここまで丁寧に説明をしたんだ。これは警告だ。君や家族に害が及ばないための」

「丁寧に説明いただき、ありがとうございます」


 綺麗に騎士のお辞儀をした彼女が、しっかり理解しただろう。したと、信じたい。


「それで、アエラス先輩。その子を攫ってきたんですか?」

「そんなことするわけないだろう。拾ったんだよ」

「え? コスモ国は第1王子を捨てたんですか?」

「……その事情も丁寧に説明をしていたら、時間が足りないから割愛で」


 エリーの死後、夫だったマラキア国王は、再婚をした。その再婚をした相手がルースを暗殺しようとした。そしてルースが逃げ出した。彼がスペス国に亡命したところをアエラスが偶々見つけて拾った。それくらいの説明だが、アリアに伝えるとなると、どれくらいの時間がかかるか分からないから、放置だ。わざわざ言う必要もない。

 

 アエラスは、厳しい目をアリアに向けた。


「それでなんで分かった? 誰に聞いた? 情報源を、全部教えろ」


 誰かから聞いたのなら、その人まで対処をしなければならない。アリアが困ったように笑った。


「あー。私、目が良いんです」

「目?」


 アリアの真っ赤な瞳に目を向ける。珍しい色とは思っていた。


「アエラス先輩、誰かが魔法を使っているとき、その人の魔法が見えますか?」

「少しなら」


 魔法への親和性が高い人間は、魔法の使用している際の魔力がぼんやりと見える。


「私は、その人の魔力が持つ特性まで見えます。血縁関係まで何となく分かります」

「あー。なるほど」


 アリアの魔法との親和性は知らないが、少なくとも目の親和性は高い。魔力だけではなく、その性質まで見えるという特殊な力の持ち主なのだろう。


「だから、例えばフィニス国王陛下と、エリー先輩の血が繋がっている、ということも」

「分かった。君の話は信じるから。そんなスペス国を揺るがしかねない情報ばかり言わないで」


 アエラスの幼なじみの2人。フィニス・テンペスタスとエリー・フローレス。この2人は義兄妹だ。

 エリーの本名は、エリー・テンペスタス。テンペスタス家の前当主の不貞によって生まれた子ども。


 つまり、ルースは現在のスペス国王、フィニス・テンペスタスの甥ということになる。


 この国、スペス国王の甥であり、元敵国のコスモ国王の息子。それがアエラスの養子となったルース・クレアティオだ。


「いい? フィニスとエリーの話も内緒だよ。エリーが死ぬまで隠し通し、フィニスがひた隠しにしていることなんだから」

「はいっ。分かってます」


 はっきりと返事したアリアを見ながら、アエラスは考える。彼女の「これらの情報を人に伝えたい」という気持ちを消すかどうか。


 アエラスは、考えるのを止めた。固く決意する。全部、フィニスに丸投げすることにした。朝から疲れた。もう面倒くさい。全てフィニスの決定に従う。それで良いだろう。


 考えるのを放棄したアエラスは口を開いた。


「君、口軽そうなのに。よく今までその目を隠し通せたね」

「褒めてます?」

「褒めてる褒めてる」


 適当に返事をするアエラスを、アリアは疑うような目で見ていたが、軽く息を吐いた。


「それは隠しますよ。異質と捉えられたくないですから。もっとも、アエラス・クレアティオという存在があれば多少の異質は見逃されますが」

「え? 待って? 私、そんなに異質?」

「はい」


 異質という言葉に首を傾げていると、アリアが真剣な瞳をアエラスへと向けた。


「アエラス先輩、黙っていてもらえますよね?」

「まあ、いいよ」

「なんで歯切れ悪いんですか?」


 なぜか? アエラスは薄らと口元に笑みを浮かべた。


「君、誰を脅したか、分かってる?」


 アエラスは、真っ直ぐにアリアを見据えた。


「私は本気になれば『嘘』を『真実』にできる人間だ。誰彼構わず脅すのは気をつけた方が良い」


 アリアを危険と判断した場合、国の機関から追放することくらい容易だ。


 アエラスが本当に危険視をしたら、幽閉や投獄もできるだろう。理由がなくてもできるし、理由をでっち上げてもいい。真実を大袈裟に言うこともできる。そもそも脅されたのは事実であるのだから、どうとでもなる。


 アリアを追放することに反対する者は、アエラスや国への反発の気持ちを全部消してしまえばいい。


 アエラスは自分の力がそれほど脅威であることを認識している。人々が恐れるのは当然だ。この目の前のアリアは全く怯える気配はないが。


「誰彼構わずではないですよ。アエラス先輩、そんなことしないですよね。エリー先輩言ってましたもの。優しいって」


 エリーの名を出され、毒気を抜かれたアエラスは、ため息をついた。

 

「……もう戻って良いよ。その代わり、国王陛下には報告しておくけれど」

「なんでですか?」

「ルースの話は国際問題に発展しうるから、いろいろあるんだよ。それに、エリーとフィニスが義兄妹であることを君が知ったって伝えておかないと」


 アエラスの説明に、分かったような分からないような顔をしていたアリアがぱっと顔を明るくした。


「それなら、お願いをもう1つしても?」

「……君、本当に遠慮しないね。何?」


 アエラスにここまでのことをしてくる人間はいない。図々しい。いっそ清々しいくらいだ。


「シレンテ様との仲を取り持ってください」


 シレンテ・フルヴィウス。赤紫色の髪と瞳をもつ男。学生時代はアエラスに懐いていた後輩。一度は絶縁までもされた。今では関係は回復している。


「シレンテと? 嫌だよ」


 アエラスの即答に、アリアが身を乗り出した。


「なんでですか?」

「あの子にこれ以上嫌われたくないからね」


 かわいがっていた後輩からの絶縁を思い出し、アエラスは苦い気持ちになった。


「そうですか? シレンテ様は、アエラス先輩のことを尊敬していると思いますが」

「一度絶縁されているからね。私もシレンテは大事な後輩だから、嫌われたくないんだ。それ以外で」

「えー」


 不満を隠そうとしないアリアに、アエラスは投げやりに言い放つ。


「君、肝が据わっているんだから、仲良くなりたいって言いにいけばいいじゃないか」


「だって! 何年声をかけても、無反応ですよ! 友達になりたいのに!」


「……魔法科の人間だから、仕方ないんじゃない?」


 色恋沙汰ではなく、友達が目標だったか、と思いながらアエラスは考える。


 それは少し憐れに思うが、魔法科の人間から関心を得るのはそもそも難易度が高い。

 

 魔法科の人間は、魔法に傾倒している人間が多く、あまり人間との関係には興味がない人も多い。むしろ邪魔だと思っている節もある。


 シレンテ・フルヴィウスも例外ではない。彼も恋愛沙汰にも友人との関係にもあまり興味はないだろう。シレンテは、恋に溺れていたアエラスのことを呆れた目で見ていたのだから。友人もソムヌス以外に聞いたことがない。


「アエラス先輩のせいですよ! シレンテ様と絶縁なんてするから!」

「絶縁したのは私からじゃなくて、シレンテからなんだけど」


 理不尽のことを言われている。アエラスは絶縁された側だというのに。


「でも、あなたはあっさりとしていたけれど、シレンテ様は未練たっぷりだったじゃないですか」


 関係あるだろか。別にアエラスが何も感じなかったわけではないのに。

 アエラスはため息を吐く。面倒な気持ちのまま口を開く。


「……シレンテは、甘い物嫌いだから。甘い物はあげないように」

「わー、ありがとうございます」


 アエラスはアリアとシレンテの仲を取り持つ気などさらさらない。シレンテの意思を無視したことはしたくないから。


 簡単な情報だけ渡しただけで嬉しそうに部屋から出て行ったアリアを見て、アエラスは息を吐いた。


「まあ、情報が漏れていないと分かったのは僥倖かな」


 一晩かけて作った、情報が漏れていた場合の代替案は不要となったわけだが。それは些細なことだ。ルースの安全が1番大事。


 アエラスは、報告のためにフィニスの部屋へと向かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。