22、共犯者として
「ああ。くそ。それにしてもまさか本当にできるとは」
フラマが自身の橙色の髪をかき混ぜる。自分の秘密を暴かれたフラマは、その場にいることさえ気まずそうだ。それを見ていたグロリアは意を決して、口を開いた。
「フラマさん」
「何ですか?」
「私、婚約者に捨てられたんです」
「グロリアさん?」
ソムヌスが心配そうにグロリアの名を呼ぶが、グロリアはフラマから視線を外さなかった。
「私たちは今この場で共犯者です。ですが、フラマさんだけ、秘密を暴露するのも公平じゃないです。だから、私も暴露します」
全員がグロリアを見つめる。それに少し緊張するが、フラマの秘密だけをきいて、自分は黙っているのは不平等だろう。
フラマがキラキラとした目でグロリアの方を見る。
「……グロリアさん、いい人だ!」
「え、ありがとうございます」
フラマに褒められて礼をいうが、フラマの大袈裟なほどの発言に彼から目を逸らす。たまたまソムヌスと目があった。その暗めの金の瞳には、グロリアを心配する色だけが浮かんでいる。
「グロリアさん。無理に言わなくても……」
「私は大丈夫です」
ちゃんと経緯を話すために、グロリアは再び口を開いた。
「結婚を約束したはずの婚約者に、闇魔法に適性があるのは気味が悪いと言われて。婚約はなくなりました。そして記憶を消すために、記憶消し屋にきました」
記憶を消しに来た、と教えたのは初めてだが、誰も驚いている素振りを見せない。アエラスもルースもフラマも予想していたのだろう。
アエラスが少し首を傾げる。彼のスカイブルーの髪が彼の肩から滑り落ちるのに気を取られていると、アエラスが言葉を発した。
「婚約者だった子、なんていう名前なの?」
「えっと、トニトルス・ノックスです」
「貴族でしょう?」
「はい」
考え込む素振りを見せたアエラスだったが、すぐにフラマへと視線を動かした。
「フラマくん。そんな子、行政科にいる? 国王直属や私の部下にはいなかったと思うけど」
「アエラス様やフィニス陛下とはほとんど関わりがない部署にいたような気がします」
「そっか」
数秒間考え込んだアエラスは、優しい笑みをグロリアに向けた。
「フラマくんのことも気遣えるいい子のグロリアさんにはご褒美をあげようか?」
アエラスの口調はまるでルースに話しかけるのと同じだ。7歳年下のグロリアは、アエラスにとって子ども同然なのだろう。
「ご褒美、ですか?」
ご褒美、という単語をグロリアは思わず繰り返す。
アエラスが笑う。その笑みはいつもの穏やかなものとは違い、目が細められている。
「彼はうちの科みたいだけど、何か仕返しを望むなら私にいうといい。やろうと思えば、解雇くらいまでならできるけど」
「アエラス様、それは職権濫用……」
思わず突っ込んだフラマの方をアエラスは見る。フラマに職権濫用と言われても、アエラスは余裕そうな表情を崩さない。
「『公爵』としてなら職権濫用だけど、『救国者』としてでも無理?」
「……それを言われたら何も言えないです。貴方を失う以上の国の損失はない。あなたが『彼がいることで気分を害される』とか、『視界に入れたくもない』とか言えば、解雇にこぎ着けるのは楽勝でしょうね」
国を救った英雄。その力は今でも大きい。
救国者の気分を害した人間を国の運営に置いておくのは悪手。アエラス・クレアティオが存在しているというだけで、他国への牽制になる。アエラスに国を捨てられたら、他国に攻め込まれる可能性は否定できない。
それくらいのことをアエラスはした。それが救国者、アエラス・クレアティオだ。
「やっぱり救国者って力持ちすぎだよね」
「兄さん?」
「あ、ごめん。何でもない」
一瞬、暗い表情になったアエラスであったが、ソムヌスに不思議そうな瞳を向けられ、その表情を跡形もなく消し去った。彼の表情を覆うのは笑顔だけ。
――闇魔法を使えば、アエラスに隠されているものを暴けるのだろうか。もしそうだとしたら、酷く危険に感じる。
グロリアを、色素の薄い金の瞳が捉える。アエラスの口から出る言葉は、魅惑的な響きを持っていた。
「それでグロリアさん。解雇程度ならできるみたいだけど、どうしてほしい?」
報復ができる、という言葉。あまりにも甘美で危険な毒のようだ。
グロリアのことを一方的に捨てた男を思い出す。自分は、どうしたいのか。
グロリアは静かに首を振った。
「いえ。大丈夫です。私はあの男を忘れます。もうこれ以上関わりたくもないです。あの人がどう過ごしていようが無関係です。なかったことにするために、ここに来たんです」
そう言うと、アエラスは満足げに頷いた。その表情はグロリアが断ることを予想していたようで。しかし、仮にグロリアが頼めばどうするつもりだったのだろうか。
「兄さん」
ソムヌスが複雑そうな顔でアエラスの肩を掴んだ。アエラスはソムヌスの方を向くと、口元に笑みを浮かべる。
「なに? ソムヌス」
「いや……。後で聞きたいことがある」
「そう? 分かった。いいよ」




