エピソード10:新人が先輩方に馴染むにはどうしたらいいか / 6
せっかくだから、と、柚木と真珠と巳茶は、真珠が柚木を連れて行こうとした、新しいエリアへお邪魔して話すことになった。エリア名<楽園>。そこは天国を思わせる、穏やかな雰囲気のエリアだった。水彩画を思わせる色彩、水場もふんだんに配置された、<鳥籠>とはまた違う美しさのあるエリア。小鳥たちも飛び交っている。
空は青く澄んでいる。フルーツの実った木の下で、3人は話し始めた。巳茶が、静かな声で、遠くの誰かに語り掛けるように、話す。
──きのきょに加入た時、僕は姉の死で、生きる気力を失くしてしまっていたんだ。僕がきのきょに加わった理由も、亡くなった姉がチャットにハマっていたから、という理由だった。でも、きのきょでみんなに出会って、僕はあと少し生きてもいいかな、と思えた。……巳茶はきのきょのメンバーのことを振り返る。
空を見上げながら。風に髪を靡かせながら。──hitoさんはいつもみんなのことを第一に考えてくれる、頼れるリーダー。kanapoさんはhitoさんのサポート上手な、みんなのお姉さん。戸羽乃さんはいつも面白い企画を作ってくれる、ムードメーカー。かほりさんは、賑やかで、僕が落ち込んでいると察してくれる、ちょっとお節介な人。そして……。
巳茶<ゆみポさんは、時々怖いこと言うけど、本当は優しい妹分。深雪君は、一生懸命にきのきょとヴェロニクスに馴染もうとしてくれてる、弟分。僕の、家族>
ゆみポ<……まぁ、あたしが時々怖い、に関しては否定出来ないです>
巳茶<あはは。実は、僕も今夜、きのきょで言いたいことがあるんだ。話、続けるね?>
巳茶が生きる理由を失った理由、姉の死。その姉と巳茶は……父違いの姉弟だった。許されない関係、それでも、愛していた人。その話を聞いた時、きのきょのメンバーで1番心に深い傷を負っているのは巳茶だと、柚木も真珠も確信した。巳茶の「訳」を知っているのは、恐らく、巳茶より前からきのきょにいたメンバーだけだ。
巳茶よりあとにきのきょに加入した真珠も、柚木も、巳茶の深い事情は知らなかった。巳茶は、フルーツの木に背を預ける。その動きで、頭上からフルーツが1つ、降ってきた。その実はオレンジのような、グレープフルーツのような、柑橘系であること以外、よく分からないアイテムだった。アイテム名は<ロンディの実>。
巳茶<ロンディの実……。どんな効果があるアイテムなんだろう?>
ゆみポ<えーと……。その実もあたしが配置したはず、なんですけど、覚えてないです。ただ、回復・補助の効果がある実しか木には配置してません>
巳茶は、思い切ってその実を口にしてみた。ログが流れる。戦闘不能・1回免除。何とも有り難いアイテムだ。しかし、巳茶──本名、未散という物書きの青年は、もう自分は狩りに行くことはないだろう、と思っていた。今夜、きのきょで話すつもりだった。明日は姉の命日、自分もあちら側へ行こうと思っている、と……。




