56 たった一つの誇り
よろしくお願いします。
王の間が開けられた。
王座にはブランジャンが腰掛けている。
その周りには少人数になってしまった親衛隊の兵士達が立っている。
王の間に何の躊躇いもなく入ってきた四人が横一列に並ぶと、ベディエの帯刀している破邪の剣が柄の先に在る紅い原石を震わせながら人の声で言う。
「そこは王の座る玉座、貴様のような汚い者が座る場所ではない」
それに答えて人の姿に戻っているブランジャン、キンモがブランジャンの声で言う、
「ちょっとした休息よ」
「黙れ、妖魔。ポーが居なくては消え失せてしまう存在よ、そこから立て」
「面白い、ならば力ずくで退かせてみよ」
そう言うとブランジャンは指先で合図し、王の親衛隊を動かそうとする。
「親衛隊の兵士達よ、お前達の誇りは何処へ行ったのだ。人に用はない、剣を引け」
パステルナークの声に、一度は剣を抜いたものの構えることができない。
彼らは既に、王の間に居る者達四人、風の者達と悟っている。
紅の鞘に収まった剣が赤い原石を震わせて人の声で語っているではないか。
これが噂に聞く破邪の剣でないのなら妖刀でしかない。
妖魔と妖魔の対立、有り得ない。
風の者達以外に何者が来たというのか。
みじろぎもしない兵士達の中、立派な剣を持った一人の剣士がブランジャンに振り返り、剣を大上段に構えたまま突進する。
「よせ!」
とベディエが叫ぶが、時、既に遅し、ブランジャンの前までは走れたが、正面で長い爪に刺されている。
「隊長」
と兵士達の口から声が漏れる。
然し、その行動で兵士たちの目が覚めたようだ。
「我が部下達よ、親衛隊隊長は、誠、に背を向けはしなかったと皆に伝えよ」
爪に突き刺されたままの兵士が、苦しげではあるが微笑みさえ浮かべて最後の言葉を言う。
数人しか居ない親衛隊の兵士達は意を決したように、一斉にブランジャンに振り返る。
全員が剣を青眼に構えて。
風の者達と共に戦えば妖魔を倒せるか?
そう思ったのかも知れない。
否、今まで死んでいった勇敢な兵士達の弔い合戦ができるかも知れないと。
「面白い」
とブランジャンが言う。
「忠実なる兵士たちよ、その勇敢なる精神を後世に伝えよ。下がれ、我らの後方へ」
とベディエが叫ぶ。
ありがとうございました。




