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43 見知らぬ男

よろしくお願いします。



 時を超えた過去の同じ場所、聖なる白い鹿から降りて神殿の森を彷徨い歩いている者がいる。

木漏れ日は眩しく、小鳥達の囀りが美しい。

行く当ても分からず彷徨い歩いては空を見上げる。

木々の隙間から入ってくる光に、時には額に手を当てて。

ゆっくりと歩む靴音は碧い草に消され、暗がりと光の線の交差する中、ある筈の探し物は空間に浮遊し、どんなに目を凝らしても見えない透明の扉。

ロルカには、時の扉、と呼ばれている場所は分からない。

然し、若い日、ネルーダ王国親衛隊隊長であった時に、この森に導かれパステルナークに出会った時のことは覚えている。


 立派な大木を見つけた時、遠く繋いでいた白い鹿がロルカの身を心配でもしているかのように細い声で長く鳴いた。


「連れて来るべきであったか」


 心細くロルカは呟くと、大木の根元に腰を下ろす。

あれからどれだけの時が立ったのであろうと思案する。

ベディエ、ブランシュ、イズー、そしてエリオット。


「ただ、待つだけとは苦しいものだ」


 ロルカは再び独り言をこぼす。


帯刀はしていないが、短剣を懐に入れている。

懐剣に手を伸ばし、柄を握りしめる。

今のカロッサで剣など必要ないのだが、何かが起こった時のために持ち歩いている。

これはネルーダ王国で親衛隊隊長を勤めていた時でも同じであった。


「まさか、この剣というものが必要になる時が来ようとは。ネルーダは今、どのような状況なのだ」


 ロルカは呟くと、そっと目を閉じる。


「パステルナーク、お前は今、何をしているのか」


 いつの間に眠ってしまったのであろうか?

長い時間眠っていたようにも思えるが、束の間の眠りであったようにも思える。


 目を覚ますとそこは、神殿の森とは程遠い見晴が広がっている。

森どころではない、一面の荒野である。

その荒野の向こうに荒れた岩山が見える。

山の頂上からは白い霧のようなものが空へと立ち昇っているのが見える。

ロルカは立ち上がると眼前の山を見る。

立ち上がった時に装飾用の金の鎖や勲章が重なり合う硬い音が聞こえた。


「これは?」


 とロルカは自分の姿を見る。

首から下は装飾の付いたネルーダ王国親衛隊隊長であった時の立派な服装である。

帯刀している剣の柄にも金銀宝石の装飾が施されている。


「どういうことだ、私は時の扉を開けたのか?」


 岩山から懐かしい香りが運ばれて来る。

遠く岩山の裾野から風が運んできたのであろうか?

その香りに気付いたロルカは岩山に向かって歩き出す。

山に近づくたびに懐かしい香りが強くなってくる。

ロルカは堪らず走り出す。


 そこへ空を切る音と共にどす黒い鎌がロルカを目掛けて振り下ろされてきた。

なんとか長い鎌をかわしたロルカは思わず抜刀し、次の攻撃に備える。


「ニンゲン ナニヲ シニキタ」


 その声は妖魔かと思うがどこかが違う。

振り下ろされた鎌も命を狙ったようには思えない。

この理解できない世界に迷っているような状態のロルカであれば、不意打ちに耐えれるはずがない。


「誰だ」


 ロルカは辺りを見回すが気配がない。

妖魔であれば、その念が漂い、見えなくても感じることはできる。

ロルカは再び正面に姿勢を戻すと目の前にはマントを羽織った男が立っていた。


「ダレカト キイタカ オマエコソ ナニモノ ココハ イキテイルモノノ クルバショデハナイ」


「私はネルーダ王国親衛隊隊長、ロルカだ。ここを通させよ」


「ダメダ」


「ならば、押し通る」


 ロルカ、抜刀した剣を下段から上段に振り上げる。

斬った、と思うが男は空を浮遊したまま傷ついた様子もない。

瞬間移動した様子もなく紙一重で見切ったか。


「手練れか」


 とロルカは呟くが、男は浮遊したまま攻撃を仕掛けようともしない。

ロルカ、二の太刀、振り上げた剣を下ろし、青眼に構えながら素早く踏み込み、男の頭上に剣が届いたと同時に柄を力一杯握った。

差して斬る、戦では使えない剣術。

相手が鎧を纏っていないから使える剣法である。


 今度こそ斬った、そう思った。

然し男は、どういう訳か宙に浮遊したまま傷ひとつも付いていない。

構わず、そのまま剣をまっすぐに突き刺すが。

今度は男のマントの中心に確実に入った。


「ドウニモ シニタイヨウダ ココカラ デテイクキモナイ」


 男はそう言うと大きな鎌を振り上げた。

まるで瞬間移動でもしているような速さだ。

ロルカ、念動力を使おうとするが間に合わない。

男の大鎌が振り下ろされた。


 が、ロルカの頭上で鎌の先が止まっている。


「トオレ」


 男が何事もなかったように言う。

全く理解できないでいるロルカは男の頭巾で隠れている顔の辺りを見る。

頭巾の下で二つの目が白く輝いている。

ここに来て初めて見た男の目である。

その白い光の中に三体の人のような姿が映し出されていた。



「通れ、時の扉を越えてきた者よ」


 声の響きが変わっている。


「構わぬ、通れ。カロッサの三神に導かれて来た者よ」


 マントを羽織った男の姿が消えて行く。

その向こうで小さくも鋭い光を放っている三神の姿が静かに消えて行った。

ありがとうございました。

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