16 エリオット サイド
よろしくお願いします。
エリオット達が野営にしている小屋を中心に牧場の反対側にテーゲが群生している森を見つけることができた。
エリオットはブランシュとイズーにテーゲを袋いっぱいに詰めて帰るよう指示を出している。
当のエリオットはといえば、身を低くして牧場へと近付いている。
一頭の白い鹿を見つけると念通力で語り掛けてみるが何の反応も無い。
その向こうにもう一頭の鹿が居る。
その向こうでは彼等の好物の薬草ボードを、群れを成して食んでいる。
どの鹿も真白で、立派なツノを持っているが、そのツノに秘められた念を感じ取ることができない。
「立派なツノを持つ白い鹿、然し、聖なる鹿ではない・・・。」
エリオットは呟くと、なんという事だ、単なる美しく白い鹿でしかない、聖なる力が失せている。
この分では、風の者も既に誰一人も居ないであろう・・・。
そう思う。
エリオットは牧場で働いている人に見つからないように、牧場近くに群生しているボードを引きちぎり袋に詰めだす。
その時、エリオットの脳幹を念が走り抜けた。
「ブランシュ様か、念通力で話をする前に念を放ってきたか、味なことをする姫だ」
そう独り言を言うと、エリオットも念を放ち返した。
念を感じたブランシュから再び念が帰ってくる。
『エリオット? 万が一の事を考えて、一瞬だけ念を放ってみたの』
『私が念を返さなければ、どうなされていたのですか?』
『念通力で話をせずに助けに行ってたわ』
エリオットは苦笑する。
『エリオット聞いて、お母様達がこっちへ向かっているの』
エリオットは念を集中して気配を読んでみる。
なんと、この距離で私よりも先に気配を読むとは、エリオットの脳裏に若き王子と、王子が携えている朱色の細身の剣が浮かぶ。
ブランシュ様、大した念通力の持ち主だ。
風の村の元教師、アラゴン先生に負けず劣らずだな、と思う。
牧場で働いている人が背をまっすぐに伸びさせ、腰を叩きながら空を仰いでいる。
放っておけば、この牧歌の風景も、やがて妖魔の手に落ちるのであろう。
そして商業が栄え、それを支えるための工場ができ、そこで働く人々は貧困と疫病に悩むことになる。
エリオットは袋いっぱいに詰めたボードの葉を背負い、風の者独特の、虫のような地を這う歩行で仮住まいに戻る。
ありがとうございました。




