12 村人Aは魔王と結婚する
王都から戻って暫くすると、デュークに大切な話があると呼び出され、彼の家に向かった。
実は彼の家に入るのは今日が初めてなので、緊張する。今朝はいつもより早く目が覚めて、朝からお風呂に入って髪を洗い、綺麗に髪も編み込んだ。
化粧水やクリームも丁寧に塗り込み、お肌もピカピカだ。
服も先週買ったばかりの新品を着ることにした。
こんなに気合い入れて少し恥ずかしくもあるんだけど、大切な話、よね。もしかしたら、そういう話かもしれないじゃないかと思えばね。女の子なんだもの。頑張っちゃうわよね。
男三人の住まいにしては少しこじんまりした彼らの家は、少し山に近い場所にある。
周りに人家のないその家の前で、私は深呼吸して、手を上げ、扉をノックした。
「マリア、よく来てくれたね。さあ、入って。」
扉近くで待っていたのかと思うほど早く現れたデュークが、扉を開けて中に入れてくれた。
そのまま中に入り、入ってすぐ右の部屋に入ると、地面に大きな魔法陣が書かれていた。
これは、移動の魔法陣。
「どこへ行くの?デューク。」
「一番話をしやすい場所へ。」
真剣なデュークの顔にはどこか懇願するような感じがあり、私は差し出された手に迷わず自分の手を重ねた。彼がホッと安心したのか詰めていた息を吐く気配がする。
「行くよ。」
そして、私たちが着いたのは、以前デュークが戦争ごっこをしていた城よりも数倍大きな城だった。
「ここは?」
「俺達の本来の住まいだ。」
「デューク?」
彼は歩く間私の手をじっと握っていた。だから耐えられたのだと思う。
廊下ですれ違う人?達のあり得ない姿に。耳に角、尻尾に裂けた口、牙。んん??
「驚かないんだな。いつから気がついていたんだ?全然気がつかないと思っていたから、どう話そうかと悩んでいたけれど、良かった。」
「え?」
驚きすぎて、心臓が口から出そうなんだけど?
デュークは嬉しそうに少しはにかんだように微笑んだ。私の手を握る彼の手が少し震えているので、彼が緊張しているのがわかった。どうしよう。凄く緊張してきた。おかげで驚きが吹っ飛んでいく。
彼が案内してくれたのは、まるで玉座の間みたいな場所だった。漫画や映画で見たよりもずっと広い。
「人間と違って我等魔族は体の大きいものも多いから、部屋も広いし、天井も高い。」
確かに、三階分の吹き抜け以上に高さがあるような感じ。あ、ちょっと待って。今、魔族って言った?魔族???
デュークは私の前に跪き、私の手の甲に額を寄せた。
「愛しているマリア。君に魔王としての俺の全てを捧げる。どうか伴侶として、俺と一生を共にして欲しい。」
凄く聞きたかった台詞なのに、突っ込みどころが……。魔王なの?デュークが魔王?
えーっと、まず、気になる点を聞いとかないと。
「人間とはどう付き合っていくの?」
「勿論、共生だ。正体を明かしても良いし、明かさずに暮らしても良い。マリアの父上と母上には、マリアに申し込む前に打ち明けて、今のままで良いのではないかとご意見を頂いた。」
ああ、だから。今日デュークの所に行くと伝えた時の両親の微妙な顔の理由が今分かった。でもうちの両親、肝が太いなぁ。
「そうなのね。」
でも両親も認めてるなら、良いか。だって、どう考えたって、私はデュークが好き。
「デューク、あなたが好き。大好き。私はあなたの奥さんになりたい。よろしくお願いします。」
「マリア!!!」
弾けるように顔を上げるデュークと目があった。あ、やっぱり綺麗な目だな。初めて会った時から、私はこの瞳に心を奪われていたのかもしれない。
「マリア?」
気づけば、瞳を覗き込むように彼の顔に、顔を寄せていた。彼の顔が真っ赤に染まっていて、慌てて身を引いた私の顔もきっと真っ赤だろう。
「ご、ごめ……」
「マリア。」
体を起こした彼の腕の中に、すっぽりと抱き込まれれば、胸はドキドキと煩くて。でも心地よくて、私はそっと彼の背中に手を回した。
「一生大事にする。ありがとう。」
「うん。二人で幸せになろうね。」
「ああ。」
デュークがくれた指輪を見つめながら、なぜか彼の膝に抱かれて、私は彼が差し出すクッキーを頬張っている。彼がとても楽しそうなので、良いかなと思いつつも、彼にもクッキーを差し出すと、んんっと軽い咳払いをして、頬を染めた彼が口を開けてくれた。
何このプレイ。衝撃が半端ない!超絶美形の恥じらう姿が素敵過ぎる。
これから毎日これが見れるの?神様ありがとうございます!!
そして今日、私は真っ白なドレスを着て、デュークの花嫁になる。会場は魔王城。おじいちゃんとおじさんは、真っ青になりながらも必死に笑顔を向けてくれた。二人について来てくれた執事のセバスチャンは平然としてたから、もしかしたら彼は悪魔なのかも……と一瞬妄想してしまった。
大急ぎで作った祭壇は、真っ白で、私はお父さんにエスコートされてバージンロードを歩いている。おじいちゃんの知り合いの神父様はさっきから真っ青でガタガタ震え、今にも倒れてしまいそうだ。思わず頑張ってと心の中で応援した。
私は貴族にならず、闇落ちもせず、村人のまま、幸せな花嫁になった。
ちょっと旦那様が変わっているけれど、この世に彼以上の旦那様はきっといない。
階段の上にいる彼と目が合えば、幸せそうに目を細めて、私の方に手を伸ばしてくれる。私はお父さんの手を離して彼の差し出す手を取った。
全ての魔物からの祝福の声を受けながら、吠え声にしか聞こえなくてちょっと怖いけれど、私は幸せに包まれた。




