11 2人の王子の思い
僕はキリアン・ドロテシア。
このデュカリオ王国の第二王子だ。
そして、前世を覚えていて、この世界が小説世界だと知っている。そんな僕は世界の危機を避けるためにどうすべきかと、幼い頃からずっと考えてきた。
学園でヒロインであるマリアが周りに虐められている事に、小説の僕は気がついていなかったのか、マリアが好きだったのに、守ってあげられなかった。
いっそ、婚約者となり、もっと囲いこんでいればよかったのだろうか。
でも、魔王が現れるなら、彼女の力の覚醒は必要で、彼女が闇堕ちするのを妨げるのは世界の破滅に繋がることで……
僕は、彼女に会いたくて、会うのが辛くて、どうしていいかわからないまま、学園入学式を迎える事になった。
だが、そこで、僕は気がついた。マリアがいない!
どうして?なぜ彼女がいないんだ?
僕は配下の人間を使って、バスティス公爵家を調べさせた。もしかしたら、あの家で酷い目にあっていて怪我や病気で入学式に来れなかったのかもしれないと思ったからだ。
「なんだって?もう一度言ってくれ!」
報告をする配下の者の言葉を、僕は受け入れられなかった。
「殿下、バスティス公爵家にはマリア様というご令嬢はいらっしゃいません。」
「そんなはずは無い。公爵のご令嬢の子だ。」
「ご令嬢は随分前に家を捨てられたと聞いております。」
「だが!いや、そうか。」
「殿下。」
「もう下がってくれ。」
配下の男は、黙って頭を下げ、部屋を出て行った。
マリアがいない?どういう事だ?
では、魔王は誰が倒すんだ!
僕は力なく長椅子に腰を下ろした。
僕が頑張らなければいけない。そんな義務感が湧き上がってくる。だいたい小説も、たった一人の少女に全て推し被せていたのがいけないんだ。
僕は王子だ。優秀な兄上がこの国の政をして下さる。それなら僕は僕の全力でこの国を守ればいいんじゃないだろうか。
もう遅い?いやまだ大丈夫。魔王が現れるまでにはまだ数年の余地がある。
それからの僕は、この国を民を守るため、血反吐を吐きながら魔法と剣技を鍛え続けた。
王族らしい筋肉がありながらもほっそりとスマートに見える体型は、分厚い筋肉に覆われるファイターのような姿となり、魔法も上級魔法まで使えるようになった。
今度の長期休暇には僕が選抜した戦闘集団と共に、ドラゴン狩りに行く予定だ。
後年の歴史書によると、平和なこの国は賢王と呼ばれる王の治世の元、伝説の武王と評判の王弟のおかげで、戦の被害を受けること無く、穏やかな日々を送ることができ、たいそう国が栄えたと伝えられている。
ーーー
隣国の王子であるサシャール・グリモアは時折嫌な夢を見ることがある。
彼の国のある都市が魔族に襲われる夢だ。
魔王は3ヶ月猶予をやるから、強い人間を見つけて抗うか、皆殺しされるか好きな方を選べと言ってきた。魔王の名前はヤヌス。
サシャールは王命を受けて、隣国に旅立つ。隣国には勇者伝説があり、今でもその血を受け継ぐ者がいると言う。彼はその勇者の子孫に助けを求めたのだ。
しかし、隣国デュカリオ王国に来てみれば、勇者の末裔たる男は死んでいて、唯一残された娘は闇落ちし、魔女と化して、人への恨みに満ち、人里から姿を消していた。
彼女、マリアの母親であるバスティス公爵と共に、彼女の元に向かった彼は、苦しげに呻くマリアの姿にどうしようもないほど悲しくなり、彼女を人に戻したいと苦しむマリアを抱きしめた。
彼女から溢れる魔力で肌は焼け、裂けて行くが、サシャールは彼女を離さなかった。
マリアの母親はマリアの魔力にあてられて意識を失ってしまったが、サシャールはひたすら痛みに耐えながら、マリアの名前を呼び続けた。すると焦点のあっていなかったマリアの目が彼を認め、そのほっそりとした手が彼の怪我を癒していく。
そうして心を通わせた二人は、仲間を集めて魔王を打ち倒すことに成功する。
そんな夢だ。
サシャールはその泣き続けるマリアを、幼い頃から何度も夢に見る度に、泣かないでくれ、笑って欲しいと思い続けてきた。
その夢ではマリアは16、サシャールは19だった。
そして、今年、サシャールは20になった。
夢のような魔王出現もなく、国は平和だった。
もうマリアが血を流しながら魔王を倒す必要は無くなったが、それならマリアはどうしているのだろうと、ザワつく心を抑えられず、サシャールは許しを得て、隣国に忍びで向かった。
事前にバスティス公爵家の事を調べてみたところ、高齢ながら、公爵は矍鑠としており、小公爵は長男だった。では、公爵の長女は?と色々調べさせたところ、伴侶である勇者の末裔の男と子ども二人と、平和に田舎暮らしをしている事が分かった。
息子は近々、バスティス公爵の家に入る事が決まっているそうだ。
やはりマリアは実在すると分かったサシャールは、興奮を抑えられなかった。
田舎に向かい、彼が目にしたのは、弾けるようなマリアの笑顔だった。ああ、あんな笑顔のできる少女だったのだと、サシャールは、彼女から目を離すことができなかった。
身を隠す彼の存在に気がついたのか、一人の青年が彼女に声をかけた。こんな田舎には有り得ないほどの整った容姿、存在感のある男だった。
彼に呼ばれたマリアは輝くような笑みを浮かべて、彼の広げる腕に飛び込んで行った。
サシャールの胸がキリッと傷んだ。
青年は優しい手つきで彼女を抱きしめ、くすくすと笑う彼女の頬に口付け、二人は顔を寄せあって内緒話をしながら微笑みあった。
マリアは幸せなんだな。
それなら、もう良い。
サシャールは、踵を返すと彼らに背を向けて歩き出した。
その時、2人のそばにもう1人青年が立っていることに気がついた。どこかで見た顔だ。
思い出せないまま、サシャールは馬に乗って、デュカリオ王国に向かう。その旅の途中、彼は思い出せず、もどかしい気分になった男の顔を思い出した。
あの顔は、魔王ヤヌスに瓜二つだった。
「ありえないな。あの男は、マリアといた男に兄さんと声をかけていた。魔王ヤヌスには兄など居なかった。それに、魔王があんな田舎でのんびりしているはずが無い。」
それにマリアは勇者の血筋だ。仲良くするはずもないではないか。
彼は首を振ってヤヌスの事を忘れる事にした。




