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小出:全国五千万のマナー講師ファンの皆様、こんばんは

石崎:こんばんは

小出:今夜は第一回全国マナー講師選手権第一回戦第四試合の模様を完全生中継でお届けします


ワアアアアア……


小出:実況は(わたくし)、小出良太、そして解説は、先日出されたマナー講師解説本「間違いだらけのマナー講師選び」が話題の石崎秀明さんです。石崎さん、よろしくお願いします

石崎:よろしくお願いします

小出:さて、石崎さん。日本一のマナー講師を決めるこの大会、いよいよ第一回戦も最終第四試合となりました。第二試合、第三試合がまさかの波乱ずくめになり、一日で終わる予定だった一回戦が終われずに第四試合が延期となったわけですが、そのあたりいかがでしょうか?

石崎:この日程延期は試合に向けて調整をしてきた両選手にとってマイナスに働く部分もあるかと思います。しかし、そのマイナスを逆手にとってプラスに変えていく。そういう白熱の展開を期待したいですね

小出:非常に楽しみですね

石崎:何しろ一回戦の組み合わせ抽選でこのカードが決まったとき、事実上の決勝戦ではないかと誰もが震撼した好カードです。一瞬たりとも見逃せない試合になりますよ


小出:さあ、いよいよ選手の入場です!まずは赤コーナー!就活生の星、千倉宮子選手です

石崎:就活生向けのマナー本の誤りを辛辣に指摘した著書「就活面接の右手はチョキで」が大ヒット。開催する就活生向けマナー講習は申込開始から僅か五分で定員に達し、チケットがフリマサイトで高額取引されるという、マナー講師界のカリスマですよ

小出:続きまして青コーナー!ビジネスマンの鬼コーチ、高林直美選手です

石崎:著書「営業マンは靴下の裏を見よ」の大ヒットは記憶に新しいですね。しかも高林選手、何とこの試合の三十分前まで某大手電機メーカーの新入社員向けのマナー講習、この試合のあとはすぐに大手建設会社の管理職向けのマナー講習と、本大会でもっともスケジュール調整が困難と言われる、ビジネスマナー講師の神様です

小出:否が応にも期待が高まります

小出:この試合での注目ポイントはどこでしょうか?

石崎:非常に難しいですが、ここはやはり椅子に座ったときの(かかと)の角度と両手の位置に注目したいですね

小出:注目して参りましょう……さあ、試合会場では両選手が審判からの最終ルール説明を受けています

石崎:おや、大会運営もこの好カードに審判を変えてきましたね

小出:あの審判もすごい方なんですか?

石崎:はい。彼は日本マナー講師連盟のマナー講師検定一級認定員、染木源三郎。知る人ぞ知る、マナー講師評論家の第一人者です。なんと一級認定員第一号という、マナー講師評論界の重鎮ですよ

小出:なるほど。つまり大会運営はこの試合のジャッジに非常に難しい判断が要求される事がある、そう考えているという事ですね

石崎:そう考えて間違い有りません。この試合、彼のジャッジも目が離せませんよ


小出:さて、ここで一回戦のルールを改めてご説明しましょう。一回戦は全試合、食事の一連のマナーを問うものとなっています

石崎:一番基本的なマナーであり、かつ最も難しいと言われるカテゴリですね

小出:選手はあの専用の対戦室で着席後、出されてくる料理を食べるときのマナーで競い合います。料理は二品。何が出てくるかは選手には知らされておりません。なお、食事の際に使用するカトラリーはすべてあらかじめテーブルに並べられている物を使用することとなっています

石崎:基本である、外側から使用する、と言うのも大事ですが、料理が出てくる順序は一般的な前菜、メインと言った順序ではありませんので、そのあたりの見極めも重要になりますね

小出:なお、食事は両選手で、先手後手を選択し先手から手をつけるのが基本となりますが、両者の合意があれば同時に食べるという事も出来ます

石崎:先手が誤ったマナーをした場合に後手が有利になる関係で、先手の方がポイントがやや多いというのも戦略を難しくさせていますね

小出:石崎さんの仰ったように、試合は両者のマナーに応じてポイントが付与されます。正しいマナーであればプラス、誤っていればマイナス、ですが

石崎:そうなんです。正しくてもよりよいマナーを示す事が出来ればさらに加点されますから後手はそのあたりをうまく狙っていけるかどうかがポイントですね

小出:また、料理は手をつけ始めたら十五分以内に完食する事となっております。時間オーバーは減点となりますが、料理によっては制限時間の変更が入る事もあります

石崎:第二試合の本マグロ解体から大トロにぎりを作って実食は制限時間が一時間でしたが、両者時間いっぱいまでかかって解体していましたからね

小出:ええ。両選手とも見事な包丁(さば)きでした

石崎:負けた犬塚選手ですが、大手寿司チェーンからスカウトが入ったとの情報もあります

小出:そして、第三試合のメガ盛りチャーハン三キロ。制限時間四十五分でしたが両者ともに完食ならず。しかしながら先に完食した方が勝利という条件で合意という非常に厳しい戦いでした

石崎:両者とも、テレビの大食いチャレンジ番組プロデューサーと連絡先を交換していたそうですので、今後の活躍にも期待です

小出:さて、第四試合ではどのような料理が出てくるか、注目していきましょう

石崎:両選手がドアの前に立ちましたね

小出:いよいよ試合開始……今……ゴングが鳴りました


カーン


小出:さあゆっくりと両選手がドアに向かいます……先に動いたのは青、高林選手。ドアに向けて手を伸ばしたっ!


コンコンコン


高林:失礼します

石崎:先手を取った高林選手、基本のノックからの入室確認ですね。実に安定した所作です

小出:さて、高林選手が入室したのを見届けて千倉選手がゆっくりと手を伸ばしました!


コンコンコンコン


千倉:失礼します

小出:石崎さん、今両選手のノックの回数が違いましたが?

石崎:これは……どういうことでしょうか

小出:これまでの三試合、すべての選手がノックの回数が三回でしたが……おや?審判が動きましたね……

審判:プロトコールマナーポイント……赤!


ワアアアアア……


小出:ああっと!どういうことでしょうか!審判のジャッジは赤!赤です!

石崎:これは……国際儀礼、プロトコールマナーです!プロトコールマナーではノック四回は公式な場での入室確認です!

小出:と言う事は高林選手の三回は誤りだと?

石崎:いいえ、日本では三回が一般的とされていますので誤りではないんです。しかし審判は世界標準を重視したようです

小出:なるほど。これは初手から厳しい戦いになっていますね

石崎:やはり予想通り、一瞬たりとも目が離せませんね

小出:さて、両者入室したところで席へ向かい立ち止まりました

石崎:これも今までに見られなかった流れですね

小出:そして……今、高林選手が椅子を引いて着座しました

千倉:ダウト!

小出:おっと!千倉選手からのダウト宣告です

高林:何がダウトなのかしら?

千倉:言うまでもありませんわ。「どうぞお掛けください」が出るまでは座らない。マナーの基本ですわよ!ギルティ?オア、ノットギルティ?


ワアアアアア……


石崎:これか!

小出:出ました!椅子に座るための声がけ確認です!審判の判定は?

審判:イノセント!

千倉:な!何ですって?!

小出:あーっと、審判の判定はマナーに反していない(ノットギルティ)。問題なしです!

石崎:これは……そう言う事か!

小出:石崎さん?

石崎:ちょっとお待ちください。高林選手が何か言いたそうです

高林:これは面接ではないのよ!

千倉:はっ!しまったっ!

小出:これはいったい?

石崎:そうです!面接では、面接官に勧められるまでは座ってはならないとなっていますが、これは面接ではありませんっ

小出:なるほど!

高林:就活生の面接マナーにどっぷりと浸かりすぎたようね

千倉:くっ……


小出:さあ、改めまして両者、着席して一品目が運ばれてきました

石崎:さて、一品目は……何でしょうか?

小出:電光掲示板に表示されたメニューは……天津甘栗!栗をおいしく戴く定番料理です!

石崎:これは面白いメニューですよ

小出:ほう、面白いですか?

石崎:はい。天津甘栗は殻ごと出てきますからね。その殻をどう処理するか、カリスママナー講師の(わざ)の見せ所です

高林:天津甘栗ですか……フフ、先手をどうぞ

千倉:よろしいのかしら?私の方がポイントで勝っているのですよ?

高林:構いませんわ。むしろ潰し甲斐がある、とお答えしておきましょう

小出:ああっと、これはすごい

石崎:ええ。まさに王者の風格。入室時のポイント程度簡単にひっくり返せるという余裕がうかがえます

小出:さて、ここで赤、千倉選手がゆっくりと手にしたのは……いえ、何も手にしません!そのままさらに手を伸ばして……手で栗を摘まみました!

石崎:むむっ!審判の表情が変わりましたよ

小出:さあ、千倉選手、栗を……そのまま口に入れた!


バリッボリボリッゴリッ


千倉:お、美味しいですわ。絶妙な甘みと香りに独特の歯触り。素晴らしい逸品ですわ

小出:感想を述べながら一つ、また一つと口にしていきます。さあ、そろそろ後手の青、高林選手の手番です

高林:笑止!見るに堪えませんわ!

石崎:高林選手、カトラリーに手を伸ばしていますよ!

小出:さあ、何を手にするのか……箸だ!箸を手にしました!

高林:食事のマナーは、料理の種類に応じてまさに星の数ほどと言われておりますが、日本人の基本は箸!その気持ちを忘れたあなたに勝利はあり得ません!

千倉:くっ

小出:高らかに勝利宣言をしながら栗を箸でつまみ……そのまま行ったぁ!


バリッボリッゴリッ


高林:マナーはなっておりませんが、先ほどの食レポはなかなかのもの。確かにこの甘みと香りに歯触り、そして舌触りも素晴らしいですわね

小出:さあ、審判の判定は?!

石崎:審判が動きませんね

小出:これはドローと言うことでしょうか?さて、両選手食べ進めておりますが……

石崎:あっ

高林:あっ

千倉:痛っ

小出:おっと、高林選手の箸先から栗が飛んで千倉選手の額を直撃!

審判:ペナルティ!ダイレクトアタック!青!

小出:審判が直接攻撃のペナルティを取りました!青、高林選手マイナスポイントです!

高林:くっ……しまった

千倉:ふふふ……天津甘栗のような滑りやすい食材をこんな塗りの箸でつまむなど、ベテランでもそんな失態は犯しませんわ

高林:ぐぐ……フン、この程度。次の二品目が本当の勝負よ!

小出:ああっと!高林選手、(いま)だ余裕を見せております!

石崎:しかし、審判の印象はだいぶ悪くなっているのではないでしょうか?ここからの逆転は厳しいと思いますよ


小出:さて、両選手一品目を食べ終えて、二品目が……おや?アレはどういうことでしょうか?

石崎:審判と配膳スタッフが全員ゴーグルにマスク、ビニール手袋を……まさか?

小出:石崎さん?

石崎:いえ、私の勘違いならよいのですが……

小出:そうですか……さて、会場ではスタッフが両選手の前に盆を置きました

千倉:なっ……何っ……これっ

高林:まさかっ……

小出:両選手が何やらうろたえている中、スタッフがクローシュを外して全力で離れていきました!

千倉:ぬぅわぁぁぁぁっ!

高林:うひぃぃぃぃっ!

小出:会場に両選手の悲鳴が響いています。石崎さん、これは?

石崎:間違いありません。アレは六本木の知る人ぞ知る四川料理の老舗、八味酒家の裏メニュー、「旅立ちの麻婆豆腐」です

小出:裏メニュー、ですか?

石崎:はい。創業七十年の老舗がずいぶん前に二十年以上通う常連で店長が認めた者にだけ出し始めたという究極の麻婆豆腐です。私もかれこれ二十五年通っていますが、未だに店長に認められず、食べることが出来ない幻の逸品です

小出:なるほど。しかし、あの色は辛そうですね

石崎:店長がこだわり抜いて厳選した食材により、究極の辛さの中に究極の旨味を封じ込めた逸品です。これまでに二百余名が食し……その内三十名がその場で旅立ったことから「旅立ちの麻婆豆腐」という名がついたと言われています

小出:保健所仕事しろって感じですね。さて、会場では両選手が先手後手を決めるところです

千倉:ど、どうでしょう……二品目、二人同時にと言うのは?

高林:いいですわね。それではせーの、で同時に行きましょうか

千倉:ええ

小出:どうやら先手後手は決めずに同時に行くようです

石崎:マナー講師の意地を感じますね

千倉:では、いきますわよ

高林:せーの!

小出:両選手、同時にスプーンを口に入れました!

高林:うぐぅぉわあっ!

小出:高林選手もだえています!しかし千倉選手は落ち着いた様子で二口目を……行ったぁ!

千倉:……っぐ!……ぬぉあるぐぅっ!ぶばっ!

高林:ぶべっ

審判:ペナルティ!ダイレクトアタック!赤!

小出:千倉選手、吹いた!盛大に吹いて高林選手の顔面を直撃です!ああっと高林選手崩れ落ちた!椅子から落ちて床の上を転げ回っています!

審判:ペナルティ!ゲットオフシート!青!

石崎:高林選手が席を立ったと見なしてペナルティが出ました!

千倉:ふんぬるぅわぁっ!


ダン!ダン!ダン!


高林:ぎゃう!ぎゃうぅぅ!


ゴロゴロゴロ


審判:ペナルティ!ヒットテーブル!赤!ペナルティ!ロールオンフロア!青!

小出:両選手にペナルティが出て……ああっと、両コーナーからタオル投入!タオル投入です!

石崎:両選手動きませんね

小出:勝者無しドロー!まさかの勝者無しドローです!さて、石崎さん、どうでしょうこの展開は?

石崎:全く予想しておりませんでした。これがあるからマナー講師の対決は面白いんです

小出:二回戦は一回戦を突破した三選手により行われることとなりました

石崎:これは目が離せませんね

小出:さて、ここでお時間となりました。二回戦の模様は来週の日曜日のこの時間、ご覧のチャンネルでお届け致します。石崎さん、本日はどうもありがとうございました

石崎:はい、ありがとうございました

小出:それでは皆様、また来週お会いしましょう。さようなら!

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