本
芸人コント風に。
「ああ、うん。しょうが無いよな、電車が止まっちまったんならさ。おう、いいよ別にそんな。うん、また今度な」
ピッと電話を切る男。
「電車が止まった、か……えーと、あ、本当だな。ニュースになってる……『イノシシが列車に接触。運転見合わせ』……アイツ、クソ田舎に住んでるからなぁ」
呟きながらスマホをポケットに突っ込んで立ち止まる。
「さてと、少しメシには早いから、どこかで時間を潰して……お、ここ本屋か?新しくできたのかな?」
男が見上げる看板にはこう書かれていた。
本の寺澤
本屋にしては、妙な店構えだ。普通の本屋は店舗の幅一杯に入り口を広げるか、大きな窓を全面につけてたくさんの本の並んだ棚が外からよく見えるようにしていると思うのだが、そう言った感じではない。何となく……ファミレスのような佇まいにも見える。そう言えばここは以前はファミレスだったか?と言うことは居抜き物件とかそう言うのだろうか?それでも、窓にはどこの書店にもありそうな、「○○発売中」とか「○○賞受賞作品!」とかいういうポスターが貼られており、書店だと言うことを主張している。何ともアンバランスだが、
「よし、ジャ○プでも立ち読みして時間潰そう、うん」
そう言って店のドアに向かうと自動ドアが静かに開いた。
「いらっしゃいませ」
「うわおぅ!びっくりしたぁ!」
「お客様、いきなり驚かれても困るのですが」
ドアのすぐ傍にいた、ビシッとした服装に身を包んだ男が出迎えていた。
「いやいや、その……アレだ。人がいると思わなかったもんでさ」
「そうですか?営業中の店内ですから従業員がこうして出迎えるのは自然だと思いますが」
「あー、うん。アレだ。気にしないで、うん……ハハハ」
「えーと……お客様でよろしいのでしょうか?」
「ああ……うん、そう。そうだね、うん」
立ち読みだけで客と呼ぶかどうかは疑問だけどな、と心の中で付け加える。
「かしこまりました。いらっしゃいませお客様。えーと……お太り様一名でよろしいですか?」
「お太り様って何だよ!」
「失礼しました。見たままの感想がつい口から」
「なお悪いわ!」
「申し訳ありません……えーと、お一人様でよろしいでしょうか?」
「ああ……うん、そうだよ」
「お一人様、と。お煙草は?」
「えーと、うん。吸うね」
「かしこまりました。喫煙席へご案内いたします」
そう言って奥へ促す。
「お客様一名ご来店です!」
「何コレ?」
戸惑いながらも席に通され、椅子に座ると、すぐに水の入ったコップとおしぼりがテーブルに置かれた。
「こちら、メニューでございます。ただいまのお時間、ランチセットがお得になっておりますので、よろしかったらどうぞ。メニューがお決まりになられましたらそちらのボタンでお呼びください。それでは失礼いたします」
そう言って男が離れていった。
「コレ、何なん?」
起こっていることに戸惑いを感じながらも、メニューを開く。
「えーと……お子様向け?コ○コロ、てれ○くん……は?」
一枚めくる。
「週刊少年誌……ジャ○プ、マ○ジン、サ○デー……何だこりゃ……えっと、今週号有り、バックナンバーは二ヶ月前まで在庫がございます……なんだこれ」
パラパラめくると各種週刊誌の名前がずらずらと並んでいる。さらに進めると「一品」と書かれたページになり、色々な文学賞を受賞した書籍のタイトルが並ぶ。
そして全体に共通しているのが、
「どれも高い」
例えばジ○ンプは六百五十円だ。
「んー、意味がわからんな」
さらに「ランチセットは+三百円でライス、サラダとドリンクが付きます」と書かれている。ますます意味不明だ。
「とりあえずボタンを押してみるか」
テーブルの上に置かれた、ファミレスでよく見かけるようなボタンを押すとどこかでピンポーンと言う音が鳴り、先ほどの男がやって来た。
「お待たせしました。ご注文お決まりでしょうか?」
「えーと……コレ、週刊少年ジャ○プ」
「今週号でよろしいでしょうか?」
「えーと、うん。今週号で」
男が「少年ジ○ンプ、今週号……」と手元でメモを取る。
「それを、ランチセットで」
「ランチセットですね。お飲み物はいかがいたしましょうか?」
「ホットコーヒー」
「ホットコーヒーですね。食後でよろしいですか?」
「あ、うん。いいよ」
「かしこまりました」
さらに「ランチセット、ホットコーヒー、食後」とメモしている。
「週刊少年ジャ○プですが」
ほらきたと男が内心ほくそ笑む。意味のわからない悪ふざけはこのくらいにしてほしいものだと。
「焼き方はいかがいたしましょうか?」
「は?」
焼き方?
「焼き方って……」
「ええと、レア、ミディアムレア、ミディアム、ウェルダンからお選びいただけますが」
「え?」
「ご存じなかったでしょうか?」
「イヤ、ご存じだけど……焼き方?」
「ハイ。今週号の鮮度のよい週刊少年ジャ○プですと当店のお薦めはミディアムとなっております」
「じゃ、ミディアムで」
「かしこまりました。少々お待ちくださいませ」
男が去って行く後ろ姿を見ながら、ますますわけがわからなくなってきたと、額に手を添える。おかしい、俺はただ本屋に時間つぶしに、立ち読みしに来ただけのハズなのに。
そんな風に悩んでいたら、向こうから店員が近づいてきた。
「お待たせいたしました。こちら週刊少年ジ○ンプのミディアムでございます」
カタン、と鉄板の上でジュウジュウと音をさせている週刊漫画雑誌の乗った木の皿を置く。
「こちら、ソースになります。それから、こちらがランチセットのライスとサラダでございます」
コレは普通だな。皿に載ったご飯とサラダ。ドレッシングの種類は不明だが。
「ごゆっくりどうぞ」
そう言って男は去って行った。
「ごゆっくりって……コレ、食えるのか?」
一応ソースを一回ししてからナイフとフォークを手に取り、ステーキを切る要領でフォークを添え、ナイフをあてると、かすかな手応えの後、スルリとナイフが入っていく。
そして、左手のフォークの先には一口サイズに切り分けられた、食べても大丈夫なのかよくわからない分厚い紙の束。
恐る恐る口に運ぶ。
「うまい!……って、何だよコレ!」
「あの、お客様」
「うわ、びっくりした!」
「申し訳ございません。他のお客様のご迷惑になりますので、声をおさえていただけると」
「ああ、スマン……うん」
「お待たせしました、食後のホットコーヒーでございます」
カタン、とテーブルの上にカップが置かれる。
「ご注文は以上でよろしいでしょうか?」
「ああ、うん。いいよ」
「こちら、伝票になります」
紙を挟んだ小さなバインダーを置き、男が去って行く。
スッと手を伸ばしてコップを引き寄せて、一口。
「まっず!何だコレ!おいちょっと!」
「ハイ、何でしょうか?」
「何コレ、このコーヒー、すっげえマズいんだけど!」
「当店は本屋でして、コーヒーは専門外なんです」




