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一角獣の見習い騎士  作者: 日向真幸来
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敵軍敗退

 瞬間、タグボートの上で働いている男たちの視界は真っ白になった。

 それが終わったかと思うと激しい爆発の音、そして衝撃でできた大波が押し寄せてくる。


「全員、大事無いかーっ?」


 大波に揺れにゆれるタグボートの船長を務める『提督』が大声を上げる。


「オヤジーッ、アンリがいないっ! まだこっちの船に乗り移ってないっ!」


 蒼白の表情でジョゼットが叫ぶ。


「『白』っ! アンリの守護には『青』が付いているはずだ。海ン中潜ってなにがなんでも探せーっ!」


「『黒』っ! おまえも一緒に行ってこいっ! あのボウヤを死なせたら、俺はあの世のマリーに顔向けできねぇっ!」


 命令に従い二人の一角獣が、死体や転覆した短艇や木片や油など様々な浮遊物が入り交じっている海面に向かって跳ねた。そのまま水飛沫を上げると、海中へと潜っていく。


「機関全力で後進っ! 『サラマンデル号』から離れるぞっ! このままじゃ、沈没に巻き込まれる恐れがあるっ!」


 機関部と通じる伝声官に向かって『提督』が怒鳴る。アンリのことも心配しながら、ジーザスが冷静にタグボートの船長として指示を出した。

 一方、海中に没した二頭の一角獣は、易々と尋ね人を探し当てていた。アンリに憑く守護一角獣・『青』が、海底に人ひとり呼吸できるほどの巨大な泡を作り、その中で気を失った相方を見守るがごとくすらりと立っていたからだ。


『相方殿の具合はどうだ?』


 白い一角獣が念話を飛ばした。


『少々ケガをしているが、息はしている。ダマスカス鋼のライフル銃を守るようにして海中に沈んだらしい』


 海の底では漆黒に見える青毛の一角獣が思念を返す。


『すまないが、「黒」。この相方殿のライフル銃を持ってやってくれないか』


『あいよ、お安い御用だ』


『ついでに「白」。この気絶している相方殿を、私の背に乗せてくれるとありがたい』


『承知した』


 海の底でまるでおとぎ話の一場面のような救出劇が繰り広げられている。水兵服を着た眼鏡のボウヤは、一角獣の背に荷物扱いで横にされ乗せられても、目を覚まさなかった──。



 

 まるで鏡面のごとく磨かれた大理石の床に、胸の勲章をジャラジャラさせた礼服のままへたり込んでいる男が居た。属領ローランドの護国卿にして、ゴドフロア終身総統の甥・メルヴェイユである。


「伯父上、この度はまったくなんと言えばよいのか……。このメルヴェイユ、ただただ謝罪するよりございません」


 そう言って大理石の床にひれ伏すメルヴェイユ卿のやや背後には、彼を船上から救い出してきた長い銀髪の持ち主、フェルディナンドが控えている。

 フエルディナンドの魔法で空間移動したメルヴェイユは、かつてルブランス王国の十四代目の国王が贅を尽くして建築した、シーザリオン宮殿の一角・総督府に居た。

玉座を模した仰々しい大理石の椅子には、五十代半ばの立派な黒い口髭を生やした男が座していた。

男はギラギラとした憎むべきものを憎む眼で、手の中では乗馬用の鞭を弄んでいる。


「『不沈艦・サラマンデル号』を沈められただとな……」


 ガバナ産の最高級葉巻の灰を、彫刻の女神たちが差し出す灰皿に落とし、ゴドフロアは苦々し気に言う。


「しかも沈めたのはあの『銀翼の魔女』という話しではないか。海の王者が蜃気楼に沈没させられたとは、この腑抜けめ!」


 ゴドフロアは椅子から立ち上がると、数歩前に歩み、まだ着替えも許されていない甥を乗馬鞭で滅多打ちにした。

 その時、大理石の椅子の近くから、ゆらりと乳香と薔薇の香りが漂ってきた。長い寝椅子に香炉の火をけぶらせ、遠い東の地の血筋を感じさせる豊かな黒髪を指先ですくう美女が、頭に血を上らせているゴドフロアに声を掛ける。


「その辺で許しておあげなさいな、閣下。今回の不祥事は、三頭目の一角獣と三人目の一角獣の騎士という、我らにも予想の付かなかった要素から根を生やしているのです。そのうえ『銀翼の魔女』が味方したとなれば、我が弟子・フェルディナンドもうかつに手を出すことができなかったことでしょう」


 と、魅惑の琥珀色した瞳をきらめかせながら、ゴドフロア総統が溺愛する女魔法使いが言う。

 東方の肌を露出する民族衣装にいくつもの宝石を飾り付け、うねる長い髪と豊かな胸を誇らしげに見せている──そして神秘的な色の宝石を思わせる瞳。

 もしこの女魔法使いをゴドフロアが寵愛していなければ、総統の周囲で美貌をさらすフェルディナンドのせいで、ゴドフロアは男色家扱いされていただろう。


「ローランドの統治に関しては、まだまだ策がありますわ。なにしろこちらには『七人のクリスティーネ』の一人が手の内に居る。それにローランド国王戴冠用玉座も、フェルディナンドが細部まで模写した設計図を持っております。我らの手で人工ルビーと人工サファイアを造り、金の玉座にはめ込んで、『七人のクリスティーネ』の一人・ミルフィアを王太女として正式に即位させ、それを公言すればいいことです」


「し、しかし……。玉座は用意できるが、王位継承用神器はどうする? 王冠、剣、宝珠、王杓はすでにクリスティーネ王太女用に作られている物が一式、あの国のどこかに隠されているのだぞ……!」


「それはもぅ、汚名を雪ぐためメルヴェイユ卿が力を尽くして、ローランド中を探してくれるはずですわ。ここで斬首になりたくなかったら──ねぇ……」


 琥珀色の瞳が床を這う敗者を見遣る。もう一度チャンスをやれと最愛の女魔法使いが言っているのだ。ゴドフロアはそれに従うしかなかった。



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