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一角獣の見習い騎士  作者: 日向真幸来
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ジョゼットの作戦


 時間はやや巻き戻されるが──ルシアの『超音波破壊』魔法で戦艦サラマンデル号の設備が次々と砂になっていた頃。

 第四層、通称・地獄の釜焚きと呼ばれるボイラー室では、つい三十分前に交代で寝床に横たわった者たちまでが叩き起こされていた。


「おらーっ、上からの命令だ。全力で釜に石炭くべろだとさーっ! 全員、石炭庫から順番に並んで、ボイラーまで石炭を送ってくれっ!」


 派手に大声を上げながら、班長でもないのにジョゼットが陣頭指揮を執っている。こういった時は威勢の良い方の勝ちだ。

 厚さ一メートルもある最強の木製装甲・シタデルのすぐ内側にある石炭庫には、亜炭や泥炭など質は悪いが、量だけはたっぷりと詰め込まれている。それを下から人足たちがシャベルで掻き出して、三つあるボイラーへリレー方式で石炭を渡していくのだ。

 三号ボイラーに掛かりっきりになって石炭をくべているジョゼットの元に、見覚えのある「×」印を白墨で付けた、レンガ形の泥炭が渡されてきた。


(来たっ!)


途端にジョゼットの胸が高鳴る。それは同志の魔術師が精錬してくれた「爆裂石」だった。第一の矢だ、迷わずそいつを火蜥蜴がむしゃむしゃと食事中のボイラーの中へ放り込む。

 石炭を食べて火力の増した火蜥蜴は、黄金色の体色が少しずつ輝き始めた。全身から高温の炎が立ち上がり、体色が薄くなっているように見える。

 そして、三重の魔法陣のギリギリ内側へ落ちた「爆裂石」を、長い爪を引っ掛け、火蜥蜴が口元に引き寄せた。他の細かな石炭くずと一緒に、青黒い舌を伸ばして、裂けた口の中へとぱくりと喰らってしまう。喉元を角ばった石炭が飲み込まれていくのが見える。

 すると、いきなり火蜥蜴はじたばたと魔法陣の描かれている床の上でもがきはじめた。


「シャ───ッ!」


 と、声を上げて。頭を左右に大きく振りながら、全身から立ち上らせる炎の色を青白く変えていく。腹はボコボコと太鼓でも叩くように波打っていた。そのリズムにつられるみたいにボイラーの中で炎が燃えたぎる。

 普通の火力ではない。これは爆発炎上だ。


「なんじゃこりゃぁ!」


 詳しい事情の分からない人足たちは途惑うばかりだ。もう、誰もシャベルを動かす者はいない。

 とりあえず現場の指揮を執る者が居なくなっての幸運な混乱だと、ジョゼットは内心微笑んだ。ここで自分が一気に人足たちの統率を執れば、勝利は見えてくる。


「おいっ、みんな! とにかくもういっぺん開閉扉を開けて、石炭放り込んでみようぜ! 後のことは後から考えればいいっ!」


 ジョゼットの力強い励ましに、腰の引けていた人足たちがコクコクと首をうなづかせる。


「イチ、ニィ、サンッ、の合図で開閉扉をあけるぞ、いいかっ?」


 お、おう……と、弱気な声がそこここから上がった。


「いくぞーっ! イチ、ニィ、サンッ!」


 足裏でボタン式開閉器を力いっぱい押し、三基のボイラーにほとんど時差なく石炭クズを投げ込んだ。

 真っ白な光がボイラーの入り口からあふれかえった。火蜥蜴は前に見た時よりも身体を巨大化させて、ぐるぐる魔法陣の中を回っている。いや、鞭のごとく宙を切るしっぽが壁に幾筋もの罅を入れ、長い爪が三重の円と幾何学模様の描かれた床の魔法陣に、どろりと溶けた爪痕を残していた。


「魔法陣が壊れたっ! このままじゃ、ボイラーが溶けちまうっ!」


 悲鳴を上げる人足の肩に、ジョゼットが片手を置いた。


「落ち着けっ! 一時、第三層に退却だ!」


「退却って……。逃げてどうなる、こんなとてつもない火力のバケモノを放っておいてよ!」


この調子ならばボイラーの崩壊は時間の問題ではないかと、人足たちは顔色を青くした。

 それを見て、ジョゼットが威勢よく檄を飛ばす。


「第三層から水を引くんだよっ! あそこには大水槽がある、そこから水を引いて火を消すんだ!」


 なるほど、と──人足たちはうなづきあった。第三層の生活用水水槽から一斉に放水すれば、あの火蜥蜴の炎も少しは鎮まるはずだと。

 反撃の方法が決まれば、あとは一目散に第三層へ駆けあがるだけだ。そして大水槽につながるホースを、釜焚き人足の皆で転がしてきて、エイサッと声を上げながらバルブとつなげる。


「第四層にホースを落とし込むぞぉ!」


 もうこの頃になると炎は第四層の通路にまで広がって、メリメリと音を立てながら巨大化した火蜥蜴がボイラー口から外へと顔を出そうともがいていた。まるで三頭そろっての悪魔の舞踊だ。


「放水―っ!」


 バルブが開かれる。何本ものホースから第四層に向かって激しく水が放たれる。

 途端に第四層から、ドオンッ!──と、人足たちの鼓膜を破るかのごとき、ものすごい爆発音が轟いてきた

 通路の天井を焦がすように噴きあがった灼熱の炎は、釜の中から這い出してきた火蜥蜴の身体を流れ落ちる。しかも床に落ちた火花が噴射された水に触れてもまだ燃え上がるさまは、噴火のようだ。普通の炎と一線を画していた。

 これがジョゼットが放った二本目の矢『水蒸気爆発』である。



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