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第51話:王女の戦い

 《王女マリエル視点》


 今マリエルは窮地に陥っていた。

 理由はミカエル外交官によって、急に王宮での宴に参加を促されたから。


 今、彼女はミカエル王宮の控え室にいる。

 これから厳しい状況で、宴に参加しないといけないのだ。


 宴と聞くと、華やかで楽しいイメージがある。

 だが国主催の宴ともなる別世界。各国や各貴族同士のプライドの戦いの場なのだ。


 女性はドレスや髪型で。男性は勲章で華やかに誰もが着飾る。

 どんなに貧乏な貴族でも、公式の宴ではとにかく見栄を張り着飾るのだ。


 何故なら貴族たちにとって、見栄とプライドこそが重要。少しでも隙を見せたら、それ以降は誰にも相手にされなくなってしまうのだ。


 そして一国の王女であるマリエルも例外ではない。こかれらハメルーン国を代表して、ミカエル王国主催の宴に挑む必要があった。


 だが今回は予定外の宴の誘い。王女クラスのドレスを、ハメルーン使節団は用意できなかったのだ。


「マリエル様。本当に申し訳ありませんでした。我々の力不足で……」


 使節団の騎士は頭を下げて、主マリエルに謝罪する。

 マリエルと彼らは今日一日かけて、王都中を駆けずり回った。だが王女クラスのドレスを手に入れることは出来なかったのだ。


 今マリエルが着ているのは、普通の貴族令嬢用のパーティードレス。明らかに王女クラスのマリエルには、格が合わないドレスなのだ。


「謝らないでくさい、皆さん。今回のことは私にも責任があります。諦めてこのドレスで宴に参加いたしましょう」


 家臣を安心させるために、マリエルは言葉をかけている。だが心の中はどんよりと重い。


 何故ならこれから彼女が向かうのは、ミカエル王国の貴族が集まる宴の中心地。言わば敵の中心地だ。

 間違いなく、あのミカエル外交官によって“根回し”は完了しているだろう。


 おそらく宴の会場にマリエルが入った途端、ミカエルの貴族令嬢たちはざわつくはず。


 ……「ご覧ください。あの子が噂のハメルーン国の王女よ……」

 ……「あら、一国の王女だというのに、随分と貧相なドレスを着ているのね……」

 ……「我々ミカエル王国を舐めているのかしら?」

 ……「もしかしてハメルーン国は貧乏だから、ドレスも買えないのかしら?」

 ……「きっと、そうに違いないわ。友好条約を結んだとはいえ、所詮は田舎の小国なのね、ハメルーンという国は……」


 ミカエルの令嬢たちは嘲笑と共に、間違いなくマリエルの陰口を言ってくる。

 狙いは今後の外交で、ミカエル王国が上に立つため。

 相手の使節団の代表者を陥れることで、自分たちが精神的に優位に立とうとしているのだ。


「マリエル様、やはり参加は止めた方が……」


「いえ、必ず参加します。国で待つ父上やハメルーン市民のために、私は代表として責務を全うする義務があります! たとえ“針のむしろ”が待ちか待ちかまえているのが分かっていても!」


 心の中が重くとも、マリエルの決意は変わらなかった。一国の王女として、ハメルーン国のために、自分の身を犠牲にしようとしていたのだ。


「ふう……でも、すみませんが、少しだけ一人の時間を下さい。気持ちを落ち着かせます」


「かしこまりました、マリエル様」


 騎士と侍女たちは部屋から出ていく。王宮内の控え室にいるのは、マリエル一人だけになる。


「絶対に頑張らないと……ハメルーン国のために……」


 一人になりマリエルは拳を握りしめる。自分自身に語りかけ、強大なプレッシャーに打ち勝とうとしていた。


「でも……うっ……」


 また急に心が重くなる。

 これから待ち構えるミカエル貴族からの、目に見えない辛辣な口撃と、ハメルーン国を馬鹿にする陰口の数々。

 感受性が強いマリエルは、どうしても浮かんでしまうのだ。これからの地獄のような宴の様子が。


「あぁ……誰か……」


 マリエル思わず弱音を口にしてしまう。

 一国の王女としての言葉ではない。重圧に押しつぶされそうな、一人の少女として天を仰いでいた。


「ハルク様……どうか私を……」


 そして一人の青年の名を口にする。

 命を助けてもった時から、密かに慕っている男の名を。


 でも今回ばかりは奇跡は起きない。何故なら、今その人は遠きハメルーンの地にいるのだから。

 そのことを思い、更なる絶望がマリエルを襲ってきた。苦しい涙が溢れ出しそうになる。


 ――――だが、その時だった。


 カタッ


 マリエルの背後で小さな音がする。誰もいないはずの控え室で物音がしたのだ。


「……?」


 こぼれ落ちそうになっていた涙を、マリエルは抑えながら視線を後ろ向ける。


「えっ……これはいったい?」


 そして信じられない物を目にするのであった。


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