↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
52/77

第52話:王女の戦闘服

 《王女マリエル視点》


 マリエルは控え室で一人、悲しみにくれていた時だった。


 カタッ


 背後で小さな音がする。誰もいないはずの控え室で物音がしたのだ。


「……?」


 こぼれ落ちそうになっていた涙を、マリエルは抑えながら視線を後ろ向ける。


「えっ……これはいったい?」


 そして信じられない物を目にするのであった。


「こ、これはドレス……?」


 背後にあったのは一着のパーティードレス。

 先ほどまで何もなかった空間に、いきなり虹色のドレスが出現していたのだ。


「どうして、いきなり⁉ でも、凄く綺麗なドレス……こんなに素敵なパーティードレス初めて見た……」


 驚きよりも、更に強い感動がマリエルに押し寄せてくる。

 何故なら出現したドレスは、見たことがないような光沢を放っていたのだ。


 正面から見ると普通の色だが、角度を変えると色んな光沢に変化していく。まるで神話の中の女神の衣のような鮮やかさだった。


「それにデザインが素敵……」


 ドレスの光沢は凄いが、可憐なデザインのお蔭で下品になっていない。そして何よりマリエルの雰囲気に、自分の好みに、とてもマッチしたデザインなのだ。


「でも、なぜ、いきなり? いったい誰が?」


 感動が落ち着き、マリエルは冷静さを取り戻す。

 だが周囲を見渡しても、誰もいない。あるのは等身大の鏡だけだ。

 他の入り口は、先ほどまで自分が見えていた。誰も入り口からは侵入できない密室なのだ。


「ん? 手紙? メッセージカードが……」


 よく見るとドレスには、メッセージカードが添えられていた。おそるおそる手に取り、マリエルは中を確認する。


 ――――『親愛なるマリエルへ。よかったら着てください。あなたを応援する者より』


「あっ……この字は……⁉」


 メッセージカードをひと目見て、マリエルはハッとなる。この武骨だけど繊細な文字に、見覚えがあったのだ。


「ああ……この字は、間違いない……ハルク様……ありがとうございます……」


 誰にも聞かれないように、その名を小さく呟き、マリエルはメッセージカードを胸にギュッと抱きかかえる。

 常識的に考えたら、ハメルーンいるその人物が、王都にドレスを持ってこられるはずはない。


 だがマリエルには確信があった。

 あの優しい人は……自分が慕う英雄は、わざわざ自分のために、このドレスを用意してくれたことを。

 そして姿を現せない事情があって、こうして静かに置いていったことを。


「ハルク様……」


 屈託のない優しい笑顔の青年の顔を、思い出しマリエルは涙がこぼれ落ちそうになる。

 この涙は先ほどの悲しみの涙とは違う。温かい感動の涙であった。


「ハルク様……っ!」


 だがマリエルはぐっと涙をこらえる。何故なら今は、歓喜の涙を流している時ではない。


 自分はこれからハメルーン王女として、ミカエル貴族令嬢が待ちかまえる戦場に向かう必要がある。

 涙を流すのは、全てを成し遂げてからなのだ。


「ハルク様……お力をお借りします」


 今着ているドレスを脱いで、マリエルは下着姿になる。そのまま新しいドレスに着替えていく。


「えっ、すごい。一人でも着られた⁉」


 ドレスを着て、マリエルは声を上げる。

 何故なら普通の令嬢ドレスは、一人で着るのは不可能。侍女たちに手伝ってもらわないと、完璧には着付けができないのだ。


 だが、このドレスは違う。

 どんな仕組みかは分からないけど、内側の紐を引いてみたら、一人で簡単に着ることができたのだ。


「それに凄く軽い……まるで背中に羽が生えているよう……」


 着こなしを確認しながら、マリエルは更に感動する。

 普通の令嬢ドレスはかなり重くて、動きにも制限がかかる。


 だがこの虹色のパーティードレスは違う。

 逆に全身に力がみなぎり、思い通りに身体が動かすことが可能。まるで何かの加護の力があるみたいだ。


「ああ、これもハルク様のお力なのですね。本当にありがとうございます」


 マリエルはドレスの胸に両手をあて、想い人に感謝を告げる。その人の顔を思い浮かべているだけで、全身から勇気があふれ出てきた。


「では、いって参ります!」


 新しいパーティードレスを着て、マリエルは控え室を飛び出していく。


「マ、マリエル様、そのドレスはいったい⁉」

「説明は後で。では参りますわよ!」


 驚く家臣団と侍女を引き連れ、マリエルは颯爽と廊下を突き進んでいく。

 これから彼女が向かう先は戦場。

 陰湿なミカエル外交官と令嬢が待ちかまえる宴の場。


 だが今のマリエルには何も怖いものはない。想い人の頼もしい力を、自分自身に感じていたからだ。


 ◇


 ◇


 ◇


 その日、ミカエル王宮の宴で、一つの伝説が作られた。

 伝説を作ったのは、ハメルーン国の第三王女マリエル。


 彼女が会場に登場して、ミカエル貴族令嬢たちは目を丸くする。

 何故なら予想とはまったく違うパーティードレスを、マリエルが着こなしていたからだ。


 彼女が着ていたのは、大国ミカエル王国の大貴族ですら持っていない、虹色に輝くパーティードレス。


 嘲笑する準備をしていた令嬢たちは、思わず逆に見惚れてしまう。

 そして言葉を失い、下を向いしまう。

 マリエルの素晴らしいドレスに比べたら、自分たちのドレスがあまりにも貧相に見えてしまうからだ。


 その光景を影から見ていたミカエル外交官は、顔を真っ青に染める。

 何故ならミカエル令嬢たちに恥をかかせてしまったのは、この男の責任。

 あとで彼女たちからどんな酷い仕打ちをされるか、想像もできないのだ。


 一方でマリエルは宴で大人気だった。

 ミカエル王国の男性貴族たちに、絶大な注目を浴びていたのだ。


 男性たちはマリエルの美貌と、ドレスの美しさを褒めたたえる。ミカエル王国内にマリエルのファンが増えていった。


 国主催の宴で、ファンを増やすことは重要。今後の外交において、マリエルとハメルーン国は一歩前進したのだ。


「ハルク様……ありがとうございます」


 虹色のドレスに手を置きながら、宴の最中のマリエルは終始に渡り笑顔であった。


 ◇


 ◇


 ◇


 ◇


「よかったマリエル……あんなに嬉しそうで」


 そんな宴の様子をボクは、会場の鏡“ミスリル・ミラー”の反対側から見守っていた。笑顔のマリエルを見ているだけで、自分も幸せな気分になるのだ。


「ハルク君、お待たせしました! マリエル様。どうなりましたか⁉」

「おい、小僧、大丈夫じゃったか⁉」


 ミスリル・ミラーの隠し通路に、サラとドルトンさんも到着した。


「はい、大丈夫でしたよ。なんとかマリエルにバレずに、《マリエル専用可憐服(パーティードレス)》を渡しました!」


 二人にも王宮での出来ごとを説明していく。


 こうして少しバタバタしちゃったけど『マリエルを影ながら助ける作戦』の第一弾は、無事に成功したのであった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 失敗じゃないですか?
[一言] いつも応援してます! 次の更新も楽しみにしてますね、
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。