第50話:友マリエルのために
王女マリエルを影ながら護衛するために、ボクたちはミカエル城内に潜入。
ミカエル外交官は友好的なふりをして、無理難題をマリエルに押しつけ。今宵、王宮に参加するためのドレスがなく、マリエルは窮地に陥る。
「ドレス屋さんに行きましょう!」
彼女を助けるため、ボクたちは王都のドレス屋さんに向かう。
王宮から秘密の通路を使って、一気に城外へと脱出。そのまま王都の大通りにやってきた。
「ふむ。おそらく、ここが王都一のドレス屋じゃろうな」
ドワーフ老鍛冶師ドルトンさんの案内で、通り沿いのドレス屋前にやってきた。店前のショーウインドーには色んなドレスが飾られている。
「あっ……マリエルだ」
店内にマリエルたちハメルーン使節団がいた。必死に店の人と話をしている。
おそらく『王女クラスのドレスを、今日中に用意できないか?』と、交渉をしているのだろう。読唇術で雰囲気がなんとなく分かる。
店主は首を横に振って答えている。正式なドレスとなると採寸から、仕立てまで最低でも一週間はかかる。
しかも王女クラスの格があるドレスは、普通の服のように市販はされていない。全てが当人の体格に合わせて作るオーダーメイド品。
だから王都一のドレス屋でも急に用意は出来ないのだ。
「ハルク君、マリエル様、頑張っているね……」
「そうだね。ハメルーン国の代表者として、諦めていないね」
マリエルは必死に交渉をしていた。他の店の情報も聞いて、ドレスが余っている貴族令嬢の話も聞きだしている。
意地悪なミカエル外交官に負けないように、ハメルーン魂で最後まで足掻こうとしているのだ。
「どうするのじゃ、小僧? 姫さんがいるから、この店には入れないぞ」
「いえ、店に入る必要はありません。もう目的は果たしたので、一旦、ボクの屋敷に戻ります!」
「なんじゃと⁉ それは、どういう意味じゃ?」
「後で説明します!」
今は時間がない。二人への説明は後回し。屋敷街のボク名義の屋敷に戻っていく。
◇
屋敷に帰宅する。
そのまま庭のドルトン工房へ入っていく。
「それじゃ作業を始めます。できればドルトンさんとサラにも、手伝って欲しいです」
「手伝うだと? それは構わんが、いったい何を? もしかオヌシ……」
「はい、そうです。これから“マリエルのドレス”をここで作ります!」
思いついた作戦は『ボクがマリエルのドレスを作ること』だ。
これならば時間的にギリギリ間に合う。上手くいけば、マリエルに恥をかかせないで済むのだ。
「ドレスを作る、じゃと⁉ もしかしてオヌシ、裁縫の技術もあるのか⁉」
「いえ、裁縫は苦手です。だから今回はコレを使います……【収納】!」
収納から“大きな布”を取り出す。
普通の布にみえるけど、これ金属製の布“ミスリル布”だ。
これはボクが今も着ている《鎧服》の用の生地。
ミスリル板を極限まで薄くして、糸のように加工して、それを編んでいって、洋服の生地のように滑らかに加工ものだ。
耐久性があり、見た目と質感が絹シルクのよう。虹色に輝く見栄えのする生地で、これならドレスの生地にピッタリなのだ。
「ボクは裁縫できませんが、鍛冶師なのでこの“ミスリル布”は加工できます。今回は、この布でマリエル用のドレスを作ります!」
「な、なんじゃと……たしかに、オヌシの規格外の鍛冶の腕があれば、間に合うかもしれんな。だが、デザインはどうする⁉ 王女クラスのドレスのデザインとなれば、専門家でも難しいぞ⁉」
「それも問題ないです。先ほど王都のドレス屋さんで、“ドレスの基本形”は記憶してきました。あとはハメルーン王宮でマリエルが着ていたドレスのデザインを、そのまま融合させて形にしていきます!」
先ほどドレス屋さんに行ったのは、店頭に展示のドレスの形を記憶するため。
あの瞬間で、生地パターンの形と細部の飾りを、全て記憶しておいた。あとはマリエルのドレスと融合させて、ミスリル生地を加工していくだけだ。
「な、なんじゃと……あの一瞬で、ドレスの生地のパターンを記憶しておったのか、オヌシは⁉ 相変わらずとんでもない才能だな」
「実は記憶力だけは、昔から無駄にいいんです。それじゃ、急いで作りましょう! でボクが基本形を作っていくので、ドルトンさんはサポートをお願いします!」
「ああ、分かった。そのぐらいならワシに任せておけ」
「ハルク君、私にも何か手伝わせて!」
「それならサラはモデルをお願い。マリエルに体型が似ているから」
「はい、分かりました!」
ボクたち三人は作業に取り掛かる。
まずは極薄のミスリル布を、ドレスのパターンの布としてカット。
パーツを組み合わせてドレスの形を作っていく。何度もサラに試着してもらい、修正を加えていく。
それと並行して王女クラスのドレスとして、相応しい装飾品も付け加えていく。
(マリエルのイメージを最大限に引き出すために……)
色白で美しい銀髪の可憐な王女マリエル。
でも意外と気が強くて、負けず嫌いで、頑張り屋さんなところもある彼女の良い点。
マリエルのことを頭の中に思い浮かべながら、ドンドン作業をしていく。
◇
「よし、できた!」
二人の協力もあってドレスが完成。
――――その名も《マリエル専用可憐服》だ。
自分で言うものなんだが、見事な出来栄えのドレスだ。
「ハルク君、時間が⁉」
「あっ、本当だ!」
ドレス作りは慣れない鍛冶師仕事。
気がつくと、けっこうな時間になっていた。
王宮での歓迎の宴の時間が迫っていた。
完成したドレスを、急いでマリエルに届ける必要がある。
「小僧、先に持っていけ! 鈍足なワシらは後で、王宮に向かう!」
「ハルク君、マリエル様を助けてあげて!」
「うん、それじゃ先に行ってくるね!」
ボクはドレスを【収納】して、工房を飛びしていく。
「マリエル、待っていてね。すぐに届けるから……」
こうして“少しだけ”急いで、ミカエル王宮へ向かうのであった。




