第46話:豪華な屋敷
王女マリエルを影ながら護衛するため、ミカエル王都にやってきた。
期間中は先々代ミカエル国王から褒美で貰った、屋敷に住むことになる。
「それではハルク様。屋敷内にご案内いたします」
「ありがとうございます、セバスさん」
セバスさんは二十代半ばくらいのオールバックの青年で、かなり仕事ができる雰囲気。
元はルインズ様の執事で、この屋敷でボクたちの世話をしてくれる人だ。
「こちらが食堂です。こちらの部屋が寝室……あちらが客間になっております、ハルク様」
セバスさんの先導で、ボクたち三人は屋敷の中を散策していく。部屋数は数十以上で、内装も凄く豪華な屋敷だ。
「ハルク君、凄いですね……下手したらハメルーン王宮よりも立派ですね」
「そうだね、サラ。予想以上だね……」
二人で目を丸くしながら散策していく。
小都市国家ハメルーンに比べて、ミカエル王国の規模は何倍も大きい。その分だけ屋敷の豪華さも大きいのだ。
「ふん。ワシは落ち着かんがな。こんな豪華な屋敷は」
「あっはっはっは……実はボクもです」
ドワーフ職人のドルトンさんの意見に、思わず共感する。
ボクは幼い時から、地下鉱脈の中で生活してきた。
豪華さとは一度も縁なく、ひたすら金属と鉱石の中での日々。こうした王族のような屋敷に落ち着かないのだ。
「……以上が簡単な屋敷の説明になります。基本的に食事や着替え、外出の馬車の用意など、使用人が行います。それ以外で、なにか質問はありますか、ハルク様?」
案内を終えて、セバスさんが後ろを振り返ってくる。
かなりクールで仕事ができる感じ。何事にも動じない、仕事ができる人なのだろう。
「ありがとうございます、セバスさん。えーと、確認なんですが、この屋敷の今の名義はボクなんですよね?」
「はい、もちろんでございます。ハルク様の子孫まで相続されていく、屋敷でございます」
「あっはっはっは……子孫か。それなら生活しやすいように、“少しだけ”手直ししてもいいですか? あっ、もちろん、王都を去る前に元に戻しておきます」
気になることを聞いておく。職人時代でも事前に確認しておくことは、大事なのだ。
「手直し、ですか? はい、もちろんでございます。この屋敷と庭の中なら、ハルク様のお好きなようにできます」
「分かりました。ありがとうございます! あと困った時だけ呼びに行くので、セバスさん使用人さんたちも、気楽に待機していてください」
「……はい、かしこまりました。それなら夕食の時に、また声をかけにまいります」
確認作業は無事に終わる。
屋敷の案内が終わり、執事セバスさんが立ち去っていく。
少し離れた執事室で待機しているという。
ボクはサラとドルトンさんと三人で、屋敷の中庭に向かう。
「よし、それでは“少しだけ”手直ししましょう! とりあえず工房を出しますね、【収納】!」
シュッ、ドン!
収納のスキルを発動。ハメルーンから持ってきたドルトン工房を、中庭の上に出す。
ちょうどいい広さの庭だったから、ドルトン工房がちょうどとマッチしている。
「お、おい、ハルク! こんな屋敷の正面に、工房を置いて何を考えているんじゃ⁉」
「いやー、ちょうどいい広さが、ここしかなかったので。それに正面だと、移動も便利なので」
「でもハルク君、いきなりこんな巨大な工房を出すのは、さすがに……屋敷の中の使用人の皆さんが、驚いていますよ」
「あっ、本当だ!」
工房を出す時に、けっこう大きな音が出てしまった。
屋敷の中にいた使用人が窓から、目を点にして口を開けて驚いている。中には腰を抜かしているメイドさんもいた。
そんな中でも、二階にいたセバスさんだけは冷静な顔。氷のように固まってクールにしている。
「後でセバスさんにダメ出しされたら、工房の場所を変えておきます。あっ、あと、もう一つ出しますね……【収納】!」
シュッ、ドン!
もう一度、収納のスキルを発動。
ドルトン工房の連結する感じで、別の工房を出す。
「お、おい、小僧……こっちの工房は何じゃ⁉ 初めて見るぞ⁉」
「こっちは“サラ専用の魔道工房”です。こっそりハメルーンで作っておいたのを、収納しておいたんです!」
バルドス戦の前から、サラはドルトン工房で、ポーションを作る機会が多くなっていた。
でもドルトン工房は鍛冶専用の工房で、繊細な魔道工房には向いていない。
だから内緒で“サラ専用の魔道工房”を製作していたのだ。
材質は加工しやすいミスリル金属製で、内部の清潔さも保っている。
研究部屋以外にも宿泊部屋もあるので、女の子であるサラのプライベートも保てる設計だ。
「えっ……私、専用の魔道工房……ですか⁉」
「あっ、もしかしてデザインが気に食わなかったかな、サラ? 言ってもられたら修正するから。ミスリル製だからすぐに直せるから!」
「いえ、凄すぎてビックリしていただけです。実家の工房よりも立派で、本当に嬉しいです、ハルク君」
よかった、サラも気に入ってくれた。
本人の了承も得られたから、作業を続行。
サラの勉強道具や研究道具、ポーション抽出機器や材料を、魔道工房内に設置していく。
「よし、これでOK。ドルトンさん、サラ。いちおう中の方を確認しておいてください!」
「ふう。分かったわい。それならワシは夕食前まで、工房で仕事しておるぞ」
「ありがとうございます、ハルク君! 私も新しい素敵な魔道工房で、勉強してきます!」
二人ともそれぞれ自分の工房に入っていく。
たぶん豪華な貴族屋敷よりも、工房が落ち着くのであろう。ボクも同じだからその気持ちは分かる。
「それじゃ、もう少しだけ、“少しだけ”手直しするか!」
ボクは一人で、屋敷の庭の散策を続行。
地面からの“声”に耳を傾けながら、目的の場所を探していく。
「ん? なるほど、この下だね。ありがとう。よし、道具を出すか、【収納】!」
今度は収納の中から、道具を取り出す。
取り出したのは、螺旋状に鋭く尖った、大きめの槍のようなドリル。
邪竜バルドスの強化竜鱗を、貫通したミスリル製のドリルだ。
ドルトンさん曰く『地獄の岩盤すら貫通しそうな、恐ろしいドリル!』で、
――――その名は《円錐螺旋・改》だ!
でも《円錐螺旋・改》の本来の戦闘用ではない。
今回は本来の目的で使用するので、地面に垂直に刺し立てる。
「よし、いくぞ。ミスリル・モーター起動!」
手元のスイッチをオンにする。
《円錐螺旋・改》は持ち手部分に、小型のミスリル・モーターを内蔵していた。
ウィ――――ン!
静かな金属音が響き渡る。
《円錐螺旋・改》が凄まじい速度で、高速回転を開始したのだ。
《円錐螺旋・改》は一瞬で、地面の中に消えていく。高速で地面の下を掘削していったのだ。
「おっ、さすがはミスリル・モーター。手動よりも何倍も早いな。よし、作業しながら、他の採掘道具も出していこう!」
排出した土と岩を、ボクの【収納】にどんどん押し込めていく。
途中の長さの足りなくなるシャフトも随時、追加して掘り下げ。
シャフトは連結することで、三千メートルまで採掘可能。今回は1,500メートルに源泉があるから問題はない。
穴を掘りながらミスリル製の200ミリ口径のパイプを、道中に通していく前回と同じ掘削の方式だ。
キュイーーーーン!
《円錐螺旋改》は静か音を出しながら、どんどん地面を掘削していた。
静音機能と排熱性能に優れたミスリルは、連続でも使用しても問題ない。まさにミスリルは掘削のために存在している金属なのだ。
「おっ、もう、こんなな深さの採掘を。さすがはミスリル・モーターだな」
ボクの非力な力だと100メートル掘削するのに、三十分もかかってしまう。
だが改造したミスリル・モーターと高速ギアのお蔭で、100メートル採掘するのに、今のところ10分しかかかっていない計算だ。
「ん? この感触は?」
約150分間、ちょうど1,500メートル掘削したところで、確かな手応えがあった。
ミスリル・モーターを一度止めて、ボクは地上の準備も整えておく。源泉が溢れ出してもいいよう、蛇口型の器具を取り付けていくのだ。
「よし、もう一度、動かして……このままいけば……よし、きた!」
しゅわーーードーーーーーーン!
温泉用の蛇口から、温かいお湯が出てきた。
最初は土色だったけど、段々と乳白色になってくる。
触って確かめてみるが、うん、ちょうどいい温度。
これなら水を足さなくても、人が入れそうな感じだ。
「あとは、中庭のこの辺を、岩で“少しだけ”手直しして……周りにはミスリル布で壁を作って……よし、出来たぞ!」
採掘時間も併せて、約二時間で中庭のリフォームが完成した。
温泉が出る部分は、岩を基調した天然露天風呂に改造。
中庭はけっこう広かったので、露店風呂は男女で分けてある。女子用の周りにはミスリル布の不可視性の壁もあるから、覗かれる心配はない。
あと男女とも十人くらい入っても余裕な広さなので、セバスさんたち使用人さんも入れる設計だ。
よし、まずはドルトンさんとサラを、工房に呼びに行こう!
「な、な、なんじゃ、これは⁉ まさか温泉なのか⁉ いつのまに採掘して、こんな立派な露天風呂を作ったのじゃ⁉ いや、ワシはドワーフ族だから温泉は大好きじゃが、この状況が訳が分からんのじゃ⁉」
「す、凄いですハルク君……ありがとうございます!」
二人とも喜んでくれた。頑張って作った甲斐があったものだ。
「よし、次は屋敷の中も、“少しだけ”手直ししようかな? 夕飯が終わってから!」
こうしてハルクの魔改造の手は、屋敷の中にまで及ぶのであった。




