第45話:王都の屋敷
王女マリエルを影ながら護衛するため、ミカエル王都に到着。
住まいを探すために、王都の屋敷街にやってきた。
「おい! そこのお前たち、そんな所で何をしている⁉」
そんな時、武装した人たちが、こちらに駆けてくる。ミカエル軍の正規の衛兵だ。
屋敷の前でウロウロしていたボクたち三人を、不審者だと思ったのだろう。
「すみません。実は昔、“ある人”からこの屋敷を褒美として貰って、まだ有効なのか念のために確認にきました」
逃げたら罪が重くなりそう。逃げ出さず正直に話すことにした。
万が一に捕まった時は、その時に考えることにする。
「なんだと⁉ この屋敷を褒美に貰っただと⁉」
「この屋敷を管理しているのは、どなた様だと心得ているんだ⁉」
「もしや帝国のスパイか⁉」
褒美に貰ったと聞いて、門番たちは激怒。槍先を向けてくる。
帝国はミカエル王国の敵対国。スパイだと思われてしまう。
これはマズイ。誤解を解かないと。
「スパイではないです。これは当時、褒美に貰った時の書類なんですが」
先々代の国王から直接貰った書類を、慌てて門番に見せる。
たぶんボクが追放されたことで、有効は切れているのだろう。
でもボクの名前も書いてあるので、帝国のスパイじゃないことを証明する。
「なんだ、その書類は……?」
「おい、見てみろ。あの印は……まさか、先々代様の王印じゃないか⁉」
書類を見て門番たちの態度が急変。誰もが目を見開き驚いている。
「それにコイツの……この者の名前を見てみろ……『親愛なるハルク殿』と書いてあるぞ!」
「ま、まさか、この者は先々代様がいつも言っていた、“あのハルク殿”なのか⁉」
書類とボクの顔を交互に見比べて、なにか話し合いをしていた。どう対応すればいいか明らかに困っている。
いったいどうしたんだろう?
――――そんな時だった。
「どうした。何かあったのだ?」
更に別の集団がやってくる。
隣の屋敷から向かってくるのは、初老の貴族っぽい男性を先頭にした人たち。
もめていたボクたちのことを、うるさいと注意しにきたのであろうか?
「あれ? ルインズ様?」
やってきた初老の男性の顔に、ボクは見覚えがあった。数年ぶりに見る人だ。
でも向こうはボクのことを覚えているかな?
「ん? その声……その顔は、まさかハルクか⁉」
「はい、そうです。ご無沙汰しています、ルインズ様!」
よかった。向こうもボクのことを覚えている。
ルインズ様は嬉しそうな表情で、こちらに駆けてきた。
「ハルク君、あの人と知り合いですか?」
「どう見ても貴族じゃが、大丈夫か、小僧?」
後ろでサラとドルトンさんが心配してくれていた。
今のボクは追放された身。顔見知りに会うのは、危険だと思っているのだろう。
「たぶん大丈夫です。あの人はルインズ様……先々代のミカエル国王。悪意はないはずです」
「えっ、ハルク君、先々代のミカエル国王と、顔見知りだったんですか⁉」
「うん、そうだよ。ボクがお世話になった人で、父親みたいな存在かな?」
生まれの里から五歳の時に、ボクはミカエル王城にやってきた。
当時から採掘と鍛冶仕事は出来ていたけど、精神的には幼い五歳児。
そのため当時国王だったルインズ様が、ボクのことを父親のように可愛がってくれたのだ。
「なんと、まあ……ミカエル城の地下で採掘していたのは聞いていたが、まさか当時の国王と親密だったとは。相変わらずじゃのう、オヌシは」
「説明足らずで申し訳ないです。あっ、そうだ。褒美のことを聞いてみます」
ルインズ様が近くまでやってきた。
周囲の門番たちは、直立不動の姿勢になる。
ボクはルインズ様と向き合う。まずは挨拶をしてから、褒美の話を聞いてみることにする。
「おお、ハルクよ! 大きくなったのう……」
ボクたちが前に会ったのは数年前。
ルインズ様が持病を理由に、王座を引退した時。それ以来は顔を会わせていない。
「はい、お陰様で。ルインズ様もお元気そうで」
「引退はしたが、まだ耄碌する訳には、いかないからな。そういえばハルク、先日は大変辛い想いをさせてしまったな。私の愚息ダラクの愚行のせいで、そなたを追放などさせてしまって……」
ダラクは先代の国王で、ルインズ様の実の息子だ。
ボクが追放されたことを親として、先々代として謝罪してくる。
「顔を上げてください、ルインズ様。ボクが追放されたのも、鍛冶師として高いパフォーマンスを発揮できなかったからです。それにダラク様のことも……ご愁傷さまです」
「愚息のことは気にするな。私利私欲に走ったあげく、邪悪な竜を刺激。天罰と思うしかないのだ」
世間的に先代のミカエル国王ダラクは、邪竜バルドスを激怒させ、焼き殺されたことになっていた。
「おっと、暗い話になってしまったな。ところでハルクは、王都にまた住むことにしたのか?」
「いえ。実は一ヶ月だけ、王都に滞在する用事があって、それで仮の住まいを探そうとおもって、この褒美の書類を思い出したんです」
ルインズ様に今回の件を説明する。マリエルのことは言わずに、あくまで個人的な理由としておく。
「なるほど、そうか。それならこの屋敷は使うがよい。何しろ名義上は、ハルクの所有物だからのう」
「えっ、すでに名義がボクに⁉ 実はこんな大きな屋敷だと思ってなかったので、何も準備もしていないんです」
本で見た知識だと、貴族の屋敷に住むには、色々と準備とお金が必要になる。
一番大変なのは、屋敷を維持するための専属人。
執事やメイド、庭師、料理人、門番など多くの使用人を雇い、維持する必要があるという。
「はっはっは……その点は心配するな。この屋敷は元私の離れ屋敷。今までの維持と警備は、私の方で行ってきたから、人員は全て私の方で用意しておこう。ハルクは短期滞在の気分で、ここに住むがよい。もちろん名義はハルクのままで大丈夫だ」
「本当ですか⁉ それは助かります!」
有り難い提案だった。
屋敷を褒美として貰っても、駆け出し冒険者のボクには、維持費を払う甲斐性はない。
でも短期滞在で間借りする感じなら、気兼ねなく住むことが出来るのだ。
名義のことは王都を去る前に、ルインズ様に返還しておこう。こんな大きな屋敷は身分不相応だからね。
「という訳だ、セバス。王都滞在中のハルクの面倒は、オヌシに任せたぞ」
「はい、ご主人様!」
ルインズ様の背後から、一人の執事が姿を現す。
二十代半ばくらいのオールバックの青年で、かなり仕事ができる雰囲気だ。
ルインズ様の説明によると、この執事セバスさんが中心となって、ボクの世話をしてくれるという。
何から何まで、本当に有り難い配慮だ。
「それではハルク様。屋敷内にご案内いたします」
「ありがとうございます、セバスさん」
セバスさんの先導で、ボクたち三人は正門をくぐっていく。
こうして短期間という形だけど、ボクは立派な屋敷に住むことになった。
◇
でも、この時のハルクは知らなかった。
ルインズ様からセバスさんへ密かな命令が出ていたことを。
「セバスよ。ハルクは絶対にミカエル王国に必要な逸材。この屋敷と王都に永住してもらう策を、講じるのだぞ!」
「はっ、お任せください!」
――――ルインズ様が策士の顔で、ハルクのことを逃がさないようにしていたのだ!




