第24話:荷馬車の走行テスト
拾ってきた廃棄馬車を修理して、“ハルク式荷馬車”が完成。
ドワーフの老鍛冶師ドルトンと一緒に、走行テストすることにした。
二人でやってきたのは、ハメルーンの街の城壁の外側。
城壁の上や周囲には、人影はない静かな場所だ。
「それじゃ、出しますね……【収納】!」
草原の真ん中に“ハルク式荷馬車”を取り出す。
車体が陽の光を浴びて、虹色に輝いている。
うん……我ながらカッコいいぞ。
「それじゃ、御者台に乗ってください、ドルトンさん」
「ああ。だが馬もなく、本当に動くのか?」
半信半疑なドルトンさんと、ボクは先頭の御者台に乗り込む。
後ろに荷台には荷物や人を乗せるので、運転手は御者台で操作するのだ。
「ん? その丸い輪っかとレバーは、何かの装置か? 見た感じ、下のタイヤを曲げるような感じじゃが」
おお、さすがは腕利き鍛冶師のドルトンさん。
ハンドルやシフトレバーの機能を、ひと目で理解してくれた。これは話が早い。
「はい、そうなんです。このハンドルで左右に曲がります。あと、こっちのシフトレバーで歯車の……ギアの変更をします!」
「なるほど、そういうことか。ところで馬に変わる、肝心の動力は何なのじゃ? もしかしたら風の力か? 砂漠の民が使う“風船”のような感じか?」
「いえ、違います。動力は“ミスリル・モーター”で、エネルギーは魔石です!」
「ミスリル・モーター? 魔石をエネルギーに? どういう意味じゃ?」
ドルトンさんは首を傾げている。
ボクも説明は得意ではない。実際に走らせながら説明した方が、理解が早いだろう。
「それは走りながら説明しますね。しっかり掴まってください! モーター起動!」
魔石とモーターを連結するレバーを回す。
キュイーーーーーン!
魔石のエネルギーを受けて、ミスリル・モーターが高速回転。
不思議な金属音を発生させる。
「な、何じゃ、この足元から聞こえてくる金属音は⁉」
「心配しなくても大丈夫です。ミスリル・モーターのコイルが回転しているだけなので。では発進しますね!」
ボクはシフトを発進のギアに繋げて、右足のアクセルを踏み込む。
ギュィイイン……
モーターの回転を車輪の軸に受けて、“ハルク式荷馬車”はゆっくりと前進していく。
おお、動いたぞ。
ボクは様子を見ながら、更にアクセルを踏み込んでいく。
ギュィイイン――――!
更にミスリル・モーターが高速回転。
いくつものギアを経て、荷馬車の後輪の軸を回転。
特殊な樹脂とミスリルの混合タイヤが、草原の大地をしっかりと蹴り出していく。
“ハルク式荷馬車”は一気に速度を上げる。
「な、な、なんじゃ⁉ この異常なスピードは⁉ 目の前に景色が飛んでいくぞ! 風が台風のように、ぶつかってくるぞ!」
予想以上の速度が出ていたのだろう。
ドルトンさんは手すりに掴まりながら、絶叫している。
でも確かに速度が上がってきたら、この風が厄介だな。
目にゴミとか虫が入りそうだ。
あっ、そうだ。
前にもフードと付けていたんだ。下げよう。
「あら、よっと。これで風は大丈夫ですよ、ドルトンさん」
ボクは運転しながら、目の前に透明なフードを降ろす。
先ほどまでのボクたちぶつかってきた風が、急に無くなる。
「た、たしかに……ん? この透明のなんじゃ⁉ ガラスではないよな?」
「はい、これはミスリル金属と水晶で作った、ミスリルガラスです。薄くて頑丈です」
ミスリルガラスは便利な代物。
ミスリルの強度を保ちながら、ガラスのように透明。
鉱山時代に作って収納しておいたのを、念のため車体の上に設置しておいたのだ。
「な、ミスリルのガラスじゃと⁉ そんなモノが作れるのか、オヌシは⁉」
「え? 何か言いましたか? それじゃ、もう少しスピードアップしますね!」
ドルトンさんは何か叫んでいるが、走行音がうるさくて聞こえ辛い。
後で聞くことにして、今はスピードの限界に挑戦してみる。
「な、これ以上、更にスピードが上がるのか⁉」
「はい、今は“ギア1”でした。次は“ギア2”にいきます。全部で“ギア10”まで作ったので、限界まで挑戦してみましょう! 鍛冶師として!」
「な、な、んじゃと⁉」
ドルトンさんは何かを叫んでいるけど、とりあえずギア2にシフトアップ。
アクセルを踏み込んでいく。
ギュィイイン――――!
ミスリル・モーターは更に高回転の金属音を発する。
比例するように“ハルク式荷馬車”は加速していく。
「おお、すごい! では次はギア3に挑戦だ!」
ギュィイイイイン!
そこから先は速度と、ぶつかる風との戦いだった。
ミスリル・モーターは、まだ限界に達していない。
だが正面からぶつかる風が強すぎて、車体がなかなか安定しないのだ。
「うーん、これは困ったぞ。あまり速度が速いと、風が邪魔になるのか。今後の改造の課題だな」
走行テストをしながら、課題を見つけていく。
隣ではドルトンさんが静かにしている。
もしかしたら高速移動を、静かに楽しんでいるのかな。
少し白目をむいているような気がするが、あまり気にしないでおこう。
ギュィイイイイン!
更に高速移動の限界に挑戦していく。
今のところ衝撃吸収装置によって、高速移動でも車体は安定している。
「ん? でも車体が浮いてくるな? これも今後の改造の課題だな」
速度が出すぎた弊害だろうか。車体が浮いてしまう時があるのだ。
今のところはハンドル操作で、何とかカバーしている。
これも何か対策を講じていかないとな。
――――そんな時だった。
ピキッ、ドーーーン!
車体が何かにぶっかってしまった……ような気がした。
でも“ハルク式荷馬車”は何事もなかったかのように、直進している。
「あれ? 今のは魔物図鑑で見た……“地走竜”に似ていたけど……気のせいか。やっぱり」
地走竜”に似た何かに、正面衝突したような気がした。
でも今はどこにもいない。
とにかく次からは、前をよく見て気をつけよう。
「ん? あれは?」
気がつくと、見覚えがある場所に到達していた。
見えてきたのは、隣国ミカエル王国の王都の城壁。
走行テストに夢中になって、いつの間にかミカエル王国の国土に入り込んでいたのだ。
「これはマズイな、引き返そう!」
何しろ今のボクは、ミカエル王国から国外追放された身。
本当は足を踏み入れてはいけないのだ。
「あら、よっと!」
ハンドルを左にきって、タイヤを滑らせながら車体をUターンさせる。
その反動で衝撃波が飛んでいった……ような気がする。
あくまで気がしただけなのでの、後ろは気にしないでおく。
「よし、戻るか」
“ハルク式荷馬車”の問題は何個か見つかった。
走行テストを終えて、ボクはハメルーンの街に帰還するのであった。
◇
◇
◇
この日、ハメルーン国とミカエル王国の間の土地で、多くの事件が起きていた。
――――『ギュィイイイイン!』という鳴き声の、奇怪な虹色の魔物が、超高速で駆け抜けていた! という謎の目撃情報が多数!
――――その魔物が走り去った後には、大地を裂くような轍が残された、という謎の痕跡が!
――――“地走竜”を含む、無数の危険な魔物の爆散した死骸が、各地で見つかった奇怪な事件が発生!
――――ミカエル王国の城壁が“強力な衝撃波”のようなモノによって、切断破壊されていた事件!
とにかく常識では解決できない、多くの事件が起きていたのだ。
◇
「ふう、戻ってきたぞ。ドルトンさん、着きましたよー。ん? 車酔いかな?」
ハメルーン近郊に戻ってきても、ドルトンさんは白目をむいて瞑想したままだった。
仕方がないので、前にサラの店で買った《怪我治療ポーション《小》》を飲ませてみる。
おっ、意識を回復したぞ。良かった。
あとは少し時間が経てば、ドルトンさんも元気になるだろう。
「ふう……それにしても楽しかったな。改善点を直せたら、またドライブに挑戦してみよう!」
こうしてボクの休日の趣味に、荷馬車での長距離ドライブが加わるのであった。




