第22話:拾い物の修理
水晶魚狩りの翌日になる。
今日は朝一に、先に冒険者ギルドに顔を出す。
目的は十五匹の水晶魚を、買い取ってもらうためだ。
本当は昨日の内に換金したかった。
でも【収納】で生きたままの水晶魚を、ギルドの受付で出すのはまずい。
だから収納から一度出して、死んだ状態で水晶魚を翌日に買い取ってもらう作戦にしたのだ。
「はい、ハルク君。たしかに水晶魚を十五匹です。こちらが報酬です」
無事に受付のお姉さんに、買い取ってもうことが出来た。
一匹600ペリカだから、今回は全部で9,000ペリカだ。
目標の一万ペリカには若干届かなかったが、これも冒険者としての日常。仕方がない。
「ハルク君。今ところ順調ね。ソロでここまで成功が続いているのは、なかなかないわよ」
「そうなんですか? 嬉しいです」
受付のお姉さんに褒められて、思わず心が高まってしまう。
お姉さんの年齢はボクより、けっこう上。
たぶん二十五歳くらいだろう。大人の綺麗なお姉さん、な感じだ。
「あっ、そういえばハルク君。“奇妙なあの噂”を聞いた?」
「えっ、あの噂? どんな噂ですか?」
友だちがいないボクは噂には疎い。でも正直なところ興味はある。
一体どんな奇妙な噂が流れているのだろうか?
「それが何でも北の樹海の“魔の池”で、“水死竜”の細切れ死体が、発見されたらしいのよ」
「えっ、あの“水死竜”が、死体で⁉」
魔物図鑑によると“水死竜”は、危険度ランクSの魔物。
Sランク冒険者パーティーや、加護持ち達人なければ、歯が立たない危険な魔物なのだ。
「しかも討伐届けは、どこのギルドにも出てないのよね」
「えっ……ということは、もしかしたら他の魔物との、争いで死んだ可能性もあるんですか?」
「いえ、それが鋭い刃物の、一瞬で細切れになっていたみたいなのよ。魔物の爪牙や、達人の剣技でも、あんな状態にならない……っていう発見者の話よ」
「うっ……それは奇妙な話ですね。ボクも気をつけます」
それでも北の樹海の“魔の池”は、ハメルーンの街からかなり遠い。
駆け出し冒険者のボクの行動範囲外。だから特に心配はないだろう。
「それじゃ、お姉さん。また明日来ます」
今日は冒険者の仕事を休む日。挨拶をしてギルドを後にする。
そのまま向かったのは職人街。
ドワーフ族の鍛冶職人、ドルトンさんの鍛冶工房に顔を出すためだ。
「あっ、ドルトンさん、おはようございます!」
工房に入って、主のドルトンさんに挨拶をする。
「ん、ハルクか。相変わらず元気じゃのう。また規格外の道具の整備をしにきたのか?」
「はっはっは……また冗談が上手いですね。実は素敵な拾いモノをしたので、修理にきました」
「ん? 素敵な拾い物じゃと?」
「はい。今から出しますね……【収納】!」
ボン、ドン。
収納から取得物を取り出す。
「ん、それは廃棄された荷馬車か?」
「はい、そうだんです! 昨日、街道の崖の下で、偶然見つけて拾ってきたんです!」
ボクが拾ってきたのは、馬に退かせるに荷馬車の荷台の部分。
何年か前に崖から落ちた物なのであろう。廃棄状態で落ちていたのだ。
「ふう。何かと思えば、そんな木くず状態の荷台か。どうするつもりなんだ?」
「とりあえず直してみようかと思います。壊れている物を拾うと、どうしても直したくなっちゃうんです」
ボクは昔からモノ作りが好き。
鍛冶製品だけでは、道具や建造物なら何でも大好きなのだ。
そして修理してピカピカになった姿も、好きなのだ。
「なるほど。そういうことか。まぁ、ワシらドワーフ職人も同じようなモンじゃが、お前さんは度が過ぎておるのう。荷台をオモチャ感覚で拾ってきた奴は、初めてみたぞ」
「はっはっは……面目ないです。それじゃ、工房の端をお借りします!」
「勝手にしていろ。ワシは自分の仕事があるから」
そう言い残して、ドルトンさんは奥に引っ込んでいく。
ボクは一人で荷台の修理に取りかかる。
「さて、やるか!」
まずは荷台を全て分解していく。
部品を全て取り外し、パーツごとに分別する。
使えない部分は、新規作成する。
加工をしやすいミスリルで、色んな形に成形。
荷台の軸や骨組み、板として組み立ていく。
「ん、そうだ、せっかくだから屋根の幌も付けよう!」
幌があれば雨の日でも、荷物が濡れない。
ミスリルを極限まで薄く伸ばして布状にする。
それを幌として荷台の上を被っていく。
「あっ、そうだ。タイヤは衝撃を吸収するようにしよう。何しろ護送の時に、揺れが凄かったからな……」
昔、ボクが編み出した“スプリング”という衝撃吸収装置を、荷台の下に付けておく。
あとタイヤの周り素材のミスリルに、地下鉱脈で採取した特殊な樹液を配合。
かなりの段差でも、ほとんど衝撃を吸収するタイヤと、衝撃吸収装置の完成だ。
「うん、完成したぞ!」
何とか午前中のうちに、荷台の修理が完成した。
木や鉄が腐り、使えない部品が多かったので、ほとんど全部ミスリル製に交換してある。
見た目は虹色に輝く、幌付きの荷馬車。
――――名付けて“ハルク式荷馬車”だ!
「ふう……いい感じだな。やっぱり修理は楽しいな。ん? あれ?」
そこでボクは重大なことに気がつく。
「しまった……ボク、馬を持ってないのに、荷台だけ修理しちゃった……」
かと言って、馬は買えない。
ハメルーンの街で前に値段を見たことがあるが、馬はかなり値段が高いのだ。
この大きさの荷馬車なら二、頭以上の馬が必要。
とてもじゃないけど駆け出し冒険者のボクには、手が届かない存在なのだ。
「どうしよう。せっかく修理したら、動くところを見たいな……あっ、そうだ。“アレ”を試してみよう!」
困った時に、天からアイデアが降りてきた。
鉱山時代にボクが実験で作った装置がある。
その装置を大型化できたら、馬が無くても馬車が動かせるかもしれないのだ。
「よし、早速、作ってみよう!」
こうしてボクはミスリル金属で作った“回転式電動機”、
――――名付けて“ミスリル・モーター”の製造に取りかかるのであった。




