第21話:池で釣りに初挑戦
森の中にあるバイカリ池に、魔物狩りにきた。
水晶魚という魚の魔物を捕まえるため、新しい道具を製造。
まずはミスリル製の釣竿で、水晶魚を釣りに挑戦することにした。
「うーん。なかなか釣れないな。よし、もう少し深い所を探ってみよう!」
思ったよりも釣りは難しい。
ボクは糸を更に垂らしていく。
ちなみに“リール”と呼ばれる回転式の糸巻き機能で、糸は500メートルまでなら長くできる。
手元でリールを操作しながら、池のルアー針を落としていく。
「ん⁉ この反応は⁉」
釣竿に、ビグン、という手応えがあった。
辞典に書いてあったように、ボクは慎重に、でも大胆にリール巻き上げていく。
ザッパーン!
おお、釣れた。
体長50センチくらいの大きな魚だ。
外見的な特徴から間違いなく水晶魚であろう。
土の上に落とさないように、ルアーでそっと掴む。
「うん。凄く綺麗な魚だな。まさに水晶魚だね、これは!」
初めての釣果に感動してしまう。
今までは鉱山の中にいたから、釣りはしたことはない。
人生で初体験のことに、思わず感極まる。
「おっと、早くしまおう。とりあえず【収納】に入れておこう」
ボクの【収納】の中には生きている魔物も、入れておける。
五歳で会得したばかりの時は、生物は収納不可能だった。
でも頑張って鍛錬して、魔物なら収納可能になったのだ。
ちなみに魔物や魔獣以外の、人とかの生物は生きたまま収納は出来ない。
「よし、幸先がいいぞ。どんどん、いくか!」
今回の水晶魚は一匹あたり600ペリカで、冒険者ギルドが買い取ってくれる。
一日の目標の一万ペリカを稼ぐには、えーと、十六匹くらい釣ればいいのかな。
ボクは釣り糸を池に垂らして、釣りに挑戦していく。
「ん? この手応えは! よし、きた!」
慣れてきたお蔭だろうか。先ほどよりも簡単に、釣ることが出来た。
釣った水晶魚は収納して、更に挑戦していく。
「おっ、釣れた!」「あっ、またきた!」
それから調子が良かった。
面白いぐらいに、どんどん釣れていくのだ。
「よし、これで十五匹目!」
時間が経ち、いつの間にか十五匹も釣っていた。
よし。目標まではあと一匹だ。
「でも、少し手応えが鈍ってきたら、“もう少し”深い所を狙ってみよう!」
感覚的に浅い部分の水晶魚は、全て釣ってしまった感じがする。
だから釣り針を思いっきって、かなり深い部分まで垂らしていく。
もしかしたら大物の水晶魚が釣れたりして。ちょっとドキドキしてきた。
「ん? この手応えは?」
けっこう強めの手応えが、釣竿にあった。
ボクは今までの経験をフルに活用して、リールを巻きあげてく。
魚と釣り人の、知恵と技術、力の戦いだ。
その内に水面に、大きな魚の影が現れる。
池の水面が激しく揺れて、津波のような感じになってきた。
「随分と元気な水晶魚だな。しかも大きいのかな。ここままだと釣り上げるのは難しいな……」
釣竿と糸はミスリル製だから、折れる心配はない。
でも今回の獲物は大きすぎて、引き上げるのが大変そうなのだ。
「あっ、そうだ! 網を使おう!」
釣り竿と一緒に作った、ミスリル製の投網のことを思い出す。
収納から出して、水面の下で暴れている水晶魚に、思いっきり投げ込む。
シュン、シャキーーーン!
ん?
集中で何か、凄い音がしたぞ。
例えるなら、『何か巨大な生物が、サイコロステーキ状に切り刻まれた』そんな感じの音だった。
何が起きたのだろうか?
「あっ、手応えが……」
気がつくと釣竿の手応えが、消えていた。
水面の水晶魚の影も消えている。
これは間違いない。
ボクは投網に失敗して、水晶魚を逃がしてしまったのだ。
十五匹も釣って、慢心していたのだろう。釣り人を名乗る資格はない。
「ふう。仕方がない。気持ちを切り替えていこう。次は、池の向こう側を狙おう!」
少し遠いところに、ルアーを投げ込んでみることにした。
釣竿を思いっきり振りかぶり、ルアーを投げ込む。
シュン、シュイーーーーン!
あっ、失敗してしまった。
勢い余ってルアーが、森の奥へと飛んでいってしまったぞ。
しかも何故か周囲の木々が、粉々に四散している。
どうしたのだろうか?
いや、それよりも、大事なルアー針を回収しないと。
ボクは釣りを一時中断。
リールで糸を巻き上げながら、ルアー針を投げ込んでしまった方角に、森の中を歩いていく。
釣り糸の長さは最大で500メートル。お蔭でけっこう森の奥まで来てしまった。
ん? そろそろルアー針のある場所かな。
ここからは釣竿で引っ張って、リールを巻き上げてみよう。
クルクル、シャッキーン!
ん?
何か『巨大な生物を、ルアー針と釣り糸で、斬り裂いたような音』、がしたような気がする。
でもルアー針が、ちゃんと飛んで戻ってきた。
よし、ちゃんとリールに巻いておこう。
それにしても、今の手応えは何だったのだろう?
釣竿を収納にしまって、ボクは手応えの有った森の奥に確認することにした。
「あれ? 誰かいる?」
手応えがあった近くに、人影があった。
折れた剣を構えたまま、立ち尽くしている剣士の人だ。
歳はボクと同じくらいだろうか。緑色の髪の毛のイケメンな剣士だ。
もしかしたらボクのルアー針で、この人に迷惑をかけてないかな。
とりあえず話しかけてみよう。
「あのー、どうしましたか?」
「なっ⁉ ま、魔族か⁉」
「いえ、違います。ボクは通りがかりの冒険者です。剣が折れて呆然としていましたが、何かありましたか?」
「冒険者⁉ 失礼しました。私はライルという流れの騎士です。実は先ほど、ここで“緑竜”に遭遇してしまい、窮地に陥っていたのです」
「えっ、ドラゴンですか⁉」
ボクは思わず声を上げる。
何しろ竜種は駆け出しの冒険には、手に負えない危険な存在なのだ。
「いえ、もう大丈夫です。危険な緑竜は、そこに転がっています」
「ん? この肉の塊ですか?」
ライルさんの指した方には、巨大な肉の塊があった。
何か鋭い針や糸で、ズタズタに切り裂かれたような死体は。
「これはライルさんが、倒したんですか?」
「いえ、私ではありません。剣が折れて窮地に陥った時に、どこからともなく“虹色の閃光”が飛んできて、直後、緑竜を斬り裂いたのです。それで私は呆然としてしまっていたのです」
「ええ⁉ そんな奇跡みたいなことがあるんですね」
世の中には、常識では測れないこともある。奇跡的な出来ごとに、ボクは感動してしまう。
「ふう……でも、困ったな。剣が折れてしまって、このままでは使命が果たせない」
何やらライルさんは困っているようだ。
恐らく予備の剣がないのだろう。折れた剣を見つめて深刻な顔をしている。
「あの、良かったら、その剣を直しましょうか? 実はボク、鍛冶師でもあるんで」
「本当ですか⁉ それは有り難い! あっ、でも、鍛冶工房がないと……」
「あっ、そのくらいの損傷なら、工房の器具がなくても直せます」
「ほ、本当ですか⁉ それなら頼みます!」
ライルさんから折れた剣を預かる。折れた先を拾って、断面を確かめる。
「うん、これなら応急処置で直りそうだな」
背負い袋から、簡易型の仕事道具を出す。
地面の上に置いて、ミスリルで補強しながら修理していく。
「はい、直りました」
「えっ⁉ 軽く叩いただけだったけど……あっ、本当だ! 完璧に治っている! す、すごい!」
ライルさんは感動しているが、ボクは大したことはしていない。
ポキッと綺麗に折れた剣を、ミスリルを媒体にして叩いて、接着しただけなのだ。
でも叩いた分だけ、強度は前よりも上がっているはずだ。
「あっ、そうだ。釣りに戻らないと。それじゃ、ライルさん、良い旅を。失礼します!」
「えっ、ありがとうございます。アタナの名前を……って、消えた⁉」
後ろからライルさんの驚き声が、聞こえたような気がしたけど、ボクはバイカリ池に戻り釣りを再開。
でも池の中が何故か赤く染まっていて、水晶魚は一匹も釣れなかった。
仕方がないので今回の任務は十五匹で我慢。欲を出さずにハメルーンの街に戻ることにした。
◇
◇
だがハルクは知らなかった。
――――騎士ライルは実は“とある帝国”の近衛騎士だったことを。ハルクが直した剣は“魔剣”のような性能に劇的に進化。そのお蔭でライルは後に、大陸を救う英雄の一人になることを!
――――あとバイカリ池が真っ赤に染まっていたのは、ハルクのミスリル投網の斬撃によって、危険度Sランク魔物“水死竜”をサイコロステーキ状態に切り刻んだことが原因なことを!
――――あと、緑竜を切り刻んだのも、ハルクの投げたミスリル製のルアー針と糸が――――!
◇
「ふう……なんか、色々あったけ、釣りもけっこう楽しかったな。気が向いたら、また釣りしようかな? 今度は海釣りもいいかもね!」
こうしてボクは仕事をしながら、新しい趣味の世界を見つけたのだった。




