第19話:ポーション屋さん
回復系ポーションを買いにいって、目立たない小さな魔術屋さんを発見。
サラという店番をしていた、ショートカットの青髪の少女がいた。
駆け出し魔術師である彼女のポーションを試すために、魔道具の修理をすることになる。
「うーん、これがポーション抽出の魔道具か」
店の奥にあったのは、棚くらいの大きさの魔道具。
薬草や色んな薬が入った、大きなガラス瓶が乗っている。
数種類が混じって、下から回復系のポーションとして抽出される仕組みだ。
「かなり複雑な魔道具ですが、大丈夫ですか、ハルクさん?」
「うん、これなら何とかなりそう。ちょっと待っていてね、サラ」
ミカエル王国にいた時に、魔道具の修理もしたことがある。
城の宮廷魔術に頼まれて、魔道具士みたいな真似もしていたのだ。
だから魔道具の修理も、けっこう得意な方。
本業は鍛冶師だったけど、道具作りと修理なら、ボクは何でも好きなのだ。
「ありがとうございます。それでは私は少し、奥に材料を取ってきます」
サラがいなくなったので、ボクは一人で修理に取りかかる。
「えーと、この部品が消耗しているな。それなら、ボクの荷物から予備の部品を出して……よし、これでOK!」
修理は無事に完了した。
結果として魔道具の中の金属製の部品が、消耗して調子が悪かったのだ。
だからミスリルの針金を加工して、修理しておいた。
「ん? 隣の抽出魔道具も壊れているのかな? 一応見ておこう……よし、これで、こっちもOKだ」
そんな時、奥からサラが戻ってきた。
「たぶん、直ったと思うから、試してみて、サラ」
「はい、ありがとうございます。ちなみにハルクさんは、何系のポーションを所望ですか?」
「えーと、ボクは駆け出しのソロ冒険者なんで、“軽く怪我を直す系”と、“解毒ポーション”が欲しいかな?」
「はい、分かりました。ちょっと待ってください」
サラは慣れた手つきで薬草を調合。魔道具で抽出していく。
その手つきを見ただけで、何となく分かった。『サラはかなり魔術師の才能がある子』だと。
本人は駆け出し魔術師を名乗っているけど、たぶん大人の魔術師と同じくらいの能力があるのだろう。
少なくともミカエル王国の近年のダメな宮廷魔術よりは、よっぽど魔術をしっかり鍛錬している様子だ。同世代として感心してしまう。
「はい、ハルクさん。お待たせしました。《怪我治療ポーション《小》》と《解毒ポーション《小》》です」
「おお、ありがとう! これがボク用のポーションか。なんか、感動するな……」
今までポーションは見たことはあるが、使ったことはない。
小さな小瓶に入った液体を見て、思わず感動してしまう。
「あっ、ハルクさん。効果は《弱》しかないので、あまり効果は過信しないでください」
「了解。でもボクは採取系の仕事しかしないので、たぶん大丈夫なはず」
ポーションや魔術の効果と威力には、次のように何段階かある。
――――◇――――
《弱》:少しの効果と威力しかない。
《中》:けっこうな効果と威力がある。
《強》:かなり効果と威力がある。
《超強》:超絶な効果と威力がある。
――――◇――――
大まかに、こんな感じだ。
強力になれば魔法やポーションの効果と威力は強力になる。
その代わり消費魔力も大きき、精度も難しくなっていくのだ。
これらは魔術辞典に書いてある、基本的な知識だ。
「採取の仕事をしているんですね。街の外の世界は、楽しいですか、ハルクさん?」
「そーだね。色んな発見があって楽しいよ!」
ボクは五歳の時から、ミカエル王国の地下鉱脈で仕事をしてきた。
鉱山や鍛冶の仕事は好きだから、地下での暮らしは苦ではなかった。
でも正直なところ今の冒険者の暮らしの方が、何倍も楽しい。
見るもの全てが新鮮で、常に驚きと発見があるのだ。
日銭を稼ぐ必要はあるが、その分だけ人として成長している充実感もあった。
「そうですか……ハルクさん、うらやましいです……」
「ん? もしかしたらサラは、あまり街から出らないの?」
寂しそうな顔をしていたので、思わず聞いてしまう。
「はい、そうです。お婆ちゃんの方針で、この家の中での修行がメインなんです。でも本当は……ちょっとだけ、興味があります。変ですよね、こんな歳で、引き籠っていて……」
「うんうん。そんなことないよ! ボクだって五歳の時から、地下に引き籠っていたからね! だからサラも大丈夫だよ! ボクで良かったら、機会があったら街の外を案内するよ! あっ、もちろんお婆ちゃんの許可がいるけどね」
「えっ、ハルクさんも同じようだった⁉ はい、ありがとうございます! お婆ちゃんに、後で聞いてみます」
落ち込んでいたサラは、少しだけ笑顔になる。元気になって良かった。
ボクは何となく昔の自分を見ているよう、放っておけなくて、ついお節介で言ってしまったのだ。
話も無事に終わる。
ポーション代金を支払って、店を後にすることにした。
「それじゃ、ありがとね。サラ。また足りなくなったら、買いに来るね」
「こちらこそ修理と、私の相談に乗ってくれて、ありがとうございました、ハルクさん」
少しだけ元気になったサラに見送られながら、ボクは軽い足取りで魔術街を歩いていくのであった。
◇
◇
◇
それから少し時間が経った、後の出来ごと。
マーズナル魔術屋に、一人の老婆が帰宅する。
サラの祖母であるマーズナルだ。
「サラ、店番はちゃんとしてたかい? といって、普通の者は、ウチの店を探せないけどね。けっけっけ……」
“マーズナル魔術屋”は特殊な店だった。
大陸でも最高峰の魔術称号の一つ《灰色の魔女》を持つ、この老婆マーズナルが周囲に《認識阻害》の結界を展開。
腕利きの冒険者や魔術師でも、入り口を発見が出来ないのだ。
そのため見つけることが出来るのは、Aランク以上の冒険者や、加護と称号持ちの英雄たちだけだった。
ここはハメルーンの中でも隠れた名店なのだ。
「いえ、お婆ちゃん。今日は客さんがきました」
「なんじゃって、客が⁉ ははーん。もしや《剣聖》かい? たしか今日はハメルーンに来ていたはずじゃからな」
「いえ、ハルクさんという“駆け出し冒険者”でした」
「な、なんじゃと⁉ 駆け出しの冒険者が、ワシの《認識阻害》の結界を見破ったじゃと⁉ もしや……天性の魔術師かもしれんのう、それなら」
「いえ、ハルクさんは鍛冶師でした。魔法は使えないので、回復系のポーションを買っていきました」
「な、な、魔法の使えない、鍛冶師じゃと⁉ なぜ、鍛冶師ごときが、ワシの偉大な《認識阻害》の結界を破れるんじゃ⁉ 訳が分からん、まったく!」
マーズナルは混乱していた。
多少は手加減をしてあるとはいえ、結界は一介の駆け出し冒険者に見破れる代物ではない。
しかも破った相手が鍛冶師ときたから、更に意味が不明なのだ。
「ふむむむ……余の中には偶然という、恐ろしいこともあるのじゃのう。とりあえず《認識阻害》の結界は、少し強めにしておくか」
マーズナルは結界を強化。これで偶然では絶対に見つけられないようになった。
「さて、新しい薬草を仕入れてきたから、試しにポーションでも作るか。まずは、基本の“回復《弱》ポーション”を……」
マーズナルは気持ちを入れ替えて仕事に取りかかる。
自分の魔道具で、ポーションを抽出していく。
「ふむ、良い感じじゃのう。“回復《弱》ポーション”が、いい感じに“黄金色”に……っ⁉ な、なんで、“回復《超強》ポーション”になっておるのじゃ⁉」
そして自分の目を疑う。
たしかに《弱》を作ったはずなのに、最高ランクの黄金色の《超強》になってしまったのだ。
「ん⁉ もしかしたらワシが間違っていたのかもしれんな。もう一度《弱》を作るか……よし、今度こそ……ん⁉ また黄金色の《超強》になってしまったぞ⁉ 何が起きているのじゃ⁉」
《灰色の魔女》の称号を持つマーズナルですら、この時は気がつかなかった。
――――実はハルクがサラの抽出魔道具だけではなく、隣にあったマーズナルの魔道具も勝手に修理していたことを。
――――特殊な加護のハルクが心を込めて修理した物は、全て異常な効果をはじき出すことを。
「くっ⁉ 何が起きているんじゃ⁉ 絶対に解明してやる。この《灰色の魔女》の名にかけて!」
こうしてハルクの知らない所で、また小さな事件が起きていたのだった。
◇
そして数日後。
「お婆ちゃん、またハルクさんが、ポーションを買いに来ていましたよ?」
「な、なんじゃと⁉ また偶然、ワシの結界が破られたというのか⁉ どういうことじゃ⁉ サラ、そのハルクという駆け出し冒険者を探すのじゃ!」
「えっ、でもお婆ちゃん。そのためには家の外に出ないと……」
「もちろん許す! 必ず見つけ出すのじゃ!」
「はい! 行ってきます!」
そして一人の少女に外にでる幸運の機会も、ハルクは作っていたのだ。




