従魔オンライン
レナが去った後。
木漏れ日の光がふわふわとまぶされた馬車の中で、宝箱を背もたれにして、クレハとイズミは頭を寄せていた。
とっても機嫌がよかった。
頭の中で、レナと遊んだ思い出を何度も繰り返した。
「我らだけで思い出独占してるのも、ね」
「一緒に語りたい気分かもなあ」
「なーんかさ、レナがいない間に、我らも大人に近づいたわよね? 大人ってなーに?」
「好きな人が健やかにいられるように、下支えすることに喜びを感じるときはそうかな?」
「あーね」
にひひと二人は笑い合う。
肩掛けななめがけカバンから、3センチほどの板を取り出した。薄く引き伸ばされた紫スライムボディを超硬化させて、キラが細工したものである。
「「最新版キラタブレット〜!」」
声を合わせて言うと、タップして起動した。
▽赤スライム さんがログインしました。
▽青スライム さんがログインしました。
アカウント名である。
赤い丸と、青い丸の、アイコンがパッと表示された。
他にも、従魔たちのアイコンが映っている。
縦長長方形の上にはアイコンが、真ん中にはコメントログが、下にはラナシュ文字ボードが並ぶ。
クレハとイズミは、まず、ログのチェックを始めた。
少し前までは、みんな、たあいのない日常の会話をぽつぽつとしていたようだ。
少し気になったのは、
[レナのアイコンはないんだよね。解禁しないの?]
[マスターレナは旅に集中してらっしゃいます。SNSは依存性が高く、現実がおろそかになりやすい。ルージュ邸にお戻りになられた時に、お誘い致します]
というログだ。
((なるほどキラママだ〜))
とクレハとイズミが顔を見合わせた。
レナはちゃんと会いに来てくれるし、いつかルージュ邸に戻ってくる。それなら、旅が早く終わってくれた方が嬉しい。キラのことだから、レナに相談もしてあるだろう。
ログを閉じると、新しい呼びかけが現れていた。
[クレハとイズミから通信だ]
[やっほ〜!]
[こないだ、オンラインになってたのに、昨日から急にログアウトしちゃったよね]
[何かあった?]
心配しているよ〜、と顔文字のスタンプが並ぶ。
[心配ご無用!]
[我らのもとにレナが戻って来てたのだ]
[えっ、ご主人様、遠くにいくのやめちゃったの?]
[うんにゃ。違くて、少し出発遅らせたのよー。道が通せんぼだったって]
へえー、のスタンプ。
流れが早いことに気づいて、オフラインだった従魔も現れた。
マイラは皿洗い中なので、ジレがタブレットを持って見せてあげているらしい。代理で2人分ね、と一言添えられた。
いいねマークが並ぶ。
[ラナシュルール発動ってね。通れない道はトラブルの予感☆]
[いやそれ基本的であたりまえの状況だから。トラブルじゃなかったら通れてるわけだから]
言った後で、ツッコミがきつかったかなと、オズワルドが不安になる。会っていれば声のニュアンスで伝わる雰囲気は、言葉だけになったとたんに難しくなる。
レナは教えていた。
不安な時は、不安になっていると言っていいこと。
オズワルドは一言添えて、みんなからオッケーの丸をもらった。
[レナ様に会えてるとそっちに夢中になるよね]
[ね!]
[同意]
[オフラインは致し方なし。ヒトの寿命は短いもん。現実優先で〜]
[分かりみ深しマリアナ海峡とはこのこと]
[マリア……って、何だっけ?]
[わかんない☆]
[ともあれ完全同意でございます]
▽誰が何を話しているか、想像してお楽しみください。
[従魔会議しようよ〜。なんか集まってる子、多いしさ]
[さんせいっ]
[ええーっ、リリーもいる! 珍しいね。商業ギルドは?……あっ、あとでレナにも伝えるから聞いとくんだぜ]
従魔会議ともなれば、基本的にはご主人様について語る会なのだ。
惚気がキホン、だがレナの過去や未来のはなしあいをする時は空気重めになりがち。従魔の愛は重めがち。
[えっと、実はね? なんだか黄魔法がうまく使えないんだあ。付与ができなくって……私だけじゃなくって、シヴァガン辺りの職人のみんな……だけどねっ?]
[えー!]
[ご主人さまの、従魔の、不調だし。ここで、相談していい……?]
[バッチこーい!]
[いいよー!]
リリーが控えめに近況を話す。
言葉を選んでいる時間がながいときは、"……"の考え中マークがあらわれる仕様だ。
[ふむふむ。ヒトの商業ギルドではとくにそんな話聞かないぜ。黄魔法のこと]
[ヒトは、問題なく、付与……できてるのかなあ……?]
沈黙を守っていたモスラがシュッと打ち込んだ。
[お待ち下さい。アリス様の取引先にてキャンセルが相次いでいる先があり、ヒトの付与魔法工房です。施設トラブルと伺っておりましたが、もしかすると、内々には黄魔法の不調かもしれません]
[長い文、打つの、はやっ]
[音声入力でございます。只今、休憩室に一人なので]
また、珍しいログインがあった。
[付与魔法は珍しいものだ。一部産業で独占されているし、魔道具は高値がつく。魔王国は妖精族がいるけれど、最大種族のヒトのほとんどが使えないものだから、知恵ある生命全ての割合は低い。そのせいで黄魔法の存在感がうすくなっているかもしれない。──と、僕の意見です]
[ルーカだ〜]
[相変わらず語るねえ]
[目ぇ大丈夫ー?]
[またムチャしてたら、傷んだ眼球をスライムジュエルに取り替えちゃうからね]
やいのやいの。
[こわっ。目、まだなんとかなってるよ。シュシュとディスに叱られるし、休憩入れてるから大丈夫]
[クスクスクス。もし、義眼にするなら、白水晶にスライムジュエルをはめ込んで、フェアリーアイの付与魔法……かけてあげるからね……?]
[ヒトで猫化で妖精はもう意味が分からないよ!?]
[いじられてますね……]
[ルーカ先輩ってそういうところある……]
[ミィ、こういうの好き♫]
[妾も♫]
[ルカにゃん身内に甘いからさぁ。つい甘えちゃうのん。ごめんちゃい]
[いいよ]
[いいんだ〜〜〜]
▽あまーーーーい!!
[キラアナウンスー☆]
[きた!]
[キラパイセーン!]
[今日も通知が輝いてるう!]
[黄魔法と付与について。商業ギルド内で黄色魔法勢力を広めること──これを旅の最中のハマルさんに従魔クエストとしてお願いします。また、チュナ帝国飛地女王へは付与魔法つきの白金毛布をさしいれしてもらいます。草の根活動から黄魔法の情報強化を試しましょう。結果はキラ・アヌビス・ルーカ・マシュマロで監視します]
[頼りになるっ♡]
[監視なんてきびしい言い方しちゃやーよ♡]
[以後気をつけます☆]
リリーが、ありがとうのハートをいっぱいつけた。
[私、しばらく、休養するよ。リリージュエリーが好評でね、けっこう働き詰めだったの]
[おつかれさま]
[おつおつー]
[リリーの休暇だ]
[ゆっくりしてね]
▽うずうず。
[バニラとはどうなの?]
▽切り込んだ!
リリーが返信を書いてくれるまで、みんなで見守る姿勢である。逃げ場がないともいえるが、リリーは言う気にならなければ、今はムリだと友達にうちあけられる。
[きゃっ。びっくりした。……えーっとねえ。ウフフ。成長を見守ってる感じかなあ? どんな状況なのかは、だいたいわかるもん。チョココがスイーツモンスターの様子を理解するみたいに……。私が、望んで、妖精王族のペアに成ってって、歌ったんだから。……今のところ、バニラの技能はいい感じみたい。……まだ会ってないから、性格とかは色々、わからないけどね?]
[ヒューヒュー]
[我らはバニラに会ってるぜ]
[………………どうだった?]
[なまいき!]
[旅を始めた頃の我らみたいに!]
[クスクスクス。じゃあきっと、これから、仲良くなれるね……♡]
▽恋バナだ!
▽会っておらずとも 相手に思い馳せるのは 甘酸っぱいものである。
きっとリリーが言えるのはここまでだ。
だらだらとダベりあいが始まり、すわ従魔会議もおわりかと思いきや、また、ぐいっと話題はレナに戻った。
[こうして従魔が穏やかに話せるのも、主さんが心穏やかにいてくれるおかげなんだよな]
しみじみさが溢れるオズワルドの文。
魔王ドグマや炎獅子組総長レグルス、カルメンとソレイユとともに切磋琢磨する日々はなかなか大変らしい。
シュッとピンクうさぎが長文レス。
[ほんとそーだよ!? シュシュ、別の主人のところにいたとき、ずうっとモヤモヤトゲトゲしてたもん! 従魔にとってご主人様との契約魔法って、自分をまるごと包んでくれる部屋みたいなものだから、居心地が良いか、悪いかで、すっごく気分が変わるんだよねっ。あー、思い出しただけでもヤな感じ!……。……]
[あ、ディスと話してそう]
[シュシュ慰められてそう]
[いや天使族なんだから、過去のアイツを呪っちゃうぞ的な?]
[キラビデオでみたエンジェルと随分違うよね、ラナシュ天使族]
[ディスは愛が重いタイプよな〜]
[身内贔屓は生物のキホンだぜ]
[それにしてもよ]
陰口どころかフルオープンである。
文句があったなら喧嘩もすればよいのだ。
[おまちどうさま。あのさー、シュシュが嫌な事を思い出してるなら、ロック音楽祭しようかってディスに誘われた]
[なんで(笑)]
[面白い(笑)]
[なんでって、もちろん、シュシュの気晴らし!]
[レナの真上でやっちゃえない?]
▽おおーっと、この流れは……!
[乗った。空気の震えの計算するよ、ジーニアレス大陸上空からミレージュエ大陸上部まで音が届くように]
[大空の風の調整お任せ下さい]
[ルーカもモスラも、ご主人さまに甘えているのねえ]
ルージュのアイコンで、本日の従魔会議は〆られた。
翌日からは綿密な従魔会議である。
タタントトンと馬車は進み、魔物使い旅団として出国をしてからもう3日目。
なぜだかまた、道中で少しだけ足止めをくらった。
道を塞ぐように陸アヒルの群れがとてとて歩いていたからだ。
馬車移動であるので、街道を逸れることはできない。馬車もウマも商業ギルドのレンタルである。
(きっと、待ったほうがいいだろう)
と、レナたちはのんびりと時間を過ごした。
どちらにせよ、一日ほど辺境伯領にいてしまった後なのだから。
ウマたちも休息をとり、ハマルのスキルですよすよと深く眠らされているとき、ふいに空が絵画のように美しい色合いになった。
つられるようにレナたちは空を見上げた。
響いてくるロックンロール。
「な、何事っ!?」
何を叫んでいるのかまでは聞き取れなかったが、楽しげなシャウトは間違いなくシュシュの声だと思った。
「やったな〜。あははは!」
レナはキラに、アンコールを伝えて、とお願いした。
音楽は二曲目になり、やっぱりシュシュのしわざだったのだ。
そして、従魔たちみんなの。
▽Next! チュナ帝国飛地へ、到着。
読んでくれてありがとうございました!
8月も後半ですね。
うちの小学生も宿題追い込みです。
今週もお疲れ様でした。
よい週末を!




