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はしゃぐスタイルについて



 ”プイッ”……という効果音は、レナパーティの従魔たちが拗ねたときに似合う。


 現在、クレハ・イズミ・バニラは……”ふん!!”という感じである。

 初めてみたレナは目を丸くした。


「ど、どーしてそうなったの?」


 宝箱に封じられた黒鏡を守るハマルに会いに、馬車の中にもどっていた矢先、研究者ギルドの待合室はなんだかヘンな空気。

 レナはそれぞれを見ていく。


 ギルティアがチョココに、


「説明できる気がしないし、言っといてくれよ」

「どんなテイストがいいですか?」

「……テイスト? めちゃくちゃデコレーションしてやるとか」

「いいですね」


 いたずらっ子二人のたくらみが(可愛らしい)と思いつつ、レナはクレハ・イズミ・バニラの方をチラリとみた。三人は自分からなにか言う場合ではないらしい。


「トッピング・チョココが申し上げますし」

「トッピング・チョココ!?」


(まさかの……。ギルティアのリクエストとは、随分とこの旅で仲良くなったよね。

 チョココの見た目はほとんど変わってない? 髪に飾られたバニラの花くらいかな? まだ技術の途中みたい。なりたい姿を宣言して、くりかえしながら形になっていくのかもね)


 レナは拍手をしてチョココに注目した。


「先ほどからバニラはクーイズ先輩を質問責めにしていましたし。──なぜなら、バニラには野望があった。いつかはリリー姫と結ばれるにふさわしい妖精の王様になるという、偉大なる夢!!」


(演劇舞台風!?)


「まだ王様として己は未熟なものであることと、リリー姫の方がはるかにレベルアップしているという現実。葛藤に苦しむバニラは、成長を焦っておりました。普通の魔物と比べればその成長速度は確実に才能がある……しかしながらバニラは自己中な性格が災いしていおり……」


(あ、ブラックチョココになった。バニラがへこんだ。体育座りに頭を埋めちゃった)


「リリー姫の親友にして、従魔としての先輩、スライムの王という偉大なる道を歩んでいるクーイズ先輩に、ありとあらゆることをまくしたて聞いた!!

 体術のことを質問しているうちは問題なかった。実際に二人がぶつかったときの復習というよい雰囲気で、クーイズ先輩もほがらかに対応していた。

 さて、気が大きくなってしまったバニラ。

 自分がリリー姫に選ばれて王を目指していることを宣言、リリー姫の妄想を語り、リリー姫をいずれもっとも理解するのは自分だといいきった。この頃になると、リリー姫を慕いながらも多くの時間を共有していたのはクーイズ先輩だということに嫉妬を覚えている。しかも彼らは、自分より立派な魔物の王族種だ。

 釘を刺したくなったのか……クレハ・イズミの姿でいた方が似合っているように見えると口から滑りでた。大人びたクーイズ先輩に対して。

 じゃあみせてやんよ、と合体を解いた先輩の、にこやかな怒りの表情を見たバニラはようやく悟った。発言は煮詰まりすぎた。しかし、謝る機会をまだもらえそうもない──」


 舞台俳優のように一礼をして、チョココはビターチョココになった。


 ギルティアがやんややんやと花びらを投げてあそぶ。


 バニラはダンゴムシのように丸まってしまった。


 ぱちっ、とレナはクレハ・イズミと目が合う。


(あ、怒ってる”フリ”だ! ……これから先ほかの子にやらかして酷い事になる前に、バニラに学習させてあげるつもりらしい。なるほどね~)


 レナはバニラを観察する。


(バニラって、誰かが声をかけたら”リリー姫のため強くなる我”になりきっちゃうところがある。そうじゃない自分で居るべきときもあるはずなのに、まだ自分を分かっていない。……向き合ってもらうか!)


「状況わかったよ〜。説明ありがとう。じゃあ喧嘩中のみんなは耳だけこっちに向けててねー」


 ガーーン!という感じで、バニラがレナをやっと振り返った。

 手を振ってやりエールとして、冷静になるまで待つ。


「別の話。さっきあったことを私も話したくてね。いいですか? ギルド長にも聞いててほしいです。あとうちの子たちの喧嘩を見せちゃってすみません」


「どーせ客人は来ないギルドだ、気兼ねなくしてくれ。さっき、ってーと、馬車に行っていたときのことかい? あ、ギルド員のおじさんたちも聞いてていいか……?」


 ギルド長がカウンターに肘をつきながら、ボソボソと聞いて周りを指さした。部屋の片隅にクエストカウンター、真ん中の方にレナたち、端っこや二階にギルド員が少し居る。


「いいですよ~。お騒がせしてます」


「水臭いこと言いなさんな。研究者ギルドの建物も改築で広くなった。レナパーティのみなさんがコンパクトに居座るくらい、なんてことねーさ」


「お言葉に甘えて」


 各ギルドの建築規格はほとんど同じだ。

 入り口は観音開きで大きな扉、広々としたロビーに来訪者のための机と椅子、受付のカウンター、ギルドクエストボード。

 研究者ギルドにひょいと入ってくるお客はほとんどいないため、レナたちがまとめてロビーにいても広々としている。

 改築は各ギルドごとにしており、研究者ギルドは2階と奥のスペースが大きく足されて、細かく部屋が区切られて、各実験が行われている。

 外的要因で研究結果が変わってしまわないような配慮だ。


「結論から先に言うね。黒鏡に向かって、ハトモデルが飛んでいこうとしたの。ハトモデルを繋いでる紐がピンと引っ張られたんだ」


「何!?」


「ただ、離れたら反応は止まったことを言っておきますね。これ、ご覧ください。漏れずにすべてあります」


レナがギルド長にハトモデルを見せた。

観察眼により、彼は問題ないとすぐ見抜いた。

その様子を、ぐーんと背中を逸らしたクレハとイズミがみる。


「「もしかして、我らではなくハーくんのお守りになったからなのかなー?」」


 レナに向かって明るい声を出したので、あからさまにバニラはホッとしていた。きちんと落ち込んだのだから、もう反省時間は十分そうだ。


「たしかに。クレハとイズミが離れていたタイミングだもんね」


「個人理由でハトモデルの反応が変わるなら、正式な研究として記録するのは難しいな……。レアケースとしてメモしておくのがいいだろう」


 ギルド長が書類筆記をしてくれる。面倒がない。


「「スライムの一部を超硬化させてあるのは変わらない。でも我らが近くにいる方が精度がいいのよ~」」


「まあそれはそうだよね。……クレハ、イズミ。……」


「レナ、さみしそーにしないのよ~」

「我らまでしんみりしちゃうじゃん」


 2人はすぐにレナの気持ちを察する。

 久しぶりに会えたのだ。そのうえで現在の状況、レナの反応、とくれば、想定される答えはひとつ。考え方を似せてしまうほど一人と二匹は仲良しだ。


「そりゃ、相当付き合い長いからね? "一緒にいれないのは"さみしいよ~」

「でもレナは二人まとめてテイムしてくれたからさ」

「我らってば、いつでも一人なんかじゃないのよっ」

「お留守番頼むにはぴったりなんだからね」


「「さあ、言って」」


「……クレハ、イズミ。黒鏡の守りをまかせたい。強力な力の魔法を暴走させないために、引き続き、ここをお願いしてもいい?」


「「従えてーっ♪ レナのお願いなら頑張っちゃう!」」


(……私、できるだけ早く解決するからって言っちゃいそうだった。クレハとイズミとまた暮らしたくて、早く安心したくって。

 でも急ぐべき時じゃないし、急いだ方がいい結果になると限ったわけじゃない。キラも、ルーカさんも、他の従魔もヒトたちも、不安定なラナシュをなんとかしたいと調べてくれてる。元気な気持ちで待たなくちゃ。

幸運だからといっていつも欲しいもの全て手に入ってきたわけじゃない。たまたま幸運だったことに感謝していこう。今なら、私もクレハもイズミも笑顔で会えたこと)


 お行儀のいいクレハとイズミが、レナにはとても健気に見えた。すっかり頼れる先輩になっちゃって。

 レナは、ふと、スライムたちがプルプルしているように感じられた。街の中にいる手前、ヒト型を保っているのだとしても、レナにとって可愛い魔物たちだ。


 おいでと手招きし、レナはクレハとイズミを抱きしめた。

 さらつやの宝石の髪は、スライムのような弾力のあるクセをくるんと一瞬みせる。そしてぴょこぴょこしている。


「私、早く帰れるように頑張りたい!」


((!! 我らに会いたいって思ってくれてるんだね~!))


 クレハとイズミはきゃははと笑った。


 あんまり子供が無邪気に喜ぶようなので、バニラはすっかり驚いており、ギルドの研究員たちはなにかが琴線に触れたのかおいおいと泣き出すものもいた。

 クレハとイズミははるかに年下のスライム、しかし常に大人びたふるまいをみせていたこと、主人の前で年相応の気持ちを表していることが、感動へ繋がったのだろう。


 アヌビスはのそのそと動き全体が見えるはりの上に陣取る。今、みておくべき時だ。


(必要ないはずの言葉を、それでも言おうと決めたとき、そのものの運命の道が開かれてしまう)


 レナの後頭部をみているようでいて、はるか遠くの、真理までは辿りつかない仮説と傾き始めたレナの天秤を眺めていた。


 正直、アヌビスは不満だった。


 相変わらず、レナはころころと意見を変えすぎ!

 例えば元主の暗闇様のような”こうはたらく”絶対のルールがない。

 周りの人によって、いる場所によって、その場の空気によって、そして目の前の相手の気持ちに寄り添うことによって言葉が変わるので、はらはらさせられてしまうのだ。


 これでは、レナに色々と口をつぐみながらも過ごしやすい未来をあげようとしているキラがバカみたいではないか、アヌビスはそんなこと全く気にしてもいないけど、いないったらいないけど。


 しかし、レナにも変わらない芯はある。


(自分を慕ってくれている者たちを守りたいから頑張るってことだ。だから、従えてー、なあ……。……それもあんまり言わん方がいいと思うけど? このギルドはなんていうか、オタクっぽいからさぁ)


 ギルド長がすっと席を立った。

 ごんごんごん、とギャラリー化していたギルド員の頭をゲンコツしていく。


「ちょ、わがはいの優秀な頭脳があっ」

「宝の破壊ですぞ、やめてくだされ~」

「ああっそんなあっ」

「変な声出すなでござる」


「な、何事!?」と、レナがおどろく事態であった。


 ギルド長は心配していたのだ。年頃の清い少女が、いい歳こいて地面に這いつくばりアリの巣を観察していたりとか試験管(オモチャ)のカビをコンプリートしてキャッキャしているおじさんたちに、従えられたい……なんて視線を向けられるなんて恐怖であろうと。


「「「「レナ殿~! 従えて……くれるかなー?」」」」


「いーともー! って、なんで知ってるのっ!?」


「「あー!? 我らが教えたネタを悪用したなー!」」


「「「「忠誠心はあります」」」」


「「……けん、か? どこぞの呪術師イヴァンよりマシだしなぁ」」


 レナのハトモデルがムカついたように暴れたのは気のせいだろう。


「良いワケあるか! 研究にのみその身を捧げるように忠誠を誓ったギルド員だろう!?」

「「「「信仰の自由」」」」

「……なにっ!?」


 ギルド長に屁理屈で立ち向かうギルド員たち。やんややんや。


「ローランド辺境伯は認めておられる……ギルド規則と信心の両立を!」

「我らがあやしげな信仰にからめとられるよりもマシであろう。レナ殿の方が」

「言ってやってくださいお頭!」

「よっ赤の女王様!」


「ク~レ~ハ~? イ~ズ~ミ~?」


「「ぶっちゃけ暇だったんだもん! 黒鏡のお守り! だから色々とお楽しみだったのお~! お仕事頑張ってたから許してぇ?」」


「くっ……輝きが強い! 可愛すぎる!……いいよぉ」


「やったぜ♡」

「これでさらに語らえるね♡」


「んなっ」


「「言えることかなり絞ってたの。レナの許可貰うまで我慢したの。ほーめて♡」」


「コラー!」


「「きゃーっ♡」」


 クーイズがパタパタ駆け回り、そのうちスライムの姿にもなってぺったんぺったん周りゆく。ここにギルド員おじさん(現在5名)も加わった。喋っていなかった無口なヒトもこれには参戦。


 おじさんたちがキャーキャー言いながら、ちょこんとした少女に追いかけられて喜んでいる。ひどい絵面である。街中に出したら職質だろう。


 ギルド長が額を押さえてギルドカウンターに沈んだ。


 バニラが(王族の先輩への尊敬……どのように……?)と混乱の渦に沈み、


 ノアは(従えるものとは……威厳か、許容か、えっと……!?)知恵熱を出しそうだった。


(いいんかこれ?)さすがにアヌビスがキラに緊急連絡をとると、


<従魔の手入れに相当します。クレハさん、イズミさんにとっては、遊んでもらうのがよいのです。勝手に従えるものを妙に増やしたところはありますが、魔物使いのレナではなく、赤の女王様教の方に誘導できているのでマスターレナの負担は軽微。さすがです。

 間に教典がドンと盾になっているようなイメージをしてください。著者はキラがメインですから、ギルド員ー教典=キラーマスターレナ、のような縁のつながりになります。以上>


(こンの、おしゃべり! そこまで聞いてねぇ。寝てスリープモードしてろ!)


 黙らせたあと、目を細めた。


(さすが、理を理解しているだけありやがる……)


 ネコ科らしいあくびを一つ。


「ねーチョココ、あたし暇。どれくらい遊んでいられるか賭けでもするか? わっ」

「ギルティアも一緒に走りましょう。ほら、がおーってしながらレナ様を追いかけますし」


「……あいつら、いつの間にか追われる方が変わってる!?」


「遊びですよ。ねっ。せーの」

「くっそ……が、がおー!」


 今度はレナが「きゃーっ♡」だ。

 従魔と遊ぶの、楽しい!


 なーんにも難しいことを考えずに、好きな子の喜ぶ顔を見て、いつのまにか自分の方が笑顔になっていて、笑い声が周りいっぱいにはじけている。さいっこー。


 しかし、これを末長く続けるためにこそ、難しいことを考えて乗り越えることもやがて必要になる。

 その時はきっとキラと共に立つことになる。






「何者だ?」


 シズルが研究者ギルドの玄関先で”気づく”。

 気配を消していたものが、目だけを覗かせた。

 ギョロリ。

 目玉だけが宙に浮いているように見える。


 シズルは気配察知の才も含めてここに配置されているのに、これしかわからないことに焦りを感じた。


(これでも、俺は冒険者ギルドのBランク相当の探知能力だっていわれてるのに。周りがすごすぎるから埋もれてるだけで……ふつう、街中で隠し切れるやつはそういないんだぞ。手練れか!? ロマンかレナかノアか、誰が目当てだ? 悪意か純粋な変態か?)


 虹色の目玉はすぐ消えてしまった。


 残る気配もない。


(……)


 シズルは現在、メガネをかけている。

 メガネの端をカチっと押したら、キラにはメガネレンズに映っていた映像が届く。現在はこのようなコミュニケーションになっているが、キラが全盛期のときは常時録画できていたらしいので、これだけしか情報を送れないことがシズルには悔しかった。


(俺、まだ、成長したいって気持ちあったんだな……)


<受信完了しました。データと照合して体系的に解析をしておきます>


「ども……」


 いっきに肩の力が抜けたシズルであった。

 まだ失いたくないものがあるときに力不足とは、彼の酷いトラウマを呼び起こす。

 呼吸の乱れをこっそりなおした。


 そして、強くなりたいのならばと、自分に発破をかけてうなだれた頭をしゃんと立てる。

 レナパーティの側にいるだけできっと強くなる機会は何度も来る。

 情けなくともおこぼれをもらった気にさせられてでも、シズルはここに居るつもりだ。


 シズル・タリアテッレ。レナパーティが強くなりすぎて時に嫉妬の対象にもなりえる今は、さっぱりと自己中に居られる彼が貴重な仲間になっている。



 ▽ハーくん もうしばらくお守りお願い!


 ▽チュナ帝国飛び地まで旅するしたくをしよう。

 ▽新開店のデパートメントへ行こう!

 ▽店員は虹色の目をしている……。


読んでくれてありがとうございました!


ギルティアもチョココも仲間になって長いし、それに比べたらバニラはまだ馴染みの初期ですね。


シズルとロマンはコミュニケーションの経験長いので、ずっと本音で語るのではなく、うまいこと表層でつきあってくれそうです。


今週もおつかれさまでした。

良い週末を!₍˄·͈༝·͈˄₎◞ ̑̑

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― 新着の感想 ―
更新有り難うございます。 従魔が独立(?)すると、赤い勢力図が拡散するのか⋯⋯。
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