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クレハとイズミに久しぶり!

 


 ▽クレハとイズミに 会いに行こう!


 ローランド辺境伯の領地は穏やかさを取り戻している。

 木々のあるエリアと街のエリアが区画整理されていて、景観も気持ち良く、道を行き交う人々にも落ち着いた活気がみられた。どうやらローランド辺境伯が戻ってきたことで役員の機嫌がいいようだ。働く人々もまたそれを感じとって、安心して日々の仕事をしていた。


(ここは仕事が増えてヒトが足りないくらいだってね。ミエネット王国のトロックラとはまた雰囲気が違うな〜。あっちは格差が大きかった。観光業が盛んなところでは、格差が大きくなっちゃうって、何かで……昔習ったっけ)


 レナは黒い布を頭にかぶり、鼻の下で結んでいた。


 そしてタイトな黒の長袖長ズボン、足袋のような靴。

 それらは魔力糸が縫い込まれており、気配を消してくれる力がある。


 商業ギルドの前を通った時にすかさず勧められたのだ。押し売り寸前に「もう自分の気配を消したくないからって高級品が売れなくて〜! 80%offですから〜!」と嘆かれたことでレナが押し負けた。

 ラナシュでは存在感を消してしまうことが最近恐れられている。


 たまには負けたほうがいいのだ。勝ってばかりでは天秤が偏る。

 アヌビスの言葉である。


 そして泥棒ルックが誕生した。


「なぜこんな格好を……今……?」


 あまりに誰もつっこまないので、その役割はシズルが担った。


「従魔に会いに研究者ギルドに行くだけなのに」


「あれ、言わなかったっけ……?」


「言ってない。従魔と魔物使いみたいな以心伝心はないからね? 染まってるノアさんや、面白がって何も聞かないキーユウさんや、気まずそうなロマンさんとも違うから」


「ああ〜。言われてみればそうでした。いやぁつい、身内だけになっちゃうと説明を怠っちゃいますねぇ。黙って着替えてくれてたし」


「誰かがつっこむのを待ってただけだ……」


「説明しますと、追跡者がいるみたいなんですよね。私たちのことを追いかけて……」


「レナちゃん、そんな言い方はやめて。庇ってくれなくても大丈夫よ……ううん、言わせちゃってごめんなさい。私のせいなの。ロマン・ティブが組織を離れたことを許さない勢力がいる。ごめんなさい」


 大通りのど真ん中、昼の日差しを全身に浴びながら、レナは振り返った。

 この服のいいところは日差しがあっても視認されづらくなることだ。

 それはハトモデルを持っていることと相性がいい。


(ハトモデルは反応してないみたい。ロマンさんが日頃かなり気にしてたことを謝っちゃった感じだな。前はここにいた部下の方が隣にいないし。……でも、やっとそういうところ見せてくれるようになったんだなって思うよ)


「まあそういうこともありますって」


「気軽すぎよ?」


「気軽でいけることはあるし、慎重でもダメな時はありますし。追われるのも良くあることでした……。いざというときの逃亡エネルギーを蓄えておくためにも、気軽にいましょうよ」


「あなたたちの負荷を増やしてるよね……」


 レナは、旅の序盤に敵を増やしながらも”ごめーん”ですませたかつての金色モンスターを思い出した。なんともいえない半目になる。


 ロマン・ティブの視線。

 長らくの拠点にしていた辺境伯領の至る所に、昔の自分のおもかげを見る。晴れやかな昼間の中にいても、ナイーブな気持ちになる。

 自分がかつて何をしてきたか、正常な生活の中に招かれたら、過去が苦しくなってしまった。


 レナはその様子を気にかけた。


「しょうがない。従魔全員、フル戦闘体制。警戒しちゃおう。ね、これなら何かあっても大丈夫☆」


「ちょっ…………! そのテンションの高さが逆に心配増しちゃうんだけど、酔ってる? 狂ってる!? 正気……よね!?」


「ハトモデルがあって黒鏡に近づく以上、陽気になっとくに越したことはない」


 どうやら仕事人たちの昼の休憩が終わり、午後の仕事場に戻るタイミングになったらしい。いっせいにヒトが流れて、道は通りやすくなる。


 雑談も終えたので、レナは前にすすんだ。


 こっちこっち!と歩く足取りは、可愛いクレハとイズミに会える喜びに満ちている。

 どんなふうに褒めてあげようか、どんなふうに遊ぼうか。そのあたたかなまなざしが、従魔をまた(どんなふうにレナに驚いてもらおう? 成長したところ見せちゃおう!)と背伸びさせてしまうのだ。


(レナさん、浮かれてる。あーいうのがいいのかしら。ノアもやるべき? ううん……急に変えて上手くいくようなラッキーな蜘蛛じゃないから、女王レナ様を観察だけさせてもらいましょう)


 影蜘蛛は慎重なメスを慕うので、この判断は正解。間違えば多くを失うことになる。



 **



(研究者ギルドが新しくなってる!)


 ローランド辺境伯はヒトの交流が増えるようにと、各ギルドに補助金を出していた。

 さらに先々月のギルド会合により、各ギルドの長の交流が生まれた。

 商業ギルドからは建築材が、冒険者ギルドからは魔法使いの建築補助が得られた。他領から渡ってきた建築士を紹介されて、リフォームの案内を繋いでもらえたのも、研究者ギルドにとっては初めてのことであった。


(屋根や壁がぴかぴか〜。実験の煙やらなんやらで、正直ボロっとしてたもんね。よかったなあ。

 外で実験してるヒトはいるけど、クレハとイズミの姿はないや。いきなり黒い布をとって、ばあ!ってやってもよかったけどなー)


 ▽やめてください惚れてしまいます。


 レナたちは玄関にある銀の板に手をつけた。


 身内は入って来れるようあらかじめ登録されているのだ。

 レナたちは研究者ではないが、名誉会員みたいなものとして登録されている。研究者ギルド員はひどい人見知りだが、一度懐に入ればどこまでも情に熱いところがある。


 ギルド長が大慌てで駆けつけて、扉を開けてくれた。挨拶の前に開口一番、


「そういうことか! さっきまでムチムチのクレハとイズミがいたんだがな……」


「ムチムチ……!?」


 ▽拾うとこそこですか?

 ▽どこに行ったの? ではなく?

 ▽まあ気にはなりますよね。


「おお、ギルドの外で人集りができるくらい注目されたことがあったんだ。何せあの見た目だし、貴族様もこの辺は通るしで、モテすぎちゃってなー。空気で膨らんでみせたら、見た目を重視する貴族様のお眼鏡は壊れちゃったぜ」


 会話の途中でも説明を挟みがちな研究者の鏡である。


「そうだったんですね。……ハッ、今、あの子達は?」


「それだ。きゅうに走って馬車の方に行ったよ。ほら、あんた方が最初に乗ってきたやつだ。宝箱も入ってる。

 あれから毎日交代でそこを守って、夜には馬車の中で寝ていたよ。そんじょそこらの家より頑丈だし車輪も外してあるから、盗まれたりするようなことはなかったが、それにしても、主人のお願いを叶えるという強い気持ちを感じたもんだ」


「すっごく、いい子たちでしょう」


「実験の手伝いもしてくれるし、よく笑うし、仏頂面の俺たちをふざけて笑わせてもくれる。いつまででもいて欲しいくらいだぜ。おっと、かといって、魔道具の解明という依頼クエストには真剣に向き合っているからな」


「ありがとうございます」


「ここで引き留めるのもわるい。行ってやりなよ」


 レナの目はうるっとしていた。

 レナたちは頭の黒い布をとっていて、顔が視認される。そうなれば「居る」ので、全身もおおよそ見える……しかしどんな色の服を着ているのかは記憶には残らない。”情報認知”のハックをする魔法であった。


 研究者ギルド長はこの違和感を注意深く観察してあごひげを撫でた。


(研究者が開発したしくみだったはずだ。しかし実用化されて流通しているとまでは知らなかったなー! 俺たちは知識はあるが、なにぶん商業ってもんを分かってねー。入り口のセキュリティ、増やさないとなぁ。

 最近気になることもあるしよ……)


 レナは「声もかけたことだし!」といつもよりさらに大きく微笑む。


「クレハとイズミに声をかけにいこう!」


「あ、ボクたち、着替えてからあとで行きますよー。レナ様と先輩お二人の再会を楽しんできてくださいませー」


「そーなの? ありがとう。じゃあ行ってくるね!」


 レナは中庭に繋がる扉に手をかけて、飛び出していった。


 腰に鞭を、あとは己の体にスキルとギフトを秘めて、立派な冒険者として堂々と。

 首には魔道具のネックレス、手首にブレスレット、ハトモデルとキラを携帯している。

 浮かれていても危なげない。


 ハマルはおもむろに扉を閉めた。

 後輩三人が「??」と首を傾けてハマルを見上げた。


 ハマルは指を五本たてて、


「いーち、にーい、さーん、しーい、ごーお。行こっかー」


「ぎゃああああ!!えええええ!?おいーーーー!!」


 どんどんどん!!

 シズルの声がした。

 研究者ギルドの扉が外から叩かれたのは、この研究者ギルドに登録がなかったので玄関先で待つように言われていたからだ。その間、周辺の様子をみていた。


「シズルおにーちゃんはそーいうとこちゃんとしてますよねー」


「どういうとこ!? 大丈夫なの!? 開けていい!?」


 ロマン・ティブが確認を取るが、ハマルは首を横に振る。


「従魔のちょっとワルいとこも見といてもらおうと思ってー」


「ショック拷問か何か!?」


「まあまあ。レナ様のところに行きましょー」


 ハマルが扉を開けたので、みんなで中庭に行くと、橋の方の木陰にいるレナが、馬車の中から飛び出してきた赤と青のスライムに顔面を包まれているところであった。おおよそ胸の辺りから頭の上まで、マーブル風船の中にいるみたいになっている。


 シズルはこの光景をみたのだろう。


「がぼぼぼぼぼぼ」


 ▽魔物使いってスゲー!


 ▽いえハマルさんはあとでおしおきです。


 ▽嬉しそうにするんじゃありません。


「暴走? どうしてやればいいの!? 光でなんとかなる!?」


 さすがのロマンも魔物使いと従魔のコミュニケーションには自信がない。だって特殊すぎるし、レナパーティときたら時と共に成長もするのだ。


「モスラ曰く……久しぶりに会えた喜びってすごーく大きいらしいですー。ボクらが邪魔してとめちゃうとー、兄弟喧嘩みたいになっちゃうかもー? レナ様も嬉しくないよねー。

だから待ってればいいのー」


((ほんとに!?))


 ──レナは鞭に触れた。

 なんらかの魔法を使った。スキルと口にできなくとも、魔力を体に回して意志を表した。

 クレハとイズミが形を保っていく。

 従えたのだ。


 


 研究者ギルド長が頷きながら言った。


「うちの研究者、大興奮。てめーらスライムの膨張についてレポート書くぞ、筆記しろ! 面白すぎる!!」



 ▽Next! 黒鏡の研究成果






読んでくれてありがとうございました!


来週から子どもが夏休みです(親の気合い)


今週もみなさまおつかれさまでした!

よい週末を!₍˄·͈༝·͈˄₎◞ ̑̑

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更新有り難うございます。 わ~い♪ 久し振りのクーイズだー!?(ぷにぷにー)
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