表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

596/601

ローランド辺境伯領・境界

 


 ローランド辺境伯はレナたちに会ったら、礼を言うべきか、素知らぬふりをするべきか、悩んでいた。キーユウに対しても同様だ。


 彼にしては珍しく、人間味のある表情を見せることに、屋敷に勤めている執事やメイド(変わり者の領主にも仕えられるベテラン揃いである)も顔を見合わせたくらいだ。


 レナたちが来ると耳にしたら、領の境界線までやってきた。


 その間も、対応をどうすればいいか思い悩み、ついに従者にまでそのような雑談を許したくらいだ。


 もちろん「我々が判断できる範囲を超えています」と返されてしまったが。


「あちらの反応をうかがってからでもよろしいのでは? 少なくとも、特別な対応をしなければ不機嫌になられるような方ではなかったかと……」とは的を射ている気がしたので、そのようにした。


 しかし、ソワソワ、ソワソワ。


 落ち着かないローランド辺境伯そのヒトであった。


 馬上にいるが、降りるべきか?


 旧知のシマシマを連れてくるべきだったか? しかし大々的に見せびらかすのもよくないか?


 研究者ギルドにいる従魔を連れてきた方がよかったか?


 しかし研究のために置かれたならば従者として職務を全うするべきだしな?


 ぐるぐると頭の中を忙しくさせていたというのに。


 当のレナパーティ……いやいや魔物使い旅団といったら、その姿を見せたとたんに手を振り、親しげに近づき、挨拶を済ませたらこう言うのだ。


「女王様へ謁見するコネって作れますか?」


 と……。


 ローランドはキーユウを見た。


 ニヤリとしており、どうやら、ここでわざわざ解説をしない方がいい事情があるらしい。


 たしかにどこに目や耳があるかわからないとはいえ、いきなり本題のみ押し付けられるとは。


 しかし、レナたちには自領と自分本人への恩がある。


 それと引き換えにして、ローランドはこの申し出を受けることにした。


「女王様というのは規模を問わぬのか?」


「はい。むしろ騒ぎになりそうな大御所よりも、もうちょっとこぢんまりとした女王様だと助かります」


(こぢんまりとした……って、無茶をいう)


 どこにこぢんまりとした女王がいるというのか。

 王はそもそも大勢の上に立つものであり、女で王になるというパターンはまた珍しく、話題になることが当たり前だ。


 しかし幸いにして、ローランドには心当たりがあった。


「王家が二つに分かれた結果、王と女王がいるのがこのチュナ帝国だ。順列はある。帝国というのは、領土が飛地になっている特徴がある。地続きのこの場所よりも離れたところに、またチュナ帝国領がある。そちらにいらっしゃる女王様に紹介状を書こう」


「わあ、ありがとうございます!」


「くれぐれも」


「お土産とか持って行った方がいいですか?」


「……」


 ローランドはキーユウを眺めた。

 笑いを堪えていやがる。

 後の対応はローランドで楽しめということのようだ。


 レナも詳細を知らされてはいないだろう。だから緊張した面持ちで、言葉を選びながらローランドに話しかけているのだ。


(彼女自身のレッスンというわけか)


「土産はあればいいが、彼女の好むものよりも、大勢に分けられるもの……技術などがいいだろう。教えて差し支えのない技術や秘術を、書きしたためていくとよい。ちょうど私がそなたに渡した文書のようにするのだ」


「わかりました。道中に考えます」


「飛び地を管理している彼女は、領民からの信用によってその場所にいられる。自分一人で富を独占していたら、たちまち引き摺り下ろされてしまう。この状況を想像し、贈り物を決めるとよい」


「いいですね」


「そう思うのか?」


「信用されているってところが。恐怖で支配しているんじゃないから」


「まあ……そうだな。ヒトの国家群が集まっているこの辺りは、結局、民の心が離れれば、隣の国へ吸収されてしまう。隣の国同士は目を睨み合わせながら、口元で契約を結ぶことのくりかえしだ。それゆえに国内のことにも緊張をもって、信用を重視している。……ミエネット王国でなにか見たか?」


「それなりに……」


「争いがあるところは、信用が崩れたからだ。崩れたところは、周辺国が気づいて吸収する。そなたがもしミエネット王国の何かを気にかけているならば、一度崩れたからこそ膿を出したようなもので、悪いほうにはいかないはずだ」


「はい」


「ただでさえ、ラナシュが不安定ゆえに結束して生き残ろうという空気もあるのだ。あとのことは我々にまかせてよい。……? どうした?」


 レナの雰囲気の微妙な変化に気づいた。


 そういうところも含めて、


「ローランド辺境伯の雰囲気がやわらかくなったなあと。いい意味でです!」


「そうか。そなた、嬉しそうな顔をするのだな……」


「誰かがいい気分でいてくれたら私は嬉しいですよ」


「たとえば悪者がいい気分でいたら?」


「それはいい気分って雰囲気じゃないです。ドヨーンとか、ゲッヘッヘとか、なんか違うんですよねぇ。わかるじゃないですか? 本人から罪悪感や背徳感が滲んでる感じっていうか。……ああでも、マゾヒストはたまにマジでいい気分でいる場合もありましたね……」


「遠い目だな……。少女が長らく旅をしてきたのだから、さまざまな危機を覚えることもあっただろう。このたびも長旅をご苦労であった」


「はい」


「うむ……」


 では文書を作るからと、ローランド辺境伯は背中を向けた。


 なんだか、どんな顔をしていいのかわからなかったし、一体どんな和やかな表情をしてしまっているのか気になり(キーユウに見られるのも癪だったし)ソワソワとする心を、普段通りに戻したかった。


 しかし、境界に足を運んだ時のソワソワとはまた違った。


 心のつっかえがとれていることは認めざるを得なかった。



 ***



「さて! 女王様に会ってみることもできそうだし」


「ありがとうございます〜……!」


 ノアがよっぽど小声で言う。


 から元気を出そうとしている分、様子がおかしい。


 つれてきた警護の蜘蛛たちもノアが心配だが、街中で魔人族の姿になるわけにもいかず、ノアの近くにただただ潜むことしかできない。


「ロマンさんも、シズルさんも、よかったよね? 場所を知らされたから、再確認ってことで」


「チュナ帝国の飛び地ねぇ。意外と近いわね」


「なんの感情もない。知らん土地だし。しばらくはあんたらの側について仕事させてもらうことに変わりはなし」


「じゃ、引き続きってことで」


 二人が同行していると、レナたちの道中は一層スムーズだった。

 見た目が与える影響は大きい。

 レナ・ノア・キーユウが、ロマン・シズルに護衛してもらっているとかだろう、とすれ違う人は誤解するのだ。そのまま会釈でもして通り過ぎるだけでよかった。


 スチュアート邸でオーディションをしたのは本来、この役割のためであったのが、思いがけずキーユウを連れていく事になったが、あとになって思えばきっとそれが最適だったと言えるだろう。


(たまたま会った縁を、最善にしていくこと。最初から最高の人材を求めていくんじゃなくって。関係を育てていくこと……。初心は大事)


 冒険者ランクが上がり、信用が上がり、最初からスゴイ相手に会う機会が増えた今だからこそと、レナは頻繁に旅路をふりかえるようになった。


 たまに、忘れてしまいそうだ。


 忘れてもいいやって、そう思い始めた時がきっと一番危ない。


 忘れてしまうことを許したものにラナシュはきっとつけこんでくる。


(最近さらに思うんだ。ラナシュは私が望まないほうに向かってる。のんびりと過ごしたり、大好きな友達が健やかに過ごしていることを願うだけのことが、難しいような感じがしちゃう。そんなの簡単なことじゃないって、心のどこかで思っちゃう。

 どうせ無理だって思う意見が増えるほど、ラナシュの中でまるで真実のように強化されちゃう。きっとラナシュは大丈夫だって信じられるような意見があたりまえに増えたらいいのに。そうしたらいい方に進んでいける……。

 私、すごく甘い。

 甘い考えを信じられるようにならなきゃ、だめだ。

 今、私だってふりまわされやすい。

 何度、まあいいや、なんとかなるよ、って言えるだろう。

 誰かにそう言う時、嘘だとしても信じてもらえるように、声に力が乗るほどに、力をつけてなんとかできるグループになっておきたいな)


 レナの胸には一本の柱が生まれたような安定感が生まれた。


 このように、ときたま、ふりかえるとレナはレナでいられる。


 アヌビスはやれやれとジト目になった。


(こいつ、内面の安定感はバケモンだよ、ほんとにさ。内面にばっかりもぐってるから、ほら、体はフラフラして転けたけど……まあ周りが支えてるからいーだろ。魔物使いとこいつ、相性が良すぎ。苦手なところを従魔がカバーしてくれるなら、一番向いてるところに全集中できちまうからな)


 同時に思う。


(兄貴が荒れてるらしいじゃないか。ぶつけてみたらどうなっちゃうんだろう?)


<ア〜ヌ〜ビ〜ス〜>


(思考実験! 思考実験だってば! お前らだって、いつかはレナの前に兄貴を出すつもりだろ!? 試練が来る前に、乗り越えておきたいもんな! かーっご丁寧な地獄道!)


<我々が散歩道にしてみせますとも>


(あのキーユウのじーさんはそういうつもりないらしいぜ。天性のサディストだろ)


<レナ女王様の方がサディストレベル高いので!>


(おままごとだろ。誤魔化してりゃ限界が来るぜ)


<……>


(今度会いにいくっつー女王様が、どんなふうに統治をしてるかによって、女王様という幻想の保ち方もわかるかもな。ノアの血統重視のやり方じゃダメだった。隠された希少な血統というものが、今まさにラナシュで力をなくしてる。チュナ女王様とやらが血統によるものならば、ノアが会いにいくことで悪い影響を受けるだろう。実力によるものならば、レナとノアが得るものは大きいだろうな)


<可愛いとこあるじゃないですか。めっちゃ気になるんですねアヌビスも>


(うるせー! キラ! ジジイ! ババア!)


<精神経過のバグをいうならば、これほどの時を過ごせばもはや伝説の仙人といえるでしょうね。ターボババアとかマッハジジイとかもトレンドらしいですよ>


(なんの話だよ!?)


<オホホホホ!>


(きも!)


<さてさて、感動の、クレハさんとイズミさんとのご対面ですわよ〜!! マスターレナ頑張って、超頑張って>


(おい待て。お前、従魔間で連絡取れてるよな? あいつらがどんな状況かも知ってるよな? 存じ上げてるよな? 何がどうなってるのか俺にだけ教えといてくれてもいいんだぜ?)


<言わない方が面白いじゃん?>


(ルーカてめぇ電波に割り込んできてるんじゃねぇ)


<マスターレナのあどけない驚き顔を撮りたい。ビデオスタンバイ>


(不調のくせに容量食うことしようとしてるんじゃねぇ!スタンバイが早すぎるわ!)



 ▽クレハとイズミに 会いに行こう!




読んでくれてありがとうございました!


梅雨ですね。しかも台風ですね。

ここしばらく夏前の台風がしっかり来ることってなかったし、海の水がかき混ぜられるのは良かったなぁ、と思う漁師町育ちの黒杉です。

みなさま大雨の時には水場の近くに行かないようにしましょうね。


今週もお疲れ様でした₍˄·͈༝·͈˄₎◞ ̑̑

よい週末を!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
更新有り難うございます。 レナさんを服用(?)すると、 ペースが乱れ、仮面が剥がれる副作用が!?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ