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ロベルトの懸念・一方のノア


 スカーレットリゾートから帰還するオズワルドと白炎聖霊、ロベルトの会話。


「補助しすぎ……」


「オズワルド坊ちゃんがまだ白炎の扱いに慣れていないから、周りの草原でボヤが起きないように氷のサポートが要るんです」


「距離も近いって! なんで? 変な感じだ……」


「親愛、とか言っておけば満足か?」


「おい、どこかのパトリシアとかルーカみたいな煽りはやめろ。ヒトじみてるぞ。最近スカーレットリゾートにはるばる営業に来るヒトの悪辣な言葉の応酬を学習しちまったんじゃねーの? ……」


 カルメンとソレイユが目を合わせてみせる。

 ソレイユは悦に浸った笑みを見せ、カルメンは面倒そうに遠くを見た。


 魔王国の裏側の入口門には、レグルスが待っていた。


「……、あのさ!」


「なんですか」


「言えよ。もーすぐ、レグルスの耳にも届いちゃうだろ。あいつ、強がってみせるけど心が挫けやすい部分もあるって、レナさんが眠ってたときにわかったじゃん……心配かけたくないだろ? 元部下レグルスをさ」


「俺の異常に気づくのも早かったですね」


「ウソつけ。わかりやすくしてただろ。ほら、言って!」


「……確証がないんですが、たぶん、そうかと」


「獣人の勘はそんなに外れない。ましてやお前は、凍土で命の危機を味わったことのある獣人だ。そういう極限を経験した獣人は鋭さがちがうよ。ずっとそう思ってるよ」


「……わかりました。オズワルドと近いとき、離れているとき。どちらでも従属の影響力が変わらないような……という感覚がね……」


 ロベルトは首の辺りを指す。


 契約文書によって刻まれた魔法、聖霊を監視する役職に就くという誓いと、そもそもの聖霊と関係構築をしているレナパーティの炎魔法適性がある面々と一定以上は離れられないという状態。


(それが、効いていない、って言ってんのか!?)


「おっと、足は止めないで下さいよね」


「わかってる。短く話す……、蜘蛛の契約書が破損したとか?」


「それならば魔王国の崩壊が始まるな。あの一族がほぼほぼ全て仕切っているのだから。初代から揺るがない宰相血統だぞ」


(まあな。あ、一つにまかせきるなんてセキュリティが弱すぎる、ってキラなら言うだろうな……。魔王からすれば、魔王国は滅んでもべつに何も気にしないって聞いたことがある。昔の父様から。

 でも今は、なんというか、それなりに住人を大事にしてる感じもする。宰相補佐に竜人を引き入れているし、それだってセキュリティのためなのかも。宰相はこんな時だからこそ、一段と気をつけて影蜘蛛一族を仕切ってるはずだ。帰ってくるノアの誇りでいられるように。

 となると、蜘蛛の契約書いがいで……?なんだ……?)


 ロベルトはフッと薄く笑った。


 オズワルドの賢そうな横顔から、彼の成長を見てとった。


(今のオズワルドなら受け止められるだろうか? 言うならばオズワルドは、主人の従属契約からもっとも遠ざかろうとしている従魔とも言える。理由が、うっかりレナに恋をしてしまっている……というのが面白いが。

 キサ然り、オズワルド然り、思春期だな。ちゃかすことも、感情的に否定することもないはず。信じて言ってみるか……)


「従える契約が、あいまいになっている感じがする」


「!!」


 オズワルドは少し口を開いて、反論が出て来ず、絶句した。


 頭の中を可能性がかけめぐる。


(ありえる)と、獣人の勘は”気づいてしまった”。


(あまりに当たり前だったから、盲目的に固定してしまっているけど、いろんなことが曖昧に消えていく時代で、従魔契約だけがそのままだなんていう保証はどこにもない。俺たちは一度経験しているじゃないか。いきなり、レナさんを失うかもしれないような感覚を……。

 見つめ直してみるのがこわい。

 見たくないような感覚がある。

 胸の中にある、従魔契約で繋がれた魔力の混じりけは、今、どれほどのものなんだろう。俺たちはもしかしたら、その気になりさえすれば、従魔契約を食い破ってしまえるんじゃないか?

 この、ゆるやかに曖昧にほどけていく現代ラナシュでは……──)


 ゆらぁり、白炎が揺らぐ。


 ロベルトは、己の魔力を冷やし始めた。


 もしオズワルドが白炎を暴走させたら、またたくまに通常の水では消せない恐ろしい白炎に草原が舐められる。その損害は数多の魔力を帯びた生き物をも殺し、魔王城の中にいる同族が荒れる。魔王国の中にまで炎が伝わったら、スカーレットリゾートとの断交をせざるをえないかもしれない。


「よくも、今、言えたよな」


 オズワルドは両腕で体を抱え込むようにしながら、しかし半獣人の形をした足はそのまま大地を蹴り続けて、かわらずに前に進んでいる。


 カルメンとソレイユの方がちょっとあわてぎみなくらいだ。


 威厳ある聖霊のあわてた表情を引き出すのは、まさしくレナパーティの面々くらいであると、ロベルトは面白く思う。


(あとで聖霊報告書に似顔絵でも描いてやろう)


「従属、やめるのか?」


「やめない。まだ。俺が最高になってから、……レナさんに相談する!」


「お、安定させられたな」


「……カルメン、ソレイユ、ありがとう」


 聖霊の力を借りたならば、しっかりお礼を言う、レナの教育が活きているオズワルドであった。


「でも、ロベルトの言いたいことはわかった。いったん覚えておくよ。

 そんで、俺の勘が効いたときに、そのときメンタルが安定してる従魔に相談する。そうしないとさっきみたいになるからさァ」


「恨みがましいな。まだまだ子供だ」


「お前はおっさんのノリになったよ」


「肩の力が抜けてる。聖霊様と、オズワルドたちが良好な関係を保てているからだろうさ」


「簡単だったよ。──あ、カルメンとソレイユのおかげで!」


 一言付け足したら、2体はにっこりとした。


(簡単なはずもあるまいよ。難度の高いことをこなせたのは、ひとえに主人仕込みのコミュニケーションがあってこそだ。

 感情を抱くものであれば、だれだって、嬉しいときと悲しいときは似ている。寄り添ったり、ときに距離を置いてやること、気にかけるやり方がレナは誰よりも上手いように感じられる。

 従魔が弟子のように学んでいるから、こんなに遠くなってもまだ彼女の影響力は下がらない)


 ノアがもしレナから配下を心酔させるコミュニケーションを学べたのだとすれば、すさまじいな、とロベルトは感想を抱いた。


 そして、魔王国が近づいてくる。


 レグルスが手を振っている。



 ひょーいっと、カルメンが前に飛び出してきた。


『さっきこやつらが話しておったのはネー……(チラッ』


((わーー!!?))


 ▽カルメンは 悪戯大好き美女!

 ▽ソレイユは 姉様大好き青年!


『我々に感謝をしているそうだぞ』


「? それはもちろんでしょう。白炎を扱えているのはお二人のご協力あってこそです。お帰りなさいませ、カルメン様、ソレイユ様。

 何をコケかけそうになってるんだ、オズワルド、しゃんと立て。ロベルトたいちょ……さんも、尻尾の毛を逆立てさせてどうしたんです。取り乱すなんて珍しいですね」


「ああ、久しぶりに極度の緊張に襲われたよ……」


「? よかったですね。獣人にとって緊張の場を乗り越えるのは最高の鍛錬です。お疲れ様です」


 穏やかなレグルスの後ろにスルリと入り込んだカルメンが、愉快そうにピースしたのだった。




***




 一方その頃、レナたちはローランド辺境伯領の手前にやってきていた。

 ひと休憩するために、街道の脇道に馬車にぐるまを留めて、小さなキャンプをしている。


 ノアが憔悴した様子で、レナを拝み倒している。


「お願いします、お願いします」


「そんなに頼まれても〜……!」


「どうしたんスか」


 街道の木の裏側で、かるくアクア・シャワーを浴びていたシズルが気安く声をかけた。

そしてキーユウに杖でやんごとなく叩かれる。

「いてっ」と言ったって、振る舞いを教育されている最中に濡れた髪をガシガシ拭きながら戻ってくるシズルが悪い。

 キーユウが教育したのは、汗くさくなったなら人目のないところで身綺麗にしてくる方法なのだ。けして、オトモダチのようにフランクな付き合い方ではない。

 少なくともそういうのは、プライベートな場でこっそりと親しくするものである。


 レナは苦笑しながら、ええとね、と話し始める。


 キーユウがもう叱ったので、お叱りはじゅうぶん、だ。


「蜘蛛がいうことを聞かなくなっちゃったんだって。どうしてだろうって、話してたとこ」


(それなら別に、頼まれても……ってことでもないのでは……? 嘘ではぐらかしている?)


 シズルは首を傾げた。


「レナさんに女王様の格好をして欲しいんですよ!!」


 ▽ノアの ぶっ込み!


「なんで!? いえ……どうしてそれに行き着いたんです?」


「話せば長くなるから、気にしなくってもいいよ……?」とレナ。


「純粋に気にはなるかな……」


「エッチですねー」


「酷いな」


 かるーく話し続けるレナたち。

 

しかし三人の幼従魔は、(エッチなこと言ったのかー!?)と衝撃を受けているようだ。


 ハマルは懐かしく思い出す。


(初めて、淫魔のお宿♡にたどり着いた時は、レナ様がエーッて驚いてー、ボクとクーイズ先輩とリリー先輩がからかったのにね〜。レナ様も立派な淑女になられたものですねー)


 ▽立派な淑女の基準 行方不明。


「レナ様ー」


「ん?」


「女王様の格好"だけ"してみたらどうですかー? ただの格好では効果がないよって〜、ノア嬢にお見せしたらいいと思いましたー。

今、きっとご不安なんですよー。当たり前に生まれつきできてた感覚が、急になくなっちゃったんだからー。それで、どうするか一緒に考えましょー? ってその後に言うのですー」


「……本音を言ってごらん?」


「久しぶりの女王様ルック、すっごく楽しみですー」


 ▽見たいような見たくないような 感情が渦巻くバニラであった。


 ▽恐いもの見たさが勝った。


 ▽だって リリー姫はいつか リリー女王様になるわけで。

 ▽モデルケースであるレナを 見ておいた方がいい。


 ▽というわけで……


 ▽従魔からの お願い!!!

 ▽レナは 従魔のお願いに 弱い!!




 ▽町に辿り着くまでの街道限定で 女王様の行進をした。

 ▽なぜだか目撃した幸運なヒトが 多くいた。

 ▽のちにローランド辺境伯には 民心を乱してくれるなと相談された。


 ▽ノアの蜘蛛からの求心力は まだ戻っていない。



読んでくれてありがとうございました!


リビングのエアコンがいきなり不調で慌てて購入&設置しました・・・これから夏を迎えるのに、エアコンないと怖すぎですね><汗


今週もお疲れ様でした。

よい週末を!₍˄·͈༝·͈˄₎◞ ̑̑



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更新有り難うございます。 ⋯⋯そう言えばオズくんって、感性は割と普通なんですよねw
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