第9話:切り取られた英雄
「はー、コレがテレビ局か……スネーク・レイとのコラボは失敗だったっすけど、こんなチャンスが転がり込んでくるなんて!」
カエデと剣一郎の目的地であるヒーロー協会本部のある巨大都市。カエデはヒーロー協会本部…ではなく、テレビ局にいた。
スネーク・レイの有料会員サイトを協会に告発し、さらに自分のチャンネルでも告発動画を発表したカエデは、極悪非道のスネーク・レイとその有料会員を告発した勇気ある女性ヒーロー・Mapleとして、お昼の人気情報番組『HERO-TIME』に生出演することになった。
「さすがにちょっと緊張するっすけど…しっかりやれればチャンネル登録者も増えるかも!」
セットの裏で深呼吸するMapleを、MCが呼び込む。
「さあ、本日のゲストは! スネーク・レイの不祥事を暴いた新時代のヒロイン、Mapleさんです!」
アップテンポなバンド演奏と、観客の割れんばかりの歓声。
豪華な革張りソファ、街の夜景を模したバックパネル、そして手元にマグカップを置いた隙のない笑顔のMC。カエデは、そのあまりの「本場」の空気に圧倒されながら、スポットライトの中へと招き入れられた。
「今日は色々とお話聞かせてくださいね。早速ですが、スネーク・レイからコラボの依頼が来た時に、どう思いました?」
「正直、嬉しかったっす。ちょっと良くない評判も聞いてましたけど、人気ヒーローでしたから。でも、まさか裏であんなことをしていたなんて…」
「サイトを見た時、どう思いました?」
「許せないと思いました。スネーク・レイのことはもちろんですが、女性ヒーローのあんな姿を見るのにお金を払う人がいるなんて、信じられなかったっす」
「告発するのに、恐怖は無かったんですか?」
「無かったっす。許せない気持ちだけでしたね」
「素晴らしい!どうですか、この勇気ある発言!」
客席から歓声が上がる。MCが更に言葉を続ける。
「しかも皆さん、勇気があるだけじゃない、彼女は実際に強いんです。Mapleさんを卑劣な罠にはめようとする、仮にもB級ヒーローのスネーク・レイを取り押さえたのも彼女なんです!その時の映像がこちらです!!」
「………え?」
スタジオの天井から巨大なスクリーンが降りてきて、映像が流れる。
まずは、Mapleとヌレカガリの戦闘シーン。小柄なMapleに巨大なヌレカガリが襲い掛かる場面で、観客席から悲鳴が上がる。
「こちらの妖魔、ヌレカガリはスネーク・レイが討伐受注を受けた妖魔。本来はB級ヒーローでないと戦えない妖魔です。しかしMapleさんはC級ながら一歩も引かず戦います!」
Mapleがレーザーナイフやショックガンを駆使し、ヌレカガリを倒すシーンでは一転、観客席から歓声が上がった。
そこで画面は切り替わり、テーザーガンを準備するスネーク・レイの姿に切り替わる。
「スネーク・レイが持っているのは強力な電流を流すテーザーガン。ヤツはいつも妖魔と戦う女性ヒーローの背後からコレを撃ち込んで、卑劣な犯行に及ぶのです。
しかしこの日はいつもと違った。相手がこのMapleさんだったということです!」
観客席からさらなる歓声があがる。画面では、Mapleがカメラに向かってレーザーナイフの横薙ぎの一閃を加える。
また画面が切り替わり、スネーク・レイが吹っ飛んでブースに突っ込んでいく映像が流れる。そこでMCが大きな声をあげる。
「決まったーーーー!Mapleさんの強烈な一撃!!これにより卑劣なスネーク・レイは悪行の報いを受けたのです!!」
ウオオォォ―――!!Maple!!Maple!!Maple!!
観客席から今日一番の歓声が上がり、Mapleコールが巻き起こる。
「…………あの!!」
Mapleコールの中、大きな声を上げてソファから立ち上がるカエデ。スタジオは一瞬にして静まり返る。
「ど、どうかされましたか、Mapleさん?」
「あの……なんですか、これ?おかしいっす。スネーク・レイを倒したのは師匠で…でもこれじゃ師匠はあそこにいなかったみたいで……どういうことなんすか…?」
今回スタジオで流れた映像は、もちろんヒーロー協会がスネーク・レイの動画をもとに編集したものだ。Mapleを英雄に祭り上げるため、剣一郎の出てくるシーンは全てカットし、Mapleがスネーク・レイを倒したことにしてあるというわけだ。
「あの、この動画、おかしいです、ちゃんと元の動画を…」
「はい、一度ここでCMに入ります!」
番組はCMに入り、MCがカエデをにらみつけながら言う。
「ちょっと、いい加減にしてくれるかな。台本通りにやってくれなきゃ困るよ」
「す、すみません、でも……」
「次で最後だから。自分のチャンネルの宣伝をして構わないからね、うまいことやってくれよ」
「………」
「さぁ、CMも明けて、名残惜しいけどMapleさんとはここでお別れです!Mapleさんの活躍は普段、どこに行ったら見られるのかな?」
「あ、はい、Mapleチャンネルで検索してみてください。あと…そう、最近サブチャンネルも作りましたんで、そちらもよろしくお願いします!」
「はい、本日のゲスト、Mapleさんでしたー!」
大きな拍手の中、頭を下げるカエデ。途中バタバタしたが、なんとか収録は無事に終わった。
着替えも終わり、剣一郎と合流予定のカフェに向かうカエデ。
剣一郎はコーヒーをすすりながらカエデを待っていた。
「おぅ、来たか、カエデ。店のテレビで見ておったぞ、がんばっていたな」
「はー、疲れました、師匠……しかし、なんなのあの映像…あれじゃ師匠の強さが……」
「まぁまぁ、ワシは何とも思っておらんよ。慣れないことで疲れたろう、ケーキを頼んでおいたから食べなさい」
「ありがとうございます……」
不服そうな顔をしながらケーキを食べるカエデ。少し離れたところに座っている学生が、カエデの顔を見て話している。
「ねぇねぇ、あれってそうじゃない?」
「そうだよ、さっきHERO-TIMEでてたMapleちゃんだよ!」
それに気づいたカエデが笑顔で手を振る。
「きゃー!やっぱりそうだ!」
「本物の方がかわいいね~!」
「う~ん、やっぱテレビの影響力って結構あるんすね……あ、そうだ、もしかしたらチャンネルの方もアクセス伸びてるかもしれないっすね、見てみよう」
カエデがスマホを取り出してHERO TUBEを起動する。
Mapleチャンネルのダッシュボードを確認すると、放送時から結構な数のアクセスがあったようだ。
「おーおーおー、アクセス結構伸びてるっすね。この勢いに乗って動画を投稿してかないと……んん!?」
カエデが手を止めたのは、サブチャンネルのアクセス数。
以前に投げやりにアップした、『【検証用】街道に出た雑魚を処理しただけ』という、下級妖魔を剣一郎が指弾でしとめた動画だ。
「なんすか、これ…放送直後に10万再生以上…?何が起こってるの?」
パッと見には妖魔がアワアワした挙句勝手に崩れ落ちたように見える動画。なぜこれが突然バズったのかワケが分からなかったが、コメント欄を見ると謎が解けた。
『おい、これどう見ても妖魔が勝手に崩れてるだろ?』
『違う、超スローで再生してみろ、ジジイの手から何か発射されてる』
『まさか……指弾?都市伝説でしか聞かない古の技だぞ、しかも威力がハンパじゃない』
『最初に妖魔がアワアワしてるだけかと思ったけど、コレなんかしてんのか?』
『多分、刀の柄で触手をそらしてるんだと思う、動きに無駄が無い上に速すぎて見えないんだ』
「適当に検証用ってつけた動画が……検証されてるっす……」
きっかけはカエデのテレビ出演によりアクセス数が増えたことだろうが、多くの人の目に留まったことにより、ネット上の検証班が大量に流れ込んだようだ。
検証はその動画のみにとどまらず、サブチャンネルの他の動画でも、
『全く見えないけど多分今刀を抜いたんだと思う』
『だれかこのジジイを正面から撮ってくれ』
果ては最初のバズを起こした配信中のふんどし乱入動画にまで、
『ジジイなのにマッチョすぎ、CGだろ?』
『バカ言え、この腹斜筋の美しさ、これがCGで作れるか』
などとコメントの嵐である。
「す……すごい!すごいすごい!!師匠!師匠のサブチャンネルがバズってるっすよ!!」
「お…おぉ。そうなのか?なんだかわからんが、それは、良かったな」
「やっと……やっと世界が師匠のすごさに気付き始めた……この勢いでどんどん動画をあげるっすよ!そうだ、このままヒーロー協会にライセンスの申請に行きましょう。パパッと試験を受けてライセンスを取って、一気に世界一のヒーローになっちゃいましょう!!ほら、師匠、早くして!!」
「ま、待て、まだコーヒーが……」
カエデに引きずられてヒーロー協会本部に向かう剣一郎。
本人は全く理解しないまま、状況が大きく動き始めたようだ。
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