第8話:正義の城
カエデと剣一郎が現在目的地にしているヒーロー協会の本部。
その会議室では、協会のお偉いさん達が集まって来期のプロモーション計画についての会議を行っていた。
ヒーロー協会の戦略局員が、スクリーンに映ったの広域地図を指し示す。映し出されている地図上の各エリアには、家畜の管理名簿のように妖魔の種族名と個体数が割り振られている。
「来期なんですが、フォージ・ダイナミクスから新作の熱光学兵器『フレイムランチャー』が一般販売されます。熱光学系に強いヒーローが多いのはC地区とD地区ですね」
「なるほど、そうなるとその辺りの妖魔は入れ替える必要がありそうだな」
メインでしゃべっているのは背広組だ。だが、背広を着た人物の中に、何人かローブのようなものをまとった奇妙な人物がいる。
一番上座に座っている背広の人物……ヒーロー協会の広報戦略局長……が、ローブの人物に横柄な態度で話しかける。
「おい、聞いてたか。フレイムランチャーの発売に合わせて、C・D両地区の妖魔配備を熱に弱いタイプに総入れ替えしろ。火に弱い種を意図的に集め、新型武器の威力を視聴者に見せつける。分かったな?」
「……かしこまりました。現状C・D両地区にいる妖魔は一度我々の方で回収し、熱に弱いタイプを新たに配置しましょう。いつまでに行いましょうか?」
「だまれ、化け物。いいから早くやればいいんだ。
お前たちがこの街の片隅で生存を許されているのは、我々のビジネスに利益をもたらしている間だけだってことを忘れるなよ?」
戦略局長は鼻で笑い、他の職員も追従笑いをする。
ローブを着た人物をよく見ると、人型ではあるが人間ではない。皮膚の色、頭部に生えた角、口からはみ出るほどの牙。……彼は、妖魔である。
下級妖魔は自我も持たず、人間を襲うだけの化け物だが、上級のものになると自我を持ち、人型で社会性を持つものも現れる。
彼の名前は屍。かつての妖魔大戦で妖魔王の右腕と呼ばれた策士である。
が、そんな妖魔の中でも上級中の上級である彼も、今やヒーロー協会にアゴで使われる立場に堕ちている。
妖魔王を討たれ、妖魔大戦が終結して以降、彼のような上級妖魔の生き残りは各地で迫害を受けていた。
そんな上級妖魔を拾ったのはヒーロー協会である。ヒーロー協会が彼らの保護に対して出した条件は……ヒーローと妖魔の戦い、その演出を手伝うことだった。
今や妖魔は人類全体の脅威ではない。
しかし、適度に妖魔が出てきてくれないと、ヒーロービジネスは成り立たない。
ヒーロー協会が出した結論は、下級妖魔を生み出せる上級妖魔を協会に取り込み、各地に意図的に妖魔を配置し、ヒーロー対妖魔の戦いを適度に演出することだった。
つまり、現在のHERO TUBEといったヒーロービジネスの根幹は、妖魔との癒着によって支えられているのだ。
屍は傲慢な人間の態度に腹を立てながらも、そんなイラ立ちはおくびにも出さず、笑顔で局長に答えた。
「かしこまりました!会議終了後に即着手致します」
「ふん、分かればいいんだ。……では、次の議題は?」
局長が吐き捨てるように言うと、進行係がスネーク・レイの画像をスクリーンで映し出す。
「はい、MapleというC級ヒーローから、スネーク・レイというB級ヒーローについてのタレ込みがありました」
「ふむ。内容は?」
「スネーク・レイは女性ヒーローとコラボ動画を撮る中で、女性ヒーローが妖魔に凌辱されるシーンを有料サイトで会員に売りさばいていたようです」
スクリーンには続いて、スネーク・レイのサーバーから押収した動画のサンプルが並ぶ。
「そのタレ込みの直後、スネーク・レイのサーバーからこれらの動画を押収しました。ネット上に落ちている動画についても削除済みです」
「……ったく。そんなバカはとっとと除名にしろ。タレ込んできたヒーローはなんと言った?」
「Mapleです。かけだしの女性ヒーローですね」
「そのバカの不祥事をマスコミにリークしろ。そして、Mapleを勇気ある女性ヒーローとして祭り上げるんだ。そのバカと、有料会員どもにヘイトを集め、Mapleでお祭り騒ぎを起こし、協会への批判が最小限になるようにな」
目と目の間を指でつまみ、やれやれといった表情を浮かべる局長。
その横で、押収された動画の中のひとつに、屍の目は釘付けになっていた。
「……え、動画もらえないんですか!?あ、いや、女性ヒーローの動画が欲しいんじゃないんすよ、あの日撮影してた動画、侍が戦ってるシーンの動画が欲しいんす!!」
その頃、協会のある街から少し離れた町。
カエデが道の真ん中だというのにスマホの通話で大声をあげていた。
カエデはあの日、剣一郎とスネーク・レイの戦いを見ていない。
あとから剣一郎にことの顛末を聞いたカエデは、是が非でもその日撮影された動画が欲しいと思っていた。
こともなげに話していたが、何しろ剣一郎が奥義を使ったというのだ。
それから何度頼んでも、奥義は人にひけらかすものではないと見せてくれない。カエデが奥義を見ようとするなら、どうしてもスネーク・レイとの戦闘動画が必要なのだった。
「いや、証拠品に対する規則だってのは分かりますよ。でもね、証拠になるのは女性ヒーローの動画だけじゃないすか!侍の動画は証拠じゃないじゃないすか!何とかお願いします、師匠の奥義が映ってるはずなんすよ!!」
しかし、協会の答えは規則なので渡せないの一点張り。あまりに融通がきかない役所的な対応に、とうとうカエデが根負けして電話を切った。
ずっと電話のやり取りを見ていた剣一郎が、呆れたように声をかける。
「まぁまぁ、落ち着きなさい。あまりこんな公道で大きな声をだすもんじゃない」
「だって……師匠の奥義が……私も見たかったし…サブチャンネルにあげたら絶対バズるのに……」
カエデはもう半泣き状態である。そのあまりの落ち込み具合にあたふたする剣一郎。
「分かった、分かった。何か甘いものでも食べに行こう。な?」
その時である。テレビレポーターらしき男が、カエデに駆け寄ってきて突然話しかけてきた。
「あの、もしかしてあなた、ヒーロー名Mapleさんですか?」
「え?そうですけど…」
「スネーク・レイの悪事に対して、勇気ある告発をした、Mapleさんだ!ちょっと取材のお時間頂いてもいいですか!?」
「え?え?え?」
ヒーロー協会が情報をリークしたマスコミが、カエデの周りに集まってくる。
スネーク・レイとのコラボ動画は失敗だったが、新たに有名になる道がカエデの前に広がっていた。
舞台は戻って、ヒーロー協会。
会議に参加していた妖魔たちが、会議が終わってからも集まっていた。
「……見たか、あの動画」
「あぁ、見た。大戦時に妖魔王様の最大の脅威となっていたあの侍だな」
「どういうことなんだ、大戦終結から今まで全く話を聞かなかったぞ、死んだんじゃなかったのか!?」
彼らは、スネーク・レイのサーバーの中にあった、あの日の動画…剣一郎とスネーク・レイの戦闘動画について話し合っているようだった。
「我らは妖魔王様の復活までの時間を稼ぐため、今は人間どもに頭を垂れている。現状、今いるヒーローとかいう有象無象に、妖魔王様の脅威となるようなものはいない。…しかし、あの侍が生きているとなれば、話は変わってくる」
「そうだな。ヤツは単独で妖魔王様と渡り合う可能性のある唯一の人間。年老いて戦力としては落ちているかもしれないが、油断は禁物だ」
「うむ……妖魔王様の復活は近い。だが、復活の前にヤツをしとめておいた方がいいだろうな」
人間たちが妖魔をコントロールしていると思い込んでいる一方で、妖魔の側も不穏な計画を動かしている。
現在のヒーロー協会は、その名前とは裏腹に、権謀術数がうごめく伏魔殿と化していた。
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