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第7話:奥義・絶空刃

「俺のフォロワーにはお馴染みだね、これが俺の真骨頂……スネーク・ワイヤー・システム(SWS)だ。このワイヤーは超高密度炭素繊維で編まれていて、俺の脳波と同調して——」


資材置き場に、スネーク・レイの軽薄な声が響く。自慢のガントレットから数十本の黒いワイヤーを蛇のように蠢かせ、悦に浸りながらカメラに向かって語り続けていた。


対する剣一郎は、顎に手をあて、ただ静かに立っている。その無防備とも言える姿に、スネーク・レイの口角がさらに吊り上がった。


「さぁて、この生意気なおじいちゃんをどれで黙らせてやろうか。希望があったらコメント欄で教えてね〜」


ワイヤーの先の多機能ヘッドが剣一郎の周囲を囲む。あるものは電気をまとい、あるものは毒針を持ち、と様々な機能を持っている。共通しているのは、どのヘッドの攻撃を食らっても、人間程度なら一撃で昏倒するだろうということだ。


「お、コメント欄では麻痺針が人気みたいだねぇ。じゃ、まずは麻痺と行こうか!」


スネーク・レイが麻痺針のついた多機能ヘッドを剣一郎にけしかけようとしたその時。


キンッ、キンッ!


乾いた金属が連続して響く。

剣一郎の手には、いつの間にか刀が握られている。


「——え?」


スネーク・レイが目を見開いた。空中で鎌首をもたげていたはずの多機能ヘッドが、2つほど力なく地面に落ちる。


「……何をしようとしたのか知らんが、ずいぶんと不用意にワシの間合いに入ってくるな」


「……な、何をした!?その刀で切ったというのか!?高圧縮炭素繊維のワイヤーを!?」


狼狽し、顔を真っ赤にするスネーク・レイ。自慢の装備が、彼の言う骨董品に切られたのが信じられないようだ。


「ふむ。ワシに武器を向けたということは、つまりそういうことか」


剣一郎が正眼の構えをとる。


次の瞬間、スネーク・レイが距離をとる。剣一郎の殺気に気付き、最大限の警戒体勢をとるあたり、さすがは腐ってもB級ヒーローといえる。


「な、なんだこのジジイ…今のは油断しただけだ、今度こそ食らえ!!」


まだ10本近くあるSWSが、まるで生き物のように剣一郎を襲う。

しかし、多機能ヘッドは剣一郎に近づくこともできない。あるものはワイヤーを切られ、あるものはヘッド自体を潰され、次々に地面に転がっていく。


「く、くそ、なんでこんな簡単に……しかし最後の1本が背後から襲う!」


が、背後から襲うワイヤーとヘッドを剣一郎は上体をひねって難なくかわす。


「なんだと!?だが、このワイヤーもヘッドも高圧電流が流れてる。刀で少しでも触れれば高圧電流の餌食だぜ!」


が、剣一郎は刀で触れることなく指弾でヘッドを撃ち落とす。


「な、何……高圧電流を見破ったというのか!?」


「いや、お主、全部自分で喋っておったではないか」


「……あぁ!配信の実況グセが!!」


頭を抱えるスネーク・レイを剣一郎が怪訝な顔で見る。


「なんなのだ、お主…とてもじゃないが命のやり取りをできる精神性には見えんが……

まぁよい。さすがにワシも人を殺めるつもりはない。去ね。命だけは助けてやろう」


そう言われて、スネーク・レイの表情が変わった。

ナメられた。こんな、薄汚い、古臭い、ふんどしジジイに。

先程の下卑た笑みが消え、瞳に殺意が宿っていた。


「参ったな…このおじいちゃんこんなに強いんだ……

これ、ホントは人間に使っちゃいけないんだけどね」


彼がガントレットのコンソールを操作すると、炭素繊維のワイヤーが、シュルシュルと音を立てて回収されていく。


代わりに、背負ったバックパックが赤黒く発光し、出力が上がる。


「まぁいいや、この配信は有料会員しかみてないし……特別に対妖魔用・最大出力兵装の餌食にしてあげるよ。……死んでも俺のせいにするなよ?」


スネーク・レイのバックパックから、先程よりも倍は太く、不気味な赤黒い光を放つ熱線単分子ワイヤーが展開される。本来人間に向けてはならない、殺傷と拷問に特化した、対大型妖魔用の奥の手だ。


「会員の皆さん、内緒にしてね!死ねぇ、時代遅れのふんどしジジイッ!!」


赤黒い閃光が、巨大な蛇の群れのように、全方位から剣一郎を襲う。


「む、これは……」


剣一郎は刀を収め、腰を落とす。

深く息を吸い、刀の柄に手をかけ、体を大きくひねる。


「神威天影流奥義…絶空刃」


剣一郎が凄まじい勢いで刀を抜くと、巨大な斬撃が空間を割いた。


「な……ぁっっ!?」


通常のワイヤーの5倍は頑丈な赤黒いワイヤーを苦もなく切り裂き、斬撃がスネーク・レイを襲う。

ワイヤーとアーマーに守られ、なんとか両断は避けたものの、吹っ飛ばされるスネーク・レイ。


そのままトークコーナーの撮影をしていたブースに突っ込んで行った。


「あたたた……さすがに今朝は食いすぎたか。急に動いたから脇腹が痛い」


「そんな……そんな状態で俺の最強兵装を……?」


驚愕するスネーク・レイ。ダメージでもうその場から動くことが出来ないようだった。


一方、ヌレカガリと戦闘を繰り広げていたカエデ。


レーザーナイフ、ショックガン、自分の持つあらゆる武器を動員して、とうとうヌレカガリを仕留めた。

轟音を立ててヌレカガリが倒れ伏す。


「やった!やりましたよ、スネーク・レイさん!……って、ええぇーーー!?」


自分が戦っている後ろでとんでもない事が起こっていたことにようやく気づくカエデ。

目の前には刀を抜いた剣一郎と、ブースのなかでボロボロのスネーク・レイがいた。


「なななな、なにやってんすか、師匠!!」


「おぅ、終わったか、カエデ。いや何、こやつがな……」


「大丈夫ですか!?スネーク・レイさん!!」


剣一郎を無視してスネーク・レイに駆け寄るカエデ。


「ははっ、Mapleちゃん、勝ったんだ、すごいじゃない。俺の方はかっこ悪いところ見せちゃったな……」


その時、カエデがスネーク・レイに駆け寄った衝撃でタブレット端末が地面に落ち、電源が入った。

そこに映っていたのは、スネーク・レイの有料チャンネル。女性ヒーローの悲惨なサムネイル画像がずらりと並ぶ画面だ。


「は、何これ……?」


カエデが端末を拾う。


「そ、それは……」


慌ててスネーク・レイは端末を取り戻そうとするが、剣一郎に受けたダメージで体が動かない。カエデは有料チャンネルの画面をスワイプしていく。


「これまさか……全部今までのコラボ相手……」


「おーい、カエデ。そやつがな、アレでお主を狙っておったんで、止めたんじゃ。お主の仕事相手だというのは分かっておるが、見過ごせなくてな……」


剣一郎が指さす先には、破壊されたテーザーガン。それを見てカエデは全てを理解した。


「師匠!」


「あ、いやいや、こらぼ動画?とかいうのを邪魔してしまったんなら謝る。しかしこやつが……」


「これ。見てください」


「な、これは……?」


「スネーク・レイのいままでのコラボ相手の女性ヒーローっす。妖魔に襲われて苦しむ動画を撮って、有料配信してたみたいっすね。

もし師匠が来てくれなかったら、私もテーザーガンを食らって同じように動画を撮られてたんだと思います」


「なんだと……?嫌がる婦女子に、そのような……」


剣一郎の殺気がかつてないほどに膨れ上がる。明らかに怒っている。殺気を向けられているわけではないカエデですら、少し身震いするほどだった。


「ひ、ひぃ……ッッ!」


殺気を向けられたスネーク・レイは、ヘビに睨まれたカエル状態である。…スネークなのに。


「あ、師匠、切らなくて大丈夫っすよ、そんなヤツ切ったら師匠の刀が穢れます。


この有料チャンネルを協会に報告して、私のチャンネルでもこんなことやってたって晒して、社会的に抹殺しときますんで」


「え、そ、そんな……」


キン。

カエデの方を向くスネーク・レイの目の前に、剣一郎の白刃が突きつけられる。


「よく聞け。今はカエデがこう言うゆえ命までは取らないでおいてやる。しかし、次も同じようなことをすれば……分かっておるな?」


凄まじい殺気。かつての最強の侍の姿が、そこにあった。


「あ……あ…あ…はい!!」


「よし。去ね」


「え?あ…ぁ……」


「去ねッッッ!!!」


「あ……」


その場で失禁しながら気を失うスネーク・レイ。動画を撮り始めたころの、余裕たっぷりで先輩風を吹かしていた姿はどこにもない。


「あーぁ、みっともない。なんでこんなのからのコラボ依頼を喜んじゃったのかな……」


ため息をつくカエデ。剣一郎がやさしくカエデの肩に手を置き、元気づけるように言った。


「まぁ、無事だったのだからよかったではないか。あの妖魔を倒した技はなかなか良かったぞ。今日は疲れたろう、一度宿に帰ろう」


「……ありがとうございます、師匠。そうっすね、気を取り直して、明日からがんばりましょう!」


顔を上げ、ホテルに帰る二人。その足取りは軽かった。


だが、ホテルのエントランスに辿り着いた瞬間、二人が見たのは、申し訳なさそうに、しかし断固とした表情で立っている支配人の姿だった。


「……お客様。誠に申し上げにくいのですが……本日当ホテルの朝食会場に4時間居座り、追加の調理を強要されたとか」


「……え?」


カエデが剣一郎の方を振り返るが、剣一郎は目を合わせようとしない。その横顔は、冷や汗でびっしょりだ。


「食材の供給が追いつかず、他の宿泊客から苦情が殺到しております。申し訳ございませんが、当ホテルのスムーズな運営のため、お二人は本日をもちまして出入り禁止とさせていただきます」


「……え?え?」


「お荷物はこちらにお出ししております。速やかにご退館を」


「えええぇぇぇーーー!?」


寒空の下ホテルから放り出され、剣一郎に文句を言うカエデ。


「どんだけ食い意地張ってるんですか、師匠!信じられない!」


「いや、あのびゅっふぇとやらの飯が美味すぎてな。食べ放題と聞いていたのだが……」


「それにしたって限度ってもんがあるでしょ!どうすんですか今日の宿ーーー!!」


宿を失ったカエデの声が夕暮れの空にこだまするのだった。

【第1部 毎日更新中】

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