第10話:場違いな侍
ヒーロー協会本部、入口の吹き抜けの巨大なロビー。周囲を囲む最新のデジタルサイネージには、現役ヒーローたちの華やかな広告が躍っている。
「……よし、受付っす。師匠、行きましょう!」
受付に向かっていくカエデと剣一郎。受付嬢は二人の顔を見ると、にこやかな営業スマイルを浮かべた。
「いらっしゃいませ。あ、Maple様ですね!見てましたよ〜、テレビ。本日はどのような御用件で?」
「あの、今日ってヒーロー試験は受けられますか?この、剣一郎さんが試験を受けたいんですけど……」
「かしこまりました、確認いたしますので少々お待ちください」
受付嬢は内線電話を手に取り、何事か確認しているようだ。
「……はい。そうですね、あ、本日分の枠はまだある……はい。あと、Mapleさんに。はい。承知いたしました、お伝えします」
電話を切ると、受付嬢はカエデと剣一郎に向き直り、今日一番の笑顔を作った。
「お待たせいたしました。本日、試験の枠はまだ空いておりますので、30分後に開始される試験に参加することが可能ですが、ご都合はいかがですか?」
「あ、はい、大丈夫です!それに参加させてください!」
「かしこまりました、それでしたら剣一郎様、こちらにお名前とIDのご記入をお願い致します。
それと、Maple様もお時間ございますか?」
「え、私っすか?はい、大丈夫っすけど」
「広報戦略局の方からMaple様にお話があるそうで、別室にご案内いたします」
「そ、そうですか…ホントは師匠の試験の様子を撮影したかったんだけどな……まぁいいや、師匠!」
受付のタブレットに名前を記入している剣一郎にカエデが声をかける。
「おぅ、どうした?」
「なんか分からないんですが、私広報戦略局に呼び出されてるらしいので、ちょっと行ってきます。師匠は試験を受けてきてください、後で合流しましょう」
「分かった、後でな」
受付嬢から、試験担当に引き渡され、剣一郎は試験会場に案内される。
「こちらにお座りになって少々お待ちください」
会場では、ヒーロー志望者たちが試験を受けている。彼らが身に着けているヒーロースーツに対して、剣一郎の胴着は明らかにこの会場で浮いている。
「なんだ?あのじいさん……」
「何しに来たんだよ、場違いすぎるだろ……」
少しざわつくヒーロー候補生たち。
しかし、剣一郎は全く意に介さない。
「神威剣一郎さん、3番会場にいらっしゃってください」
「む、呼ばれたか」
最初の実技試験。そこはなぜか、派手な照明が焚かれたランウェイだった。
周囲では、若手志望者たちが音楽に合わせてバク宙を決めたり、指先から火花を散らしてポーズを決めている。ランウェイの周囲には10機ほどの撮影ドローン。
試験官が剣一郎に声をかける。
「はい、次!神威剣一郎!歩いて!」
剣一郎は、何の工夫もなくスタスタと歩き出す。
本来、このランウェイの試験で見るべきは、カメラへのPRであったり、ポージングであったりといった、自分を動画素材として見た時にどのような見え方をするのか、それをどれくらい理解しているのか?といった部分だ。
しかし、剣一郎はポーズもしない。カメラも見ない。歩けと言われたから歩いただけだと言わんばかりだ。
「おいおい、なんだよ、あれ……」
「意味わかんねぇ、何したいんだよあのジジイ……」
次に待っていたのは、協会のスポンサー企業が提供する最新武器の試用試験。
「これから渡す様々な武器を使いこなし、的を破壊してください。様々な武器を使いこなし、魅力を引き出すのが現代のヒーローです」
まず渡されたのは、『自動追尾型ハンドガン』。
「……ふむ。どうしたらいいのだ、これは?」
安全装置の外し方が分からないらしい。結局、剣一郎は銃身を掴んでぶん投げ、的の中央にめり込ませた。
次に『高周波振動チェーンソー・ダガー』。
「……」
これも、どうしたら動くのか分からないようだ。スイッチを切ったまま、的を一刀両断。高周波振動がないのに見事な切り口だ。
最後はレーザージャベリン。
「……どこを持てばよいのだ。ゴテゴテと変な機械を付けおって、重心が狂っておる。これを作った者は、多勢と戦ったことが無いようだな、これではすぐに折れてしまうぞ」
剣一郎は重いジャベリンの先端を掴み、レーザーを起動せずにただの棒として力任せに標的を貫いた。標的は凄まじい衝撃音と共に粉砕されたが、周囲は呆れ返っている。
「……あーぁ、全然武器の性能を引き出せて無いじゃん。ていうか電源すら入ってない」
「でも、武器の機能を使わずに的があんなふうになるなんて、すごいんじゃないの……?」
剣一郎が(ある意味)注目を集めていたとき、カエデはヒーロー協会本部の中のとある応接室に通されていた。
豪華なソファに座るカエデ。目の前にはスーツ姿の幹部たち。
「Mapleさん。君の『スネーク・レイ事件』での勇気ある告発、素晴らしかった。
協議の結果、君のことをB級ヒーローに昇級させたいと思っている。おめでとう、これからの活躍も期待しているよ」
「えっ……! ほ、本当っすか!?で、でも本来B級に上がるには試験を受けないと…」
「確かに、試験も無いし、君のヒーロー歴からしても異例の早さではある。だが、あの勇気ある行動と、実際にヌレカガリを倒した実力を鑑みれば、何の問題も無いと思っている」
「じゃ、じゃぁホントに……」
「君には協会の新しい顔になってもらいたいと考えている。期待しているよ」
局長はカエデの新しいライセンス……B級のヒーローライセンスをその場で手渡した。
「ありがとうございます!あ、あの、一緒にいた師匠…剣一郎さんに報告しに行ってもいいっすか!?」
「ははは、構わないよ。喜びを分かち合ってくるといい」
カエデが戦略室を飛び出し、剣一郎が試験を受けている会場へ駆けつける。ちょうど、最後の模擬戦闘。協会が管理している巨大な妖魔が3体、剣一郎に襲いかかる。
「やった!最後の模擬戦闘には間に合った!!師匠、カッコいいとこ撮っちゃいますからね!!」
剣一郎は、支給された最新武器を全て放り出し、腰の刀にそっと手を添える。
最初に襲い掛かってきた妖魔の触手を刀の鞘で巻き取るようにして力の流れを変え、巨大な妖魔の体を投げ飛ばすと、吹っ飛んだ妖魔はそのままもう1体の妖魔を巻き添えにし轟音とともに地面に倒れ込んだ。
「……何?今の。妖魔が勝手に吹っ飛んだように見えたけど……」
周囲の受験者がざわざわするのを聞いて、ニヤニヤが抑えきれないカエデ。
「ガアアァ!」
残った一体が背後から襲い掛かると、剣一郎は刀を抜いて振り返り、触手をかいくぐって一突き。最小限の動きでコアを貫く。
「ウシャアァァァーーー!!!」
倒れていた2体が再び剣一郎に向かっていく。
しかし一部の触手が絡まり、フラフラした状態になっている。その間を流れるような動きですり抜けていく剣一郎。
ーーーキィン。
試験会場に鍔鳴りの音が響き渡った時には、残った妖魔2体も塵に帰っていた。
「………え、終わり?」
「…………何が起こったの?」
呆然とする試験官や受験者の中で、一人大興奮のカエデ。
「見たっすか!? 今の! 合格! 絶対合格っすよ!すげー、さすが師匠!!今回は引きの画でバッチリ撮影もできたっす、完璧っす!!」
試験を終え、興奮状態のカエデと剣一郎。剣一郎の合格発表に関しては数日後になる予定だが、カエデはもう合格だと決めつけている。
「やっぱ師匠はすごいっす!合格は間違いないとして、ランクはどうかな、B級?A級?あ、私B級ヒーローになったんすよ、師匠にはA級になってほしいけど、おそろいのB級になれたら嬉しいな~!」
「ま、まぁまぁ、落ち着きなさい。ほれ、なんか向こうで誰かお主のことを呼んどるぞ」
「あ、ホントだ……またテレビ?」
本部から出てきたカエデを、マスコミの群れが囲む。フラッシュの嵐。マイクがカエデに向けられる。
「Mapleさん!今回特例でのB級昇格、おめでとうございます!」
「えへへ、ありがとうございます!」
「何か、今後の展望や目標はありますか?」
「そうですね…今後はもっと皆さんを驚かすことができると思います、楽しみにしていてください!」
インタビューに満面の笑みで答えるカエデ。剣一郎の模擬戦闘を見てからこっち、剣一郎とヒーロー活動をする妄想でニヤニヤが止まらないのだ。
そんなカエデを目を細めて見ている剣一郎。何が何だかよく分からないが、嬉しそうな顔をしているカエデを見ていると剣一郎も嬉しくなるようだ。美味そうに煙管の煙をすう剣一郎。
「あ、すみません、館内禁煙となっております」
「お、おぅ、すまぬ……」
マスコミのフラッシュに囲まれるカエデと、ホールの端で係員に注意される剣一郎。
本人たちがどう思うかはともかく、それぞれの協会からの評価を象徴するかのような状況だった。
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