第11話:最強のE
その日の宿に入ったカエデは、早速剣一郎のヒーロー試験の模擬戦闘の動画をサブチャンネルにアップした。
「これで良し……と。あとそうそう、サブチャンネルの方も通知をオフにしとかないとっすね。オンにしてたら通知きまくって、眠れなくなっちゃうっすから!」
それから数日。思った通り模擬戦闘の動画はぐんぐん再生数を伸ばしていく。
『0.1倍速推奨。それでも抜刀が見えん』
『S級確定。おめでとうございます!』
『最強のジジイ現るwww』
コメントの盛り上がりも上々だ。
ヒーロー試験の合格発表のメールが来る当日には、再生数が100万回を超えていた。
「よしよし、さすが、分かる人には分かるんすね~。
今日の昼には合格通知のメールが届くはず。届いたらすぐにライブ配信始めて、リアルタイムメール開封っすよ!」
朝からそわそわしているカエデを、剣一郎はベランダで煙管をくゆらせながら眺めていた。
「えらく落ち着きがないな。うろうろしてないで座ったらどうだ?」
剣一郎の声もカエデの耳には入らないようだ。受験生だった剣一郎よりもカエデの方がそわそわしている…というか、剣一郎はもう試験のことなど忘れているようだ。
「……来た!」
カエデのスマホに通知が届く。件名を確認し、すぐにHaloを起動した。
「はいどーも!Mapleでーす! 皆さん、師匠の模擬戦闘動画、見てくれました!?100万再生、マジであざっす!」
カエデはスマホのカメラに向かって、満面の笑みでピースサインを送る。コメント欄は、動画の衝撃を語る視聴者のコメントが凄まじい速度で流れていた。
「で!皆さんお待ちかね、本日のメインイベントっす。さっき届いたばっかりの、ヒーロー協会からの『試験結果メール』。これ、今から皆さんの前でガチの初見開封しちゃいまーす!」
カエデはワクワクが止まらない様子で、スマホの画面をタップしよう……として指をストップする。
「おぉ~、なんか私の方が緊張するっす…ちなみにどうっすか、皆さんどんな結果だと思います?」
『タップせんのか~い!』
『S級確定だろw』
『や、さすがにそれはないんじゃないか?』
『逆に不合格だったら笑う』
視聴者の期待も最高潮。コメントが嵐のようについてくる。
「いきまーす! 私と師匠の、輝かしい未来に……開封!」
画面が開く。カエデは息を呑んで文字を追い――次の瞬間、顔面を蒼白にさせた。
件名:今回の神威剣一郎様のヒーロー試験の結果について
本文:【判定:不合格】
評価結果
・PR能力:E
カメラを意識したアクションが皆無です。このままではヒーローとして動画を作成しても伸びません。
・兵装適性:E
武器の性能を引き出すことができていません。スポンサーから提供された武器の魅力を引き出すことができないと判断します。
・戦闘能力:E
攻撃力は申し分ありませんが、戦闘の見せ場を作ることが全くできていません。このまま動画を撮影しても盛り上がりに欠けます。
以上です。またの挑戦を心からお待ちしております。
「…………は……?」
カエデの口から、魂の抜けたような声が漏れる。数秒の静寂。
「…………はあああぁぁーーー!?不合格!?しかも評価が全項目……いや、他二つはまだしも、戦闘能力までE!?」
コメント欄も炎上状態である。
『戦闘能力E?だったら現役ヒーローの大半はEだろ』
『協会の眼が節穴過ぎる』
『PR能力Eは草。 刀しか使わないもんな~』
カエデは慌てて剣一郎に確認を取る。
「ちょ……これ……師匠!試験の時どうだったんすか、ランウェイを歩きましたよね!?」
「おぉ、歩けと言われたんで歩いたな」
「……で!?」
「で、とは?」
「歩いてその……カメラに向けて刀を抜いたりしなかったすか?」
「いや。歩いただけだが」
「……で、でも、武器を使っての試験はどうだったんですか?」
「あぁ、あの、妙な銃やら棒やらを使ったやつか」
「師匠なら、どんな武器でもかっこよく使って、こう……」
「よく分からんが、的は壊したぞ」
「ほら!そうですよね!」
「他の子らは棒を光らせて的をこわしたりしていたがな。ワシはよく分からんかったんでそのまま突き込んで…」
がっくりと肩を落とすカエデ。
「それでか……」
「何かダメだったのか?」
「いやいや、それにしても!戦闘能力Eは絶対納得いかない!他がダメでも戦闘能力だけでお釣りがくるハズ!」
コメント欄も納得いかないの声で溢れかえる。
『逆に誰ならAなんだよ。出してみろよ 』
『審査員は寝てたんじゃないのか?』
「大体、動画が伸びないだの盛り上がりにかけるだの…………今この動画、世界中で100万再生されてんすよ!っていうチャンネルの状況みて言ってるんすかねぇ!?」
同意のコメントでコメント欄は祭り状態だ。
『盛り上がりに欠ける(100万再生+トレンド1位)』
『協会の伸びない予測、秒で外れてて草』
「師匠! 今からヒーロー協会に怒鳴り込みに行くっすよ!!師匠の評価がこんなに低いなんて許せない!!」
「……なんだか知らんが止めておけ。ワシは何も気にしとらんよ。カエデがそう言ってくれるのは嬉しいがな」
剣一郎は本当に何も気にしていないようだ。いつもと何も変わらず美味そうに煙管の煙を吐き出している。
「うぅ、師匠がそういうなら……」
そうはいうものの、カエデとしてはやっぱり納得いかない。
「……フォロワーの皆さん、見ててください。こうなったら、サブチャンネルだろうが師匠のすごいとこめっちゃアップしますから。私もB級の依頼を受けられるようになったし、レベルの高い妖魔をどんどん倒して、最強の侍を最高のヒーローにしましょう!」
翌日以降のMapleチャンネルの稼働は凄まじかった。
通常なら妖魔の討伐は一日で多くて2〜3回。それを4~5回こなし、速攻で動画をアップする。
もちろんそれは剣一郎のB級以上の妖魔だろうがあっさり倒す実力あってのことだが、動画編集をするカエデの執念もすさまじいものがあった。
また、フォロワー達がさらにサブチャンネルを盛り上げる。
何しろ自分達が最強と崇める侍が、協会から散々な評価を受けた上にヒーローと認められなかったのである。
配信者の熱と、フォロワーの熱。
2つがガッチリかみ合って、今は何の動画をあげてもバズるような状態になっていた。
ある日の夜。眼がバキバキの状態で動画を編集するカエデの元に、とある村の少年から一通のDMが届く。
『僕の街に、巨大な妖魔が出ています。協会に何度も連絡しましたが、近所にヒーローがおらず、誰も助けに来てくれません……神威さんなら、来てくれますか?』
「こ、コレは……」
カエデが画面を見て立ち上がる。
困っている人を助けることもできるし、剣一郎の動画の企画としても使えるし、何よりカエデ自身の僻地の住民のためにヒーローチームを作りたいという夢にも合致する。
「師匠……次の企画、決まったっす。協会が見捨てた場所で、本物のヒーローの仕事をしましょう!」
「う、うむ。……それもいいが、最近働きすぎではないか?あまり無理をしないようにな」
「はい!今日のところはこのDM返信したら終わりにします!」
眼がバキバキのままPCに向き直るカエデ。栄養ドリンクやエナジードリンクが散乱する中でキーボードを叩き続けるカエデを、剣一郎は煙管を吸いながら心配そうに見つめていた。
「……お、返信が来たようだ」
カエデが返信したDMを受け取ったのは――上級妖魔の「屍」。
「さすがだな、Maple。正義感が強いヒーローはこういうDMにすぐ反応する」
彼はオンライン会議を開き、そこに集まっている数名のヒーローに話しかけた。
「……お前らの仇のMapleが食いついた。例の村に集合だ。やつらを待ち伏せして、一気にしとめるんだ」
屍が話しているのは、かつてのスネーク・レイの手下とも言えるヒーローたち。
スネーク・レイに女性ヒーローをアテンドしたり、撮影の補助をしたり、有料チャンネルの運営を手伝っておこぼれをもらっていたヒーローたちだ。
彼らはスネーク・レイの失脚とともにメインの収入を失い、社会的な評価も大きく下げていた。逆恨みもいいところだが、彼らはカエデにどうにかして仕返ししたいと思っている。
そこに眼を付けたのが屍である。
屍は彼らに声をかけ、カエデへの仕返しのチャンスを与えた…といいつつ、もちろん屍の目的は剣一郎の抹殺だ。
「とうとうMapleに恨みを晴らすチャンスが来たな!」
「アイツ、顔だけはいいからな、めちゃくちゃエグイ動画を撮ってやるぜ」
「それをネットにさらして、Mapleも社会的に抹殺してやる」
画面の向こうのクズヒーロー達の醜く盛り上がる姿を見て屍はニヤリとする。
「ヒーロー協会から最新の装備も提供しよう。思う存分やりなさい」
クズヒーローたちから歓声があがる。
「……度し難いクズどもだな。まぁいい、侍をしとめてくれるならどんなクズでも関係ない」
剣一郎を葬るために暗躍する屍。カエデと剣一郎を狙う陰謀が動き出していた。
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