第12話:化け物二人
少年が指定した場所についたカエデと剣一郎。
静まり返った村には、DMを送ってきたであろう少年だけがいた。
「君が……DMをくれた子っすか?君だけ?他の大人たちは?」
「ここに残っているのは僕だけです。他の人たちは隣村に避難してて……僕もお二人を案内したら避難します」
「なんて勇気のある……任せて、極力早く妖魔をやっつけるっすからね!」
カエデは感極まって少し泣いている。
しかし剣一郎は少年のことを警戒した目で見ながら、その案内について行っていた。
「アレです……今は大人しいですが、暴れ出すと村の大人じゃ手が付けられなくて…」
「アイツか……よし、ここはB級ヒーローの私に任せて。師匠もここは見ててくださいっす!」
そこにいたのはB級以上でないと討伐依頼を受けられない鎧殻鬼。硬い殻と鋭い爪を持つ危険な妖魔だ。
「よっしゃぁ、やっちゃいますよ!この新装備のボルト・トンファーの威力を試してやるっす!」
「頑張ってください、Mapleさん!」
意気揚々と鎧殻鬼と戦い始めるカエデ。ここ1ヶ月ほどでカエデの動きは格段によくなった。
B級ヒーローにあがったことによる自覚と、剣一郎の戦いを真近で見ていたことが影響しているようだ。
鎧殻鬼との戦いにも、全く危なげがない。
「すごいやMapleさん!僕は1度避難します、終わったら隣村へ……」
「小僧。動くな」
剣一郎が突然、少年の首筋に刀を突きつける。
「は、なんですか……?」
「お主、気配が妙だな、何者だ?」
「な、何を言ってるのか分からないです…」
「それに、お主1人と言っていた割にこの村には何人か潜んでおるな……しかも、あまりよくない気配を放っておる」
「…………!」
「いいか、カエデは純粋にお主らを救いたいと思って今戦っておる。ワシもその気持ちを傷つけたくはない。
お主と、今村に潜んでいる者達が、このまま消えるというなら追わんでおいてやろう。だが、カエデに何かしようというなら容赦はせんぞ」
子どもは実は、屍が妖術で姿を変えたものである。クズヒーローが潜む廃村に、カエデと剣一郎を引き込む役割をしていたのだ。
屍がその場を離れた後、合図をしたら一斉に襲いかかる手はずになっていた。
(く、化け物か、この侍……全てバレている……これでは不意打ちにならない、どうするべきか……)
侍としての勘がすごすぎて、妖魔に化け物あつかいされる剣一郎。
屍は必死で、襲撃を決行すべきか中止すべきかを考えていた。
その時である。
「ヒャーハハハ、Mapleちゃーん!可愛い泣き顔を見せてねーー!!」
クズヒーロー達が、屍の合図を待たずにカエデに襲いかかる。
「は!?なんすかあんた達!?」
「あの馬鹿ども……」
屍が慌ててジャマーのスイッチを入れる。ここら一帯に電波障害を起こし、Mapleの生配信をストップするためだ。
「クッ、あ奴ら……!」
剣一郎が屍の首筋から刀を外し、カエデの方に走り出す。
「おっと……あのまま首を飛ばされるかと思ったが……あの侍があれほど動揺するとはな。よほどあの人間女が大事と見える」
そう呟いてその場から離れる屍。
「私の合図も待てない馬鹿人間共だが、意外とタイミングはよかったかも知れん。不意打ちでないと侍は倒せないと思っていたが、あの人間女を気にしながらの戦いになるのなら、もしかすると侍を倒せるかも……少しは期待しておいてやるか」
不気味な笑みを浮かべる屍。離れた場所で剣一郎達の戦いを見るようだ。
飛びかかってきた3人の攻撃をなんとかかわし、その場から距離を取るカエデ。
「なんなんすか、アンタら……」
カシュッ、カシュッ!
その背後からさらに電磁ボウガンの矢が襲いかかる。
「カエデ、止まるな!」
剣一郎の指弾が矢を撃ち落とす。
バチッ!バチチッ!
強烈な電気が空中で炸裂する。あの矢を食らっていたら、カエデはただでは済まなかったろう。そのまま妖魔に食われていたかも知れない。
「師匠!?」
「ここは囲まれている!とにかく止まるな、動き続けろ!」
「わ、分かりました!」
カエデは離れ、剣一郎は先ほどカエデに襲いかかった3人に突っ込む。
「な、なんだこのジジイ…」
「あっ、コイツもしかして……!」
動揺しているウチにあっさりと剣一郎に峰打ちでぶっ飛ばされるクズヒーローたち。
剣一郎はそのまま鎧殻鬼にむかって突っ込みつつ、先程の電磁ボウガンの矢が飛んできた方向の気配を探る。
「………あの辺りか」
「グアアァァァーッッ!!」
咆哮を上げて剣一郎に向けて巨大な爪を振り下ろす鎧殻鬼。
最小限の動きで躱し、爪を切り落とす。宙に舞い上がった爪を、鋭く踏み込んで刀の柄で吹っ飛ばす剣一郎。吹っ飛ばした先には電磁ボウガンを撃ったクズヒーローの1人がいた。
「うわぁぁぁ!」
巨大な爪に押しつぶされるクズヒーロー。その悲鳴をよそに、鎧殻鬼に次々に刀を浴びせる剣一郎。硬い殻をものともせずに、鎧殻鬼に刀傷が増えていく。
鎧殻鬼がほぼ動かなくなった時、さらなる電磁ボウガンの矢が剣一郎に放たれた。
頭を少しだけずらして矢をかわす。
矢はそのまま鎧殻鬼にささり、強烈な電流で鎧殻鬼の体が少し跳ねた。
凄まじい威力である。屍から提供された最新兵装を最大の威力でぶち込んできたのだろう。
「なんなんだ、あのジジイ、ボウガンなんだから音なんてほとんどしないハズなのに……」
ブツブツ言いながら次の矢をセットしているクズヒーローを剣一郎の指弾が襲う。
「えっ?……ぎゃぁぁぁー!!」
剣一郎に飛ばされた小石が電磁ボウガンのバッテリーを破壊し、漏電を食らって悲鳴を上げる。
一方、廃村の中を駆け抜けるカエデに、クズヒーローが2人襲いかかる。
そいつらが装備しているのは高出力レーザージャベリンとパイルバンカー。カエデが装備しているボルト・トンファーで攻撃を受けたら、なんの抵抗もなく貫かれてしまうであろう最新の兵装である。
「ふん…来ると分かってればそれなりに対応できるっす」
カエデが大きくジャンプし、空中で体を捻って2人の攻撃を躱す。と同時に、2人の首の辺りにボルト・トンファーを当てる。
2人は空中で痙攣し、地面に己の武器を突き刺して大きな爆発を起こし、そのままどこかに跳ねて行った。
「おいおい、なんだこの2人…こんな強いなんて聞いてないぞ……」
廃村にはまだ数人クズヒーローが残っていたが、もうすでに戦意は失われていた。
「こちらの実力は分かったろう!まだ続けるか!?大人しく出てくるなら命までは取らぬ!!」
剣一郎が裂帛の気合いで残りのクズヒーローに呼びかける。
その気迫に押されたクズヒーローには、すでに戦意はなかった。ぞろぞろと剣一郎の前に出てくる。
「ふむ……ひとまず戦はここまでじゃな」
刀を納める剣一郎に駆け寄ってくるカエデ。
「いやー、やっぱり凄かったっす、師匠!配信は途中で止まっちゃったすけど、私のHaloでバッチリ録画はしてあるっすからね!」
「カエデもなかなかよかったぞ、攻撃の軌道を完璧に読んでおったな」
「えー!そんな、褒めてもらえるなんて最高に嬉しいっす!……ところで、こいつらなんなんすかね?」
残りのクズヒーローは5人。誰に言われるでもなく、剣一郎とカエデの前で正座をしていた。
「ふむ。お主ら一体何者じゃ?なぜワシらを狙った?」
「そ、それは………」
「あれ、そう言えばこいつらスネーク・レイのチャンネルで見たことあるやつがチラホラいるっすね」
「何、あの卑劣な男の……」
「大方スネーク・レイを告発した私を逆恨みして襲ってきたってとこっすかね」
「なんだと、そんな、武士の風上にも置けぬ……」
剣一郎の殺気が膨れ上がる。その殺気に当てられて、すでにクズヒーローはちびりそうだ。
「そ、そうなんですけど、違うんです、確かに恨みを晴らそうとしましたけど、俺らに復讐を勧めてきたヤツがいて……」
離れて見ていた屍がため息をつく。
「なんだ、アイツら、クズ過ぎる……侍を倒せないだけならまだしも、このままじゃ私のことまで話しかねないな…仕方ない、奥の手だ」
屍が鎧殻鬼に向けて妖力を送る。
動かなかった鎧殻鬼が突如暴れだし、クズヒーローに襲いかかる。
「な、なんだ?」
「うわあぁ、助けてくれー!!」
剣一郎が作った切創から触腕が伸び、クズヒーローを飲み込んで行く。……というより、正確にはクズヒーローが身につけていた最新兵装を飲み込んでいく。
すると、鎧殻鬼にその最新兵装の特徴が現れた。電磁ボウガンを飲み込めばボウガンのように針を飛ばす触腕ができ、アーマーを飲み込めば外殻がさらに頑丈になる、といった具合だ。
鎧殻鬼はすでに、元の形をほぼ留めていなかった。
最新兵装をことごとく取り込んだ今の姿は、剣一郎を仕留められなかった場合の奥の手、もしくは仕留めた場合にクズヒーローを全員始末するための屍の奥の手だった。
「結局、クズではあの侍を仕留めることはできなかったか。ならば仕方ない、これで確実に息の根を止める」
屍はさらに妖力を送り、鎧殻鬼のパワーを上げていた。
「なんなんすかコイツ、こんな妖魔見たことない……」
「むぅ…カエデよ、下がっておれ」
剣一郎が刀の柄に手をかける。
かつての大戦でも出会ったことのない妖魔に、剣一郎はわずかに冷や汗を流していた。
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