第13話:奥義・天衝刃
「ひ、ひいいっ! 誰か助けてくれ!」
廃村に、無様な悲鳴が響き渡る。もうすっかり戦意を失ったクズヒーローたちが、顔面を蒼白にして逃げ惑っていた。
彼らの目の前では、屍の妖術によって変貌した鎧殻鬼が、彼らから奪い取った最新兵装を次々に体内へと取り込み、巨大な怪物へと変貌していた。
あるものは鎧殻鬼に取り込まれ、あるものは鎧殻鬼が取り込んだ兵装に撃ち殺され……10人以上いたクズヒーローも、もう数人しか残っていなかった。
「むぅ……これは、かなり厄介じゃな」
「師匠、気を付けてください。ヤツが取り込んだ兵装はたぶん総額で1億円を超えます。なんであんなチンピラが最新の兵装を持ってるんだろう…」
剣一郎とカエデの戦場から少し離れたところ。
「ククク……傑作だな」
廃屋の屋根の上で、屍が下卑た笑い声を上げている。
「私の妖力を受けて、鎧殼鬼は人間共の兵装の力を取り込む能力を手に入れた。
見てみろ。今の人間はあのクズヒーローのように心も体も脆弱になり、武器ばかり強くなった……
その自慢の1億の武器に、かつての最強の侍が殺されるというわけだ、こんな皮肉なことがあるか?」
高笑をあげる屍。
最新兵装を駆使する鎧殼鬼に、さすがの剣一郎も苦戦を強いられていた。
「おのれ…なにをして来るかが読めぬ」
襲ってくる鎧殻鬼の放電する爪をかわすと、その爪を刀で切りつけた。
鎧殻鬼は最新の装甲を取り込むたびにその硬度を増しており、先程は切断できた爪の関節部分も刀では容易に切れなくなっていた。
「チッ、硬いな」
そう毒づく剣一郎の背後から、電磁ボウガンの矢とレーザージャベリンが襲う。
飛び上がってかわすが、そこをさらにパイルバンカーが先端についた触腕が襲いかかってくる。
「こ……のッ!」
ガキン!
ドォン!!
パイルバンカーの本体部分を刀で殴り、なんとか体勢を変えてパイルバンカーの一撃をかわす剣一郎。
そうこうしている間にも鎧殼鬼は次々と兵装を飲み込み、パワーアップする。
それを阻止しようにも全身から放たれる電磁バリアと自動迎撃のレーザーが、剣一郎の接近を阻んでいた。
「こうなったら……懐に飛び込んで、奥義をぶち込むしかあるまい。だが、それをするには一瞬の隙がいる…これはしばらくかかりそうだ、骨が折れるな」
剣一郎の額に、一筋の汗が流れる。最新科学の壁が、剣一郎が懐に入ることを許さない。
その時だった。
「――やあああああぁぁっ!」
剣一郎の背後から、カエデが雄叫びを上げながら飛び出していった。
「カエデ!? 下がっておれと言ったはずだ!」
カエデは叫びながら、鎧殻鬼の死角へと跳んだ。
迎撃システムが反応し、無数のレーザーが彼女を襲う。カエデは左右にステップを刻み、レーザーをかわしながら鎧殼鬼に近づいていく。
「カエデ!戻りなさい、カエデ!!」
剣一郎が大声を上げながら、鎧殼鬼に切りつける。
剣一郎の斬撃への対処に鎧殼鬼のリソースが食われ、カエデへの攻撃が多少ゆるむ。
それでも攻撃がはげしいことに変わりはなかった。
カエデは致命傷に至るレーザーはかわしていたものの、肩を焼かれ、脇腹を熱線がかすめ、鮮血が舞う。だが、彼女の瞳は一瞬たりともターゲットからそれることはなかった。
「食らええええっ!」
カエデは傷を負いながらも、鎧殻鬼の唯一の生体パーツ――剥き出しになった巨大な眼球へと肉薄し、最大出力のボルト・トンファーを叩き込んだ。
バチチチィィィッ!!
「グアアァァァッ!?」
目を焼かれた鎧殻鬼が、一瞬だけ、その巨大な上体を大きく仰け反らせる。
完璧だった迎撃システムに、一瞬だけ隙が生じた。
「………今っす、師匠!」
その隙を見逃す剣一郎ではない。地を這うような低姿勢で、鎧殼鬼の体の下に潜り込む。
「カエデ、離れておれ!」
「分かりました、師匠!」
カエデは大きくジャンプして鎧殼鬼から距離を取りつつも、Haloを操作してベストポジションに配置することを忘れなかった。
剣一郎は低い姿勢のまま刀を逆手に持ち、顔を下に向けたままつぶやく。
「神威天影流奥義――天衝刃」
逆手に持った刀を返し、地面から天に向けて切り上げ、同時に剣一郎も凄まじい勢いで飛び上がる。
ドォォォォン!!
爆音と共に、鎧殻鬼の巨体が下から上に向けて真っ二つに裂けた。
裂けた間から、飛び上がった剣一郎の姿が現れる。逆手に持った刀を天に突き上げ、そのまま天に昇って行くかのようなその姿に、カエデもクズヒーローも一気に視線をひき付けられた。
総額1億の価値があると言われた特殊装甲も、最新の兵装も、剣一郎の奥義の前ではただのガラクタに過ぎず、バラバラになって吹っ飛んだ。
「な、なんだよこれ……こんなのありえねぇだろ………」
かろうじて生き残ったクズヒーローたちが、粉々になった自慢の装備を見て、その場に腰を抜かしていた。
「……む。バラバラになってしまったか。武器がいくつか残ったらカエデに使わせてやれると思ったんだがな」
刀を納める剣一郎。
最強の侍は、まだまだ余裕があるようだ。
静寂が戻った廃村で、興奮を抑えられないカエデが剣一郎のもとへ駆け寄った。
「す、すごすぎっす、師匠!今のが奥義っすか!?信じられない威力……ちゃんと撮影はできたけど、信じてもらえるのかな……?や、でも、師匠の強さを包み隠さず世の中に伝えるのが私の………」
興奮冷めやらぬカエデの肩を掴む剣一郎。
「な、なんすか……?」
「馬鹿者が。……危ないことをするでない」
カエデの傷を心配そうに見つめる剣一郎。まだ血が滴っている傷もある。
「何言ってんすか、これくらい平気っすよ!私は師匠のお荷物じゃないんすからね!あ、イタタタタ……」
戦いの緊張と奥義に対する興奮が解け、カエデの体が痛みを思い出したようだ。
「あぁ~、ほらほら。無理をするんじゃない」
「いやいや、これくらい大丈夫っす。そういえば、私たちをここに連れて来たあの子は大丈夫なんすかね……?」
屍が変装していた少年を気遣うカエデ。カエデはまだ屍の正体に気づいていないようだ。
「な、なんてジジイだ……」
廃墟の上で驚愕する屍。改めて剣一郎の理不尽なまでの強さに震えが止まらない。
「年老いて弱くなったかと思ったが、とんでもない。やはりヤツは危険過ぎる……どうにかして仕留めないと……」
慌ててその場を離れる。頭の中では剣一郎を仕留める次の手を考えているようだった。
「えっ!?あの子……妖魔だったんすか!?」
一方、剣一郎から少年の正体について聞かされたカエデ。驚きを隠せない。
「恐らくな。放つ気配が人間のものでは無かった。それに、ワシらを襲ってきたあの馬鹿どもと面識があったようだ。
姿を変えられる人型となるとかなり上位の妖魔だ。理由は分からんが、あの馬鹿どもをまとめてワシらを消そうとしたのは、あの妖魔ということじゃろうな」
「そ、そんな……スネーク・レイに続いて、また……?」
その場にへたり込むカエデ。2回連続で騙されたという衝撃と、戦闘の疲れが一気に来たようだ。
「私があんなDMに騙されて、のこのここんなところにまで来たせいで……私だけじゃなく師匠まで危険な目に……」
目にはうっすら涙を浮かべている。辺境の少年を助けたい、という気持ちを利用されたのがよほど悔しかったようだ。
「いやいや、ワシは何も気にしておらんぞ!この通り、怪我ひとつしておらんしな。それより早くお主の怪我を治療した方がいい」
慌ててカエデを慰める剣一郎。
「大丈夫っすよ、ヒーローやってたらこれくらいの傷…」
「いやいや、早く治療した方がいい、跡が残ってもいかん。そうだ、治療が終わったら何か甘いものでも食べに行こう!」
「そうやって……師匠は私が甘いもの食べたらすぐ機嫌が治る単細胞だと思って……」
「あ、甘いものではいかんか?なら何か望みを言ってみろ、ワシにできることなら何でも……」
それを聞いたカエデの目の色が変わる。
「師匠、今なんでもやってくれるって言いました?」
「お、おぅ……」
「だったら、スネーク・レイを倒した時の奥義を見せて欲しいっす!ほら、ここに鎧殼鬼の甲殻がまだあるっすから、これを試し斬りってことで!
何枚までいけるっすか?3枚?5枚重ねとかまでいけます?」
急に元気になり、鎧殼鬼の甲殻を拾い集め始めるカエデ。
「な、カエデ、奥義というのはそう簡単に見せるものでは……」
それを聞いてまたその場にへたり込むカエデ。
「そんな…師匠まで私を騙すんすか……なんでもしてくれるって言ったのに……」
目にはうっすら涙。それを見て観念したように剣一郎が声をあげる。
「あぁ、もう!わかったわかった!5枚でも10枚でも切ってやるわい!」
「やった!これで奥義の動画2本ゲットっす!」
剣一郎に見えない角度で、悪い笑顔を浮かべるカエデ。
最強の侍にも、敵わないものがあるようだ。
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