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第14話:ミューズへの招待状

「さて、と……昨日投稿した動画はどれくらい伸びてるっすかね……」


滞在先のホテルで眼を覚ましたカエデは、枕元に置いてあるスマホの画面を確認した。


「……は、え……? 嘘、うそでしょ……?」


寝ぼけ眼でスマホを手に取った彼女が目にしたのは、通知欄を埋め尽くすほどの凄まじい通知。


昨日アップした動画――剣一郎が天に向かって巨大な怪物を一刀両断する「天衝刃」の動画と、鎧殻鬼の甲殻を10枚重ねて両断した「絶空刃」の動画が投稿からわずか半日足らずで、100万再生に届こうとしていた。


「ひぇぇぇ! 師匠! 師匠起きてくださいっす! サーバーが……サーバーが爆発しそうっす!!」


隣の部屋で静かに朝の素振りをしていた剣一郎が、怪訝そうな顔で襖を開ける。


「なんじゃ、朝から騒々しい。そろそろ飯か?」


「飯どころじゃないっすよ! 見てくださいこれ! 再生数が、もう50万……いや、80万を超えたっす! コメント欄も見てください、『本物の侍だ』『ヒーロー協会は何をやってるんだ』って、お祭り騒ぎっすよ!」


カエデが震える手で差し出したスマホには、画面を埋め尽くす熱狂的なコメントが流れていた。


『これCGじゃないのか……?』

『最新兵装(笑)が刀一本でバラバラだぞ』

『このジジイがヒーローライセンス取れないって?どうなってんだ』


「やった、やっぱり分かる人には伝わるんだ…師匠、これからこのチャンネルはもっともっと大きくなりますよ!」


「うむ、そうか。それはそれとして飯を食いに行こう」


剣一郎はイマイチよく分かっていないようだが、カエデは喜びに打ち震えていた。


その後も奥義の動画の再生数はとどまることを知らず、1ヶ月近くトレンド1位に入り続けるほどだった。それに連動して、Mapleチャンネルや剣一郎のサブチャンネルの登録者数も伸び続けていた。


1ヶ月経った頃、ヒーロー協会の本部。


広報戦略局の会議が紛糾していた。不機嫌そうな顔をした幹部が営業担当に質問を投げかける。


「前回の会議で議題に上がったフレイムランチャーの売り上げが思ったほど伸びていないな。原因はなんだ?」


「代わりにボルト・トンファーなんてよく分からない武器が売れているようだが……」


汗だくになっている営業担当が、原因を報告する。


「は、それがですね…恐らくこの動画が原因ではないかと……」


スクリーンに剣一郎の動画が映し出される。


「これはあるヒーローのサブチャンネルの動画なんですが、この1ヶ月ほどトレンド1位になってます。この動画の関連動画でMapleというヒーローがボルト・トンファーを使用しておりますので、それが原因で売り上げが伸びたのかと…」


ガン!と幹部がテーブルを強くたたく。


「ボルト・トンファーの売上はどうでもいい!フレイムランチャーの売り上げが伸びていないとフォージ・ダイナミクスから苦情が来てるんだ!どういうことなのかね!?」


「は、それなんですが……このトレンド1位になっている動画がですね、スポンサーの兵装を全く使っておらず……それどころか最新兵装を取り込んだ妖魔を刀一本で切り捨てる始末でして…」


「な、なに・・・?」


「コメント欄も、ヒーローなんていらないだの、最新兵装についての批判が並んでおりまして。

フレイムランチャーだけでなく全体的に武器類の売上は下落傾向にあります。


また、この侍、以前にヒーロー試験に落ちているようなんですが、ヒーロー協会は見る目が無いといった、直接的に協会を批判するようなコメントも散見されます」


「バカな……そんなチャンネル、サッサとバンしてしまえ、理由なんてあとからどうとでも付けられるだろう!」


「それがですね、このMapleというヒーロー、スネーク・レイという裏アカウントを作っていたヒーローを告発しておりまして、協会が特例でB級に上げたヒーローなんです」


「……!あのヒーローか……!!」


「協会が祭り上げたヒーローを、協会への批判コメントが増えたからバンするとなると、これは……」


「言いたいことはわかった。対策を考えよう」


幹部連中は頭を抱える。

仮にも協会公認でB級ヒーローに上げたMapleを、コメント欄に協会への批判的なコメントが増えたからとアカウントをバンしたら、協会の陰謀論を唱えるものも出てくるだろう。


それでも構わないと無理やり潰すには、トレンド1位を1ヶ月取っているというのは、影響力が大きくなりすぎた。


現状、少なくとも今この瞬間、世論は完全に協会よりもMaple、及び侍ジジイの味方である。


「クソが……何か良い手はないのか!?」


会議に参加する人間達が、何も言えずに下を向く。


そこへ、1人だけ挙手する者がいた。


「…失礼します。少し、意見を述べてもよろしいでしょうか?」


口を開いたのは屍である。人間が口をつぐむ中、唯一口を開いたのは妖魔であった。


「なんだ?お前ごときに、何かいい手があるというのか?」


「はい、申し上げます。現在ヒーローランキング1位の、ゼウス神宮寺に、エキシビションマッチを挑ませるというのはいかがでしょう?」


エキシビションマッチとは、ヒーロー同士で行われる場合、1対1で戦う動画を撮り、それを公開することである。


ヒーローも戦闘能力が売りのひとつである以上、あのヒーローとこのヒーローはどちらが強いのか?本当に強いのか?といった議論は常にある。


ライバル関係にあるヒーローがどちらが強いか証明するため…とか、無名だが強いと評判のヒーローが有名なヒーローに噛み付いて名を上げるため…といった理由で行われるエキシビションマッチもある。


が、多くの場合、お互いのプロモーションのために見せ場を作りあいながら戦いを組み立てる、ファンサービスに過ぎない。


「なるほど…?続けてみろ」


「彼も伊達でランキング1位になったわけではありません。実力は確かです。


その彼を協会がガチガチにバックアップし…例えば、現在上がっている奥義の動画の解析結果を伝えたり、最新の兵装を与えたりした上で…大々的にエキシビションマッチを組んであの侍を倒せば、ヒーロー人気は取り戻せるはずです」


「ふむ」


「同時に、あのMapleとかいうヒーローと、侍についてのネガティブキャンペーンも展開します。そこまで露骨にはしないにしても、動画のイカサマ疑惑や、2人のスキャンダル疑惑なんかも流しましょう。

そうすれば、仮にエキシビションマッチで不慮の事故……侍の身に何かが起きて再起不能になるとか……が起きても炎上はしにくいはずです」


「なるほどな……勝てるか?ゼウスは。動画を見る限りあの侍の実力は本物だぞ」


「というより、彼で勝てなければもう個人で勝つのは無理でしょう。だったら2位や3位をぶつけるといった半端はしない方がいいかと」


「そうだな。ゼウスなら金を積めば動くだろうし……それでいこう、さっそくゼウスに連絡を取ってみろ」


その日の夜。

動画を編集しているカエデのところに、フォロワーからのDMが届く。


「ん?なんすかね、コレ。『Mapleちゃん、この動画知ってますか』……?」


DMに書いてあったのは動画のURL。何の気なしにクリックしたカエデはとんでもない動画を見る。


『ハロー、僕のミューズたち!最近話題のこの動画、見たことある?』


画面に映るランキング1位・ゼウス神宮寺の全身を包むのは、各所に配された金の装飾が目を引く、特殊繊維で織り上げられた純白のタクティカル・スーツだ。


陶器のように滑らかな肌に、一切の乱れもない金髪。最新のスキンケアと遺伝子レベルの調整によって作り上げられたその容姿は、剣一郎が刻んできた歴戦の皺とあまりに対極にある無機質な美であった。


ちなみに、ミューズというのはギリシャ神話に登場する女神の名前。ゼウス神宮寺独特のフォロワーの呼び方である。


「は……?ランキング1位のゼウスさんが師匠の動画を紹介してる…?」


『すごいよね、鎧殻鬼をこんな風にバラバラにするのは僕でもなかなか大変だよ。

この動画を見たミューズから、こんなDMをもらうんだよね。…この侍と、ゼウス様はどちらが強いですか?ってね』


カメラの前を右に左にうろうろしながら芝居がかった口調でしゃべり続ける。しゃべる内容のところどころに剣一郎を見下したようなニュアンスが見られる。


『ただまぁ~、正直合成かなとは思ってる。鎧殻鬼をバラバラにしたのも、甲殻を切ったのも、刀一本でしょ?さすがにそれはあり得ないでしょ……


とはいえ、そんなこと言ってミューズ達から逃げたと思われるのも嫌なんでね。今話題の侍に、エキシビションマッチを申し込むことにしました!』


「え…ええぇ!?ゼウスさんが!?師匠に!?」


『今回は協会を通して正式に申し込みます。僕自身も久しぶりのエキシビションなんでね、ちょっと大々的にやりたいな~と思ってます!

いつやるかはまた別で発表するんで、楽しみにしててね!お侍さん、断らないでね~』


動画はここまで。さすがはヒーローランキング1位のゼウス神宮寺である、あっさりとトレンド1位を持っていったようだ。


「や、やばいっす、師匠!現役最強の、ランキング1位の、ゼウス神宮司さんが……」


「なんだ、どうしたんだ、カエデ、少し落ち着きなさい」


ヒーロー文化を全く理解していない侍が、とうとうランキング1位のヒーローを引っ張り出したのだ。

ここから大きく、ヒーロー文化自体やヒーロー協会全体が動いていくことになる。

【第1部 毎日更新中】

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