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第15話:神の雷、妖魔の毒酒

「僕のミューズたち。僕の戦いを今日も見逃さないようにね?」


危険な妖魔が出現したため、立ち入り禁止区域に指定された、湾岸のコンテナ集積場。


ランキング1位・ゼウス神宮寺は、数台のHaloに囲まれ、どのカメラから捉えても完璧な角度で微笑んでいた。


その周囲には、十数体の「鎌鼬カマイタチ」と呼ばれる妖魔が、鋭い爪を研ぎながら包囲網を狭めている。


鎧殼鬼よりも大きく、爪はさらに鋭い。鎧殼鬼よりも明らかに格上の妖魔だ。それが、十数体。


だが、ゼウスは武器を構えるどころか、ポケットに手を突っ込んだまま一歩も動かない。


「さあ、おいで。僕の作品の一部になりたいんだろう?」


ゼウスが自らの兵装を起動する。

ブゥン……という機械的な音とともに、ゼウスの背後に眩い黄金色の円環が現れた。


アイギス・ハロー。ゼウス専用の装備だ。


次の瞬間、一斉に鎌鼬が飛びかかる。だが、爪がゼウスのスーツに触れる直前――。


――パチィィィン!!


ゼウスを起点に球体上の磁場の壁が出現した。

飛び込んだ妖魔たちは、その磁場に触れた瞬間に超高圧の電磁反発を食らい弾き飛ばされる。


「無駄だよ。アイギス……神の盾を前に、君たちは僕に触れることもできない」


間髪入れず、ゼウスが指を鳴らす。すると光の輪が僅かに震え、鎌鼬のそばに小さな電撃の球……ボルト・スフィアが現れる。


バンッ!!


ボルト・スフィアが爆ぜると、周囲に高圧電流が流れる。それを避けるように鎌鼬の一部が移動する。


「ほらほら、皆仲良くしなきゃだめだよ?」


ゼウスが指揮者のように腕を動かすと、鎌鼬の群れの周囲にボルト・スフィアが幾つも現れる。


バババババァン!!


それらが僅かな時間差をもって爆ぜていく。

電流を避けるように鎌鼬たちが右往左往し、徐々に密集していく。


「さ……これで最後だ。神の雷を食らうといい」


アイギス・ハローの光の輪が一際大きく震えると、密集した鎌鼬を取り囲むように巨大なボルト・スフィアが発生する。先程まで出てきていた球とは大きさが全く違う。


バァン!!


巨大な破裂音とともに、鎌鼬が全て感電し、動きが止まる。


「さて、トドメを刺すのはフォージ・ダイナミクスのフレイムランチャー。あの醜い妖魔達に僕が華麗にトドメを指すところを見ててくれよ!」


舞うような動きで、電撃をくらい痙攣して動けない鎌鼬の間を抜けていき、全てを焼き尽くしていく。


鎌鼬の群れの間を抜け、焼け落ちる鎌鼬を背景に光の輪を背負うゼウスは、まるで神の怒りの体現者であった。


「OK、ミューズ達!今日も僕の美しさ、目に焼き付けたかな?チャンネル登録よろしくね!!」


カメラが止まると、ゼウスをサポートするスタッフ陣がゼウスに駆け寄ってきた。


「ゼウス様!お疲れ様です!」


「これでスポンサーは満足か?炎を使うなんて下品な武器はあまり使いたくないんだけど」


「ばっちりでしたよ、最高の画が撮れました!」


「フレイムランチャーが思ったより売れてないなんてこっちは知らないよ……次は凍結系か、ブレード系の武器の案件を取ってきて」


ゼウスの女性マネージャーが、ドリンクを差し出しながら青い顔で懇願した。


「ボス、凍結系か、ブレード系の案件ですね、それはいいんですが……今日もバッテリーがギリギリでしたよ。せめて次は、もう少し大きい大容量バッテリーにしませんか?ボスが平気でも、こちらの心臓がもたない」


実際のところ、アイギス・ハローはゼウス専用装備という訳では無い。別のヒーローも使おうと思えば使える。

シールドを張ったり電撃による範囲攻撃が可能な万能兵装だ。さらに、光の輪が出たり攻撃も派手で動画映えするので、もっと流行ってもいいと言えばいい。


が、凄まじい量の電気を食うのだ。

シールドを張り続けたり、範囲攻撃を無計画に繰り出していれば、通常のバッテリーではすぐに無くなってしまう。そもそも光の輪を出しているだけでまぁまぁ電気を食っている。


通常のヒーローがアイギス・ハローで今回の鎌鼬の群れを相手にしようとすれば、それこそマイクロバスくらいのサイズのバッテリーが必要になるだろう。


身につけられるサイズのバッテリーで、鎌鼬の群れをアイギス・ハローで制圧する…鎧殻鬼よりも危険な妖魔の群れを、最小限の防御と精密かつ的確な電撃で動きをコントロールする、精密機械のような立ち回りが要求される戦い方だ…そんなことができるゼウスもまた、化け物の類である。故に、アイギス・ハローは実質的にゼウスの専用装備なのだ。


ゼウスは汗一つかいていない顔で、マネージャーの心配を一蹴した。


「……バッテリーが最後までもつのはちゃんと計算してたよ。ギリギリだったけど、それも計算通り。それに、大きいバッテリーを背負ったら不格好だろう?これくらいのサイズが、僕のカッコ良さを保てる上限なんだよね」


ゼウスはドリンクを飲みながら、キンキラのヒーロースーツの下にある平たいバックパックに入ったバッテリーをマネージャーに見せた。


「しかし、もし万が一、計算が狂ったら……」


「狂わない。それが僕だ。それより早く着替えてシャワーを浴びたいね」


鼻を鳴らして移動用のトレーラーに戻るゼウス。


シャワーを浴び、ローブを着てトレーラー内のソファに座ると、部屋の隅に男が立っているのに気付く。


「おっと、何者だい?サインは後にして欲しいんだがな」


「私の名前は屍。ヒーロー協会から派遣されてきました、戦略顧問です」


「はぁ?戦略顧問?」


「えぇ、例の侍とのエキシビションマッチの……」


とたんにゼウスが不機嫌になり、シャワー後に飲もうとしていたドリンクのグラスを屍に向かって投げつける。


「なんだ、どういうつもりだ!?協会は僕をバカにしてるのか!?

確かに、協会が金を出すというからエキシビションマッチは受けた。だが戦略だなんだと面倒を見てもらうつもりはないぞ、僕は僕の力で勝つ!」


「あなたの力を見くびっているつもりはありません。しかし、あの侍の力を過小評価するわけにもいかない。送った動画は見ていただけましたか?」


「見たよ!あの奥義の動画だろ?僕の動画では合成なんて言ったけど、あれは間違いなく本物だ。そのつもりでしっかり対策も立ててる!」


「さすがだ、素晴らしい。しかし、あの侍の強さは奥義のような大技だけでは無いんですよ。協会のAIに、あなたの戦績とあの侍の今までの動画を読み込ませたところ……」


屍が手に持っていたタブレットの画面を見せる。そこに表示されたゼウスの勝率は……67パーセント。


「バカな……あんなジジイと戦った時の勝率が、7割に届かないだって……?」


「さらに言えば、これは今までの動画で侍が全ての技を見せたという前提での数字です。まだ隠している奥義があったりすれば……」


「うるさいうるさい!そんなわけない、AIのミスだ!!」


「もちろん、協会としてもゼウスさんの勝利を疑っているワケではありません。しかし、より確実な勝利を、あなたのミューズのために目指すべきだとは思いませんか?」


「……………」


不機嫌そうに爪を噛みながらイライラした顔をするゼウス。

次のスケジュールの打ち合わせに来たマネージャーが、そのあまりの剣幕にトレーラーの入口で立ちすくんだほどだ。


「…分かった。協会は何をしてくれるんだ?」


「対策は二つ。一つは、このガントレット型の装備、フルグルを付けてください。これでヤツの刀を受ければ、高周波振動で刀を破壊することができる……そのために特化した装備です。もちろん、デザインもゼウスさん好みにしましたよ。

……そしてもう一つ。あなたの美学を守りつつの特別措置です」


屍は、エキシビションマッチが予定されている特設ステージの見取り図をタブレットで示した。


「会場の床下に、大容量のワイヤレス給電システムを仕込み、いくつか給電ポイントを作ります。ここ、ここ、ここ。……このポイントで給電し続ける限り、あなたはシルエットを崩すような不細工なバッテリーを背負うことなく、文字通りの全能の神になれる」


ゼウスは満足そうに口角を上げた。


「……いいね。今のままでも負けるつもりは無いが、そこまでやってくれるなら確実だ。せいぜい僕の方でも、対決を盛り上げておくことにするよ」


ゼウスと屍の笑い声がトレーラーの中に響く。ゼウスのマネージャーは、ひきつった笑いで二人を見守ることしかできなかった。

【第1部 毎日更新中】

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