第19話:神威天影流
「ウガアアアァァァーー!!」
ゼウスの血液と、地中からの電気を吸って巨大になった妖魔は、フィールドで無差別な放電をしながら暴れ回っていた。
「むぅ、まずいな…」
剣一郎が電撃をかわしつつ地面に突き刺さった触手を切る。しかし、すぐに再生してキリがない。
「カエデ、カエデはおるか!」
「はい、師匠!」
「この会場内におるものを守りながら避難させよ!こやつはワシがなんとか食い止める!」
「分かりました!」
自分の武器を掴んで駆け出すカエデ……の目に、ゼウス側のセコンド席が飛び込んできた。
「た、大変だ、ボスがあんなことに!」
「ど、どうしよう、どうしたら……」
「え、えらいこっちゃ……」
右往左往するばかりのゼウスのセコンド陣。
カエデはイラッとしてショックガンをセコンド席に撃ち込んだ。
バンッ!
「うわ、なんだ!?」
「ほら、アンタらもっすよ!観客の避難誘導に当たるっす!!」
フィールドは最早地獄絵図であった。
観客席だろうが、貴賓席だろうが、妖魔は関係なく電撃を浴びせる。
逃げ回る人々の逃げる先に電撃が落ちたり追いかけるように電撃が落ちたり。
電撃を食らって倒れる人も多いが、混乱して他人とぶつかって倒れる人も多い。
「あぁ、ゼウス様、ゼウス様ぁ!」
「うるせぇな、どけよ!」
混乱を極める観客席に、妖魔が電撃を打ち込む。
バチィン!!
それを観客の前に躍り出て、電磁シールドで受けるカエデ。
「さぁ、早く!電撃はできるだけ私が受け止めるっすから、ひとまず早く会場の外へ!」
協会の職員と連携しながら観客を誘導するカエデ。
ある程度冷静さを取り戻したゼウスのセコンド陣も、避難誘導に当たっていた。
観客席に放電しようとする触手を剣一郎が指弾で逸らす。触手を切ってバランスを崩させ、放電を外させる。
それでも逸らしきれない場合はカエデが電磁シールドで受ける。
この師弟のコンビネーションは完璧だった。
ある程度電撃の脅威がおさえられ、観客も落ち着きを取り戻す。少しずつ避難がスムーズに行くようになっていた。
その時である。
スムーズに流れるようになった避難の流れに、明らかに逆らうようにフィールドに向かう人影があった。
「ちょちょちょちょ………」
カエデがその人影を抱きとめる。
「ボス!どうしちゃったんですか、ボス!!」
人影はゼウスのマネージャーだった。変わり果てたゼウスの姿に、半狂乱になってフィールドに入ろうとする。
「お、落ち着いてくださいっす!」
「ボスが……あんな姿に……なんであんなことに……ボス!ボーース!!」
「落ち着いて!!あなたが今行っても死ぬだけっす!!」
カエデがマネージャーの両肩を持ちながら大声で諭す。マネージャーが少し落ち着きを取り戻し、ハラハラと涙を流す。
「ボスが……あんなにいい顔になってたのに……また1から再出発だと思ったのに……」
「あなた、ゼウスさんのマネージャーさんっすよね?ちょっとお願いしたいことがあるっす」
カエデは避難誘導をしながらずっと考えていた。
ゼウスのバッテリーを回復させた無線給電ポイント。今、触手が地面に突き刺さって、妖魔が無尽蔵に電撃を撃っていること。
なぜかは分からないが、とにかく会場のフィールドの地面の下に電力が供給されているのは間違いないようだ。
今、あの妖魔は剣一郎が切りつけてもすぐに復活している。剣一郎が負けることは無いだろうが、その電力供給をとめないことには、いつまでたってもあの妖魔を倒すことができない。
「いいっすか、この会場に電気を供給する機械がどこかにあるはずっす。それを見つけ出して止めて欲しいんす。止められれば、あの妖魔は師匠がなんとかしてくれます!」
そう言われたマネージャーの脳裏に、とある光景が思い出される。
ゼウスのもとに屍が来た時。給電ポイントの説明をする時に見せていた図面。
いくつかある給電ポイントに向かって電線が伸びていたが、それの元を辿っていくと……
「地下一階の……西側の階段裏………」
「え、なんすか?そこに機械があるんすか!?なんで知って……ま、まぁいいっす。もう少し避難が落ち着いたら私もそこに向かいますけど、先にいってそこに機械があったら止めてください!」
カエデは自分のショックガンをマネージャーに渡す。
「最悪、これでぶっ壊してでも止めてください!私は避難誘導に戻ります、頼んだっすよ!」
そう言ってカエデは会場の方に駆け出していく。
マネージャーはショックガンをつかんでフラフラと地下一階に向かっていった。
フラフラ、よたよたと歩くマネージャー。
「ボス…なんであんなことに……」
ブツブツつぶやきながら地下一階を歩いていく。そのあたりは避難経路から外れているので、他に人はおらず、静かなものだ。
西側の階段スペースにたどり着く。
階段の裏に扉があり、中から機械音が響いていた。
ゆっくりと扉を開ける。そこには突貫工事で取り付けられたであろう、もとの電気ケーブルから分岐を取る機械と、フィールドの方に伸びていくケーブルが設置されていた。
「これが……ボスを苦しめてるのね……」
マネージャーが分岐の機械にショックガンを向ける。彼女は銃を撃ったことが無い。その手は微かに震えていた。
「……ったく、面倒な……」
震えるマネージャーの後ろでそう毒づくのは、屍である。
フラフラと歩くマネージャーを見かけて、不審に思い、ついて来るとまさかの事態に遭遇したのだ。
「悪いがここで死んでもらおうか…それを壊されるワケにはいかないんでね」
マネージャーを背後から鋭い爪で一突きにしようとした、その時。
「あれ、まだ人が残ってたっすか?ここも危ないっす、早く避難してください!」
避難誘導を終えたカエデが駆けつけ、屍に声をかける。屍は慌ててフードを深く被った。
「あれ、君は……?私にDMをくれた、あの村の……?」
カエデが近づきながらそう呟く。屍はビクリとした。スネーク・レイの手下のクズヒーローが潜む廃村に子どもの姿で誘導したのが屍だ。その時と同じ気配を、カエデは今の屍から感じかけている。
「…って、そんなワケ無いっすね。大人の方ですし……」
「す、すみません、ちょっと迷ってしまって…出口はあっちですね」
慌ててその場を離れる屍。カエデもレベルアップしているようだ、これから油断できない存在になっていくかも知れない。
バンッ!バンッ!!
ショックガンの銃声が鳴り響く。カエデが部屋の中を覗くと、マネージャーが分岐の機械を破壊していた。
「はぁ、はぁ………」
「おぉ、やったっすね!これであとは師匠がなんとかしてくれるっす!」
「ボ、ボスは……コレでボスは助かりますか………?」
「絶対大丈夫っす!私の師匠は、超強くて、超カッコいいっすから!!」
フィールドで戦っている剣一郎。
「む……?触手の再生が遅くなったような……」
そこへ、カエデとマネージャーが走って戻ってくる。
「師匠!触手への電力供給を止めたっす!あとは師匠がそいつをぶっ飛ばしてくれれば、もう復活することはないっす!!」
「……そうか。よくやったな、カエデ」
剣一郎が大きく深呼吸をし、刀を下段に構える。向かい合う妖魔は再生能力が落ちたとはいえ、まだまだ巨大だ。
「だ、大丈夫なんですか……?あんな、大きい相手に……」
「大丈夫っす、大丈夫っす!まぁ、安心して見ててください!」
剣一郎の気迫に、フィールド内の空気がピリリとする。
「神威天影流奥義、裂交刃」
下段の構えから、地を走る斬撃を2つ飛ばす。
その斬撃は妖魔から伸びる1番太い触手が地面に刺さっているところで交差し、大きく爆ぜる。
「ガアァッ!?」
バランスを崩す妖魔。その隙に剣一郎は一気に距離を詰め、触手に持ち上げられたゼウスのほぼ真下に入った。
「神威天影流奥義、天衝刃」
脇差を逆手に持った剣一郎が、ゼウスに向かって飛び上がる。途中で剣一郎を叩き落とそうとする触手を全て切りながら、最後はゼウスのバックパックから伸びている触手を根元から切り離した。
「シャアァーー!!」
切り離された触手達は、再びゼウスを取り込もうとする。
空中にいる剣一郎はいつの間にか脇差を鞘に収めていた。
「神威天影流奥義、絶空刃・八重」
空中で抜刀し、そのまま縦横無尽に脇差を振る。
スネーク・レイを倒したものよりサイズは小さいが、8連の斬撃が触手に向かって飛んでいく。
それら全てが、ゼウスを取り込もうとする触手を切り裂いていった。
「グガアァァーー!」
次々に塵に帰っていく触手達。
「す、すげーー!!さすがっす、すごすぎっす、師匠!!!」
「あ、でも、ボスのバックパックにまだ少し妖魔が……」
このままほっておけば、再びゼウスから吸血して巨大化するだろう。電力が切れているのでさほどの脅威では無いかもしれないが、恐らくゼウスの体がもたない。
先に着地した剣一郎が、落下してくるゼウスに向かって突きの構えをとる。
「あ、そんな、ボスに何を……」
慌てるマネージャーを尻目に、剣一郎は呟いた。
「神威天影流奥義、崩影刃」
ゼウスの背中の触手に向けて鋭い突きを繰り出す。
他の奥義に比べて派手な動きは無いが、崩影刃は突き込んだ刀に気を送り込み、敵を内部から破壊する技だ。
剣一郎が突きを放ち、脇差はゼウスのバックパックのみに正確に刺さった。
「破ッッ!!」
それと同時に、剣一郎が気を送り込む。
「ギャァァァァ!!」
バァァン!!!
すさまじい気を送り込まれた妖魔が爆裂した。
「あ、すごい、妖魔が……でもボスが……!」
妖魔が爆裂した衝撃で、再びゼウスの体が空中に舞い上がる。
このままでは、地面に叩きつけられて大怪我だ。
次の瞬間、カエデがフィールドに飛び出していた。
ドォン!
吹っ飛ばされたゼウスの落下点に入り、受け止める。
「あいたたた……でも無事みたいで良かったっす」
「おぅ、カエデ、よくやったぞ」
「もう、師匠!吹っ飛ばすならそのあとのことも考えてくれないと!」
「はは、すまんすまん。さすがに奥義4連発は腰にきてな」
あの凄まじい戦いのあとで軽口を叩く2人。とてつもない実力と信頼感である。
その時、ゼウスがカエデの腕の中で目を覚ました。
「う、う……なにが、どうなって……?」
「あ、気が付いたっすか、良かった!」
カエデがゼウスに満面の笑みを向ける。
「え……君は……?」
カエデの笑顔に吸い込まれそうになっているゼウスにマネージャーとセコンド陣が飛びかかる。
「ボスーー!」
「ボス!良かったーー!!」
「早く病院に行きましょう、救急車の手配を……」
もみくちゃにされるゼウスを見て、剣一郎が笑いながらため息をつく。
「ひとまずは、終わったようじゃな」
ボロボロになったフィールドで、マネージャーとセコンド陣の歓喜の声が響き渡っていた。




